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征伐編 14話


 搭載型ゴーレムの起動テストは予想以上の結果だった。ゴーレムが使用する剣と弓、それぞれが規格外な強さを誇っており、対人にはややオーバースペックな印象だったが……。元々対人を想定していただけに、うれしい?誤算なのだが……なのだが、正直、あれを戦に出すのを躊躇してしまう。


あぁ。技術者というのは、どうして調子づくとスペックをどんどん高めてしまうのだろうか。あれじゃ対人というより対攻城兵器と言ったほうがしっくりくるぞ。…だが、今から作り直す時間はない。もうフォマティクスが目と鼻の先まで進軍を進めているのだ。降りかかる火の粉は払わなければならない。


 それにしても…


 「ゴーレム兵器…乗ってみたかったな……」


 書類仕事の手を止めて、ぽつりと呟く


 いや、遊びじゃないんだ。あれは兵器。分かっているんだが、乗ってみたかったのが本音というもの。同じように思ってくれた人が多かったのか、検証が終わってからは質問攻めの嵐だった。中には乗せてくれとか、あの機体を譲ってくれだとか言う人まで現れた。もちろん断ったが。


 手軽にあれほどの力が手に入る…ように見えるのだ。魅力的に思えるのも仕方がない話。冒険者たちの興味を引くのもわかる。


 だが、アレの操作を習得するには相応の努力と、重力により生じる力に耐えきれるほどの訓練が必要らしい。今の俺たちじゃ無理なのだ……あれは努力たゆまぬ研鑽の成果であり、改善の余地も残している。素人が操作してもうまく動くことはない。だが、今すぐでは無いにしても、俺専用の機体も作ってもらうかとは思っている。俺も戦えた方が良いだろうし。


 自分専用の機体に思いを巡らせていると、自警団の一人から定期連絡が入った


 「サトル様、ご苦労様です。定期連絡になります」


 「あぁ、もうそんな時間か」


 奴らが進軍を開始してから、フォマティクスの動向を執務室まで報告をするようにお願いしている。もちろん、自警団の人たちの無理のない範囲でね。


 「フォマティクスの兵が集結し、ソード・ノヴァエラとシールドウェストへの進軍を再開。7割はこちらへ、3割はシールドウェストへ。領土のアイリス様は打って出て、今朝から会敵。遠距離戦闘の応報が始まったようです」


 (集めた兵を二分したか…。割合は明らかにこちら側への進軍が多い。打って出るのはアイリス様らしいな…。シールドウェストに援軍を送りたいのは山々だけど、敵の質がまだ未知数だ。まぁ、あの人が負ける姿があまり想像できないんだけどね…)


 「わかった。はぁ…スターリム全方位に仕掛けているというのは、本当なんだね…」


 「はい、その他、ランスフィッシャー領。メイス・フラノール領。ハルバードウツセミ領。…その他、王都を囲むように配置されている領土や国境付近はすべて同時期に侵攻され、現在の標的になっています。…王都も、同時侵攻を受けています。私たちの領土は王都から離れていますが、侵攻の対象のようです。奴らは、『征伐』だと言って兵を容赦なく送っています」


 「ふむ……すべての領土が戦火の海ということか。王都は大丈夫なのかな…」


 「現状、伝令も、魔道具による救援要請もありません。最も、各領土が最善を尽くすしかない状況かと…。王都がそう簡単に落ちるとも、思えませんが…」


 (奴らの能力は甘く見れない。まぁ、こんな状況で救援要請が来ても、対応はできないけどね…。各領土に戦火があがっていては、伝令も難しいかもしれないが。王都だもの、我らが王よ。問題ないでしょう……問題ない、よね?)


 「冒険者ギルドの対応は?」


 「ギルドは今回の戦には不干渉です。原則、冒険者たちにも戦いには加わらないように厳しく布告されているようです。破った者から除名。傭兵以外では生きられないようにするとか。…我らが領土のギルド長、オーパス様は、最後まで領地の防衛に協力すべきだと抗議したそうですが、意見は全て却下されました」


 (冒険者ギルドとしては、大儀のありなしに関わらず、国同士の諍いには中立を保たなければならない。例外を敷くにしても、それこそ、人類の敵が国を興すようなことがなければ、その腰は上がらないだろう。現状は、国の存亡をかけた戦いであり、彼らにとっては国名が変わる以外には影響がないということだ。歯がゆいところだな…。冒険者からの戦力は期待できないか……)


 「分かったよ。ありがとう」


 自警団の一人は心配そうに、俺の顔を伺っている


 「ん?どうしたの?…まだ何か報告していないことでも?」


 「いえ、そうではないのですが」


 彼は意を決し、言葉を区切って話し始めた


 「サトル様…その、我々は…生きられるのでしょうか。新たな故郷となった、この場所を守れるのでしょうか。実は…昨日、子供が、生まれたばかりなんです。それで…」


 「…」


 「…我々は、サトル様のような力はありません。この戦が終わって、生きていられる保証も自信もありません。妻は、国を去るべきだと言っています。……現に、歴史上ここまで大きくフォマティクスと戦争することはなかったと聞き及んでいます。それほど大きな戦になるということです。国ひとつが、変わるか、それもとなくなるのかという瀬戸際です。デオスフィアが悪いものであり、奴らがそれを利用しているのは自覚しています。ただ、それは私一人が居なくなったところで、何かが変わるとは思えないのです」


 彼の言うことは正しい。彼は家族を守る上で非常に合理的な考えをしている。立場を変えてもっと大きな視野でみれば、俺がこの戦争に降伏して町の被害を抑えれば、命を落とす人は格段に減るだろう。スターリムではなく、フォマティクス側につけばいいだけだ。最善だと思える。その時、その場で見れば結果はそう見える。


 だが、文字通り人の命を道具のように使うやり方が、道理として通ってしまえば、国のルールがそうなってしまうのなら、その家族はそのルール上で生きなくてはならない。それに……


 腰に下げたルールブックに触れる。


 自らが望んでやまない、最も愛した世界。自由な世界。一人ひとりが希望、そして可能性を持つことを許された。そんな世界。TRPGは自由こそが魅力であり、存在そのものだ。自由とは可能性であり、個の象徴だ。


 俺はそんな世界がどうしようもなく好きで。守りたい。


 自分にできることが、手のひらいっぱいだったとしても、手の届く範囲で成し遂げたい。自由で在れるなら、人を笑顔にできる結果が望ましい。


 転生した世界が、悲しみにあふれているなんて、つまらないからさ。後世に語るなら、バトンをつなぐなら、魅力ある世界でならなくてはいけない。だからこそ


 だから…


 「それが、君のやりたいことなら…俺に止める資格はない。子は宝だ。君の考えは正しいし、守るべきだと思う。だから、君がどんな結果を選んでも罰することはしないよ。自警団だって、善意で立ち上がったものだ。俺の所有物ではない。強いて言えば、善意の所有物だ」


 自警団の一人は目を丸くする


 「お、怒らないのですか…」


 「もちろんだよ。なんなら、旅立てるように支度金も出すよ。感謝さえすれど、恨む道理なんてない。…だけど、それでも、もし、気が変わって肩を並べて戦ってくれるというのなら、最善の策をもって、敵を打ち倒す武器をふたつ用意できる。どうするかは君が決めるんだ」


 「武器…ですか?」


 「あぁ、戦う手段は必要だろう。鉄の武器で突っ込めなんて言うなんて、ひどいことはしないさっと……ちょうど『ひとつめ』の武器が来たようだね」


 開きっぱなしの執務室の扉から、大きな箱を抱えたイミスが姿を現す


 「よっと…おーっす!サトル君、こっちの仕事…終わったよ!自警団用の装備、人数分をぜ~んぶそろえたよ♪」


 「全部!?…この短期間で…さすがだね」


 自警団はイミスが運んできた箱に興味を示す


 「サトル様、これがもしや?」


 「あぁ、今回イミスさんに頼んで特注で作ってもらっていた装備のサンプル。俺の専属鍛冶師のガルダインさんにも協力してもらったんだ」



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