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征伐編 18話


 見晴らしの良い高台から、こちらへと進軍を続ける敵陣を観察する。…数は目測で凡そ2500程度になると報告を受けており、その数に見合った陣が街道に展開済み。前線と後方部隊がキッチリと分かれており、動きからも練度が高いことが伺える。等間隔に掲げられた巨大な紫色の旗から、フォマティクスの勢力であることは明らかだ。


 「来たか…それも、かなりの大所帯で。…確実に物量で潰すつもりだな」


 自然と額から汗が流れ出てくる。…これが冷や汗ってやつだろうか。経験したくもなかったことだが。


 自分の判断ひとつで、多くの命が消えるだろう。にもかかわらず、大事な局面とは往々にして誰かが正解を教えてくれることはない。今回も例に漏れず。


 「俺にできるだろうか…」


 少し弱気になってしまう。だが…


 「いや、そうじゃないな…」


 メイス・フラノールで領主のバトーからもらった言葉を思い出す。


 考えることを諦めるな。


 「……考え抜き、行動しなければ最善とは言えない。崖っぷちだからこそ。こんな時だからこそ。どんなに稚拙でも、どんなにカッコ悪くても、俺は、俺にできることを。そして、どんな状況でも考えることを諦めない。これが、仲間の命を預かるということだ」


 どうせ せめて だろう しょせん どっち道 不本意 結局…


 そんな言葉を頭から必死に追い出すため、頬を強く、パンパンと叩いて気合を入れた。


 気持ちを改め、町の外へ展開した陣まで歩く。


 民間人や商人は避難させた。普段は賑わっている大通りは、未だに残っている冒険者か自警団だけだ。


 冒険者ギルドの前では、ギルドマスターを務めるオーパスが何やら人を集めて大声で叫んでいた


 「お前らぁ!俺たちは冒険者であると同時に、この町の住民だってなぁ!!町の外には『偶然』俺らの住所を狙う『盗賊』たちが出没している!『冒険者ギルド』としては『盗賊』の討伐も立派な仕事だぁ!この仕事は俺様のポケットマネーからボーナスだってだしたらぁ!威勢のいい奴はこの仕事を受けろってなぁ!!」


 話を聞いている冒険者たちも『盗賊』の討伐に乗り気なようで、それぞれに武器を掲げていた。


 オーパスは通りすがる俺を見かけると、男気溢れるウィンクとサムズアップをしてくる


 冒険者ギルドは国家間での『争い』には不介入だ。


 フォマティクスの連中を『盗賊』という体裁で『討伐依頼』を出すのか。物は言いようだが、正直、ギルド側の受け取り方は難しいだろう。方便としてすら通らないかもしれない。彼は、それでも自らの立場が悪くなることを承知で、強行している。この町を守るために、彼もできることを精一杯やっているんだ。


 (やり方はむちゃくちゃだが…オーパスらしいな)


 自然と笑みがこぼれた。


 いつだって大切な人たちから力を貰っているって、実感するよね。



 野営地に到着すると、カルミアたちが待っててくれた。もちろん全員、フル装備だ。


 カルミアが野営の幕を上げて、急ごしらえで作った作戦室に迎え入れてくれる


 「…サトル、みんな集まっている」


 「あぁ、いよいよだ」


 テントの中は作戦室に相応しい机と現状の勢力を示す地図が配置されている。今からここで、皆に作戦を伝えるのだ。


 「皆、集まったようだね。それじゃ作戦を説明するよ。フォノスは周囲に怪しい者が居ないか見張りを頼む。会議中に抜け出す人も注意して」


 「もちろんさ、お兄さん」


 影のように消える彼を見送り、改めて見渡して説明を始める


 「まず、兵力だけど圧倒的に敵が上だ。その差は10倍近くで、普通に戦ったなら物量で押しつぶされて終わりだ」


 息を吞むような声がどこからか響く。


 「そこで、街道に広く展開された敵のルートを大きく三分割させる」


 自警団の幹部が質問を入れた


 「街道は大きく広がっています。どうやって分割するのですか。それにどのような意味が?」


 「あぁ、このままじゃ広い地形を利用されて、自由に動き回られる。そして数で囲まれる。まずは敵のやりづらい『地形』を作る。方法は……イミスのエクスタミネーターを使う」


 「な…」


 町を守る外壁を媒体に使った超大型ゴーレム。生成は早いが解体は遅いという欠点がある。そして、一度生成すれば外壁は当然消える。


 「まず、開戦時、すぐにエクスタミネーターを使って、大岩を敵陣に投擲する。対処を遅らせるために、最初の一発だけは敵陣のど真ん中に落とす。以降は町に続く道なりを等間隔で隔てるように投擲し、歩兵が町に到達するための道を物理的に三分割させるんだ。当然隙間はできるし、進軍を完全に遮断できるものじゃない。これの目的は、陣を思い通りに展開させないための『狭い道』を複数作ることにある」


 自警団の幹部は納得したようにうなずいた


 「なるほど、広い地形に、簡単には取り除けない大岩などの障害物を落とす。それによって、敵がこちらを囲い込むような戦術を取れなくする。目的は…」


 「そう、少数対少数の戦闘を可能な限り構築するためだ。狭い空間を作り、誘い出して攻撃することを前提に立ちまわることになる。縦に展開し同時に、相手弓兵や魔道兵からの攻撃を阻害する。相手としては同士討ちすることになるから、安易に遠距離攻撃は打てないはずだ」


 また一人、別の自警団の幹部から質問があがる


 「少数対少数で戦うことは分かりました。ですが兵力の質の問題があります。仮にこの陣が有効だったとしても、デオスフィアを着用した部隊をぶつけられては、陣形の維持ができなくなるからです。最新式の武具を提供いただきましたが、それでも長期戦になれば我々に軍配があがるかどうか」


 「あぁ、そこなんだけど…」


 俺は腰に下げたルールブックを取り出し、皆に見えるように掲げた


 「君たち、自警団全員、これからクラスチェンジをしてもらおうと思っている」


 これが、俺の切り札のひとつだ。


 

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