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征伐編 16話


 自警団の一人を説得後、彼は俺との出来事を口頭で波及させ、瞬く間に噂が広がった。『領主のサトル様は最大限の敬意で自警団に接してくれた』だとか『支給された武具やポーションは伝説級』だとか、そういった類の噂で、やや誇張され広まっている気がしないでもない。…いくらなんでも伝説は言い過ぎでは…!?


 その噂を裏付けるように、高品質なゴーレム性武具と怪しい色のポーションが各員に配られると、いよいよもって真実味を帯びてくるようで、リンドウを筆頭に竜人のみで構成された自警団に入隊をしたいという冒険者が爆発的に増えた。大きな戦前では異例の事態と言っても良いだろう。アイテムが目当てなのかもしれないが、思ってもみなかった形で冒険者たちの協力が得られそうだ。


 問題は、リンドウが管理しきれないほどの希望者が殺到しているということ。


 だが入団の希望者を無条件で追い出すのは大変よろしくない。ということで、リンドウには悪いがルーチンの訓練リソースを一旦面接に回してもらっている。…『戦争の最終調整が遅れました!もう!』という彼女の膨れっ面が想像できるが、あとでごめんなさいをする予定だ。


 お出かけ用の帽子を被り、執務室から出て大通りの様子を確認する。


 いつも通り、人がたくさんで戦争前の活気とは思えない。むしろ冒険者が増え続けているような気が…


 道行く人の話題は戦争と自警団の話題ばかりだ。その話の中で、奴らの前線が近くまで来ているとか、昨晩、斥候らしき者が町の外まで来ていたとか、そんな話題が飛び交っている。


 (フォマティクスの前線とぶつかるまで数日といったところか)


 フォノスの話では、前線が沼地を突破し街道に入ったという情報が今朝あった。もう殆ど時間がない。やれることは全てやったので、今日はサリーのポーション作成のお手伝いをする予定だ。


 ということでサリーが根城にしている店にまで足を運んだのだが…


 「相変わらず強烈な香りだな……」


 サリーのために建てた錬金術店は大通りにある。近くを通ると薬草っぽい香りが漂っているので、店が近くなってくると匂いでわかるのだ。


 店の前では黒いローブを纏った女性がホウキで掃除していた。金色の髪で目元が隠れてて、大人しそうな印象の子だ。


 (たしか…あの子はリバーという名前だったか。ヘルゲと同じく、サリヴォルから任されたエルフっ子で、ソード・ノヴァエラには錬金術の勉強に来ているはずだ。住民に避難勧告は済んでいるけど、ヘルゲと同じでここから離れようとしないんだよな…)


 「こんにちは。たしかリバーさんだったよね」


 「へぁ!?」


 近寄って挨拶すると、ビックリさせちゃったのか数歩後ずさりして、ホウキを抱きしめつつこちらの様子を伺っている。目元が隠れていても動作で驚かせちゃったのは分かる。


 (あっそうだった。帽子取らなきゃ…)


 帽子を脱いで改めて挨拶をする


 「あ、ごめんね。俺はサトル。サリヴォルさんとの挨拶以来だよね。今日は、サリーの様子を見に来たんだけど……彼女は店の中にいる?」


 「え、あっはい…!そのぅ…店の中にいます……でも、今はやめていたほうが……」


 「大丈夫だよ。事前に行くことは伝えているからね」


 「え…そうなんですか……わかりました」


 彼女はホウキを抱えたままトテトテと店の入り口まで走って、小さな声で呼ぶ


 「し、師匠……サトル様が、お越しです…!」


 『フーーーーム』『ゴブゴブ』


 「し、師匠……」


 『フーーーーーーーム』『ゴブゴブ』


 だが店の中からは変な唸り声しか聞こえない。


 もしかしたらポーション制作でサリーが参ってしまったのかも。彼女にもだいぶ無理をさせちゃっているからな…


 これはきっと、彼女の悲鳴に違いない?


 「さ、サリーさん!?大丈夫か!何かあったの!?」


 俺は慌ててリバーの後ろまで駆け寄って、店の中を確認する


 「フーーーム。もうちょっと右かナ。もうちょっと右に体を寄せて、格好良いポーズをとってみてヨ」


 「ゴブ…」


 「そーー!そそそそ!いいネ!キレてるヨ!キレてるヨ!肩にでっかいドラゴン乗せてんのかーイ!」


 「ゴブ…」「ゴブゴブ…」


 なんと、店の中は、ボディービル選手権のようなスペースが作られていた。その小さな会場?スペースに筋肉質なゴブリンたちを並べ、サリーが何やらメガホンで叫んでいる。ゴブリンはライトアップされ、派手なポージングをキメている。彼らの腰には謎の番号まで割り振りされてて本格的だった。


サリーはスケッチブックに彼らのキレてるポージングの雄姿を素早く書き込んでは唸っていたのだ。自警団に納品するポーションは、会場のスペース作りには邪魔だったのか隅に雑に追いやられている。貴重なポーションなのに…なんて扱いだ!


 「フーーーム!3番のゴブ太郎と、4番のゴブ次郎が決勝!他は下がっテ!」「ゴブ…」「ゴブゴブ」


 ゴブリン選手権を執り仕切る彼女の眼差しは真剣そのもので、俺たちの存在に気が付いていないようだ。


 (ポーション作ってたんじゃなかったのかよ。ていうかポーション作れよ!なんだよそれ!)


 「サリーさん…何をしてるんだか、まったく」


 声をかけようとすると、リバーが前に出て頭を下げる


 「あ、あのあの…サトル様、本当にごめんなさい!師匠はいつもこんな感じで…きっとこれには何か意味が…ある…と、思い…ます……」


 発言に自信がないのか言葉が萎んでいく


(いや、意味なんてないだろう…)


 なぜかリバーが謝罪モードだ。


 どうやら俺を怒らせちゃったのかと勘違いしているようで…


 俺からすれば、怒りなんてとんでもない。リバーに向ける感情はむしろ同情に近い。彼女の方が被害者だろう。サリーの弟子とはいえ、毎日こんなのに付き合うことになるなんて!!


 「リバーさんは何も悪くないよ。サリーが変なのは今に始まったことじゃないさ。俺が声掛けするよ」


 「……!わたし、頑張って師匠の目を覚まさせてきます!」


 リバーはホウキを横に立てかけ、グっと両手に力を入れて気合を出す。そのままサリーのところへ向かうと監督モードになったサリーを力いっぱいに揺さぶる。


 「し…しょう!…おきゃくさん…です…!!っえい…!っえい…!」


 リバーが華奢なせいか、彼女の姿勢はそこまで揺れない。


 「ふっふっふ。弟子よ。私の座に収まりたくば、もう少し筋力をつけるのだヨ」


 「…えい!えい!」


 「ぐぬぬぬぬ!まだまだァ!」


 「ううう~!えい!」


 「ぐぬぬぬぬうーン!」


 リバーが頑張ってサリーを揺さぶっている。彼女も踏ん張って耐えている。ゴブリンはポージングを続けている。


 俺は今、何を見せられているのだろうか。


 (帰っていいかな?)


 イミスの手伝いに回ったほうが建設的な気がしてきたぞ。


 「もう…!今日のお昼ごはん…つくってあげませんから…ね!」


 実力行使を諦めたリバーはお昼ご飯を人質に取った。


 サリーが驚愕して、メガホンを落とす。よほどリバーのお昼ご飯が楽しみだったようだ。


 「なん……だと…!きさま!鬼か!鬼なのカ!どれほど楽しみだったと思っているノ!」


 「…エルフです!楽しみにしてくれて、わたしもうれしい…です」


 「っく…新たなゴブリンの可能性。そして煌めきを失っタ」


 「…意味が分かりません。サトル様がお待ち…です」


 サリーは俺の姿を認めると、目を泳がせてポーション作りに戻る。


 「あ……。ア~~。今日はいそがしいナー。ハーなんていそがしい日ダー♪」


 彼女が指を鳴らすとゴブリンたちが会場の片づけを始めた。


 隠ぺいするにしても、もうちょっと頑張ってしてほしいものだ。


 「おやおや、サトルじゃないカ!いらっしゃイ!」


 ビシっと片手をあげて決め顔を作るサリー。顔が可愛くて許したくなるが俺は鋼の精神力で耐える。


 「何してたの?」


 「今日はいそがしいナー。ハーなんていそがしい日ダー♪」


 「ゴブリンに何か怪しい儀式をしていたみたいだけど」


 「ハハハー。お客さん、からかうのもそれくらいにしておいテ」


 「…」


 「…」


 「ごめんなさイ」


 そこからは、三人で分担し、サリーのポーション作成を夜まで続けた。


 リバーのご飯が絶品で、サリーの胃袋をガッチリつかんでいる理由が分かった気がする。


 その日は錬金術店で寝泊まりすることを決めると、サリーは特に喜んでいた。


 ちなみにサリーは俺が向かうことを聞いてから、ゴブリンの会場を作り始めたらしい。


 彼女なりに心配をかけさせたくなかった、何等かの配慮だったのかもしれない。



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