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征伐編 13話


 ヘルゲが合図を送ると、工房から搭乗型のゴーレム兵器が一歩、二歩とゆっくり広場へ現れた。手足のついた二足型歩行のヒト型形状に加え、胴体の部分が搭載位置となっている。プロトタイプのため、現時点では操縦席が見えるように設計されているが、完成形はしっかりと装甲で覆われる予定だ。


 なんの塗装も装飾もないが、実際にそれっぽく動いているのを見ると、男としてはテンションが上がる


 「おぉ~!!」


 語彙力を全て無視した俺の感想という名の感嘆符は、商人や自警団、傭兵などの野次馬たちにかき消される


 「きょ、巨人じゃ!鉄のジャイアントじゃあ~!?」「歩く度に地面が揺れる!」「すげぇえええ!!」「なんなのだ…あいつは!」「動くぞ!?」


 ゴーレムがただ動いているのとはワケが違う。大々的な公表を兼ねたテストは本日が初めてだったこともあり、皆も驚いているようだ。


 「すごいじゃないか、ヘルゲ…!本当に動いた」


 「驚くのはまだ早いっすよ~!まだ鉄が数歩動いただけっすからね…見ててくださいっす」


 ヘルゲが手を大きく振ると、搭乗席にいる竜人がそれに気づき、ヘルゲと同じ様な仕草でゴーレムの手を振って返す。…パイロットじゃなくてゴーレムで合図するのがちょっと面白い。


 「ここからは装備のテストっすよ!パイロットには装備チェックするように合図を送ったっす」


 搭乗型ゴーレムは腰の武装を手に取った。


 それは人が扱うにはあまりにも無骨な大剣だ。大男を三人並べて、巨大な刀身と対等になるかどうかというほどの長さ。重機と例えたほうがしっくりくるほどの無骨さだ。


 剣の鍔のような箇所からスチームが噴出され、徐々に高まっていくエンジンのような音が鳴る


 どういう仕組みでなぜ煙が剣の鍔から出るのか、エンジンのような音は何なのか、全く分からないが格好良い。カッコイイから問題なし。この剣はラグナ重工の技師が絶対に関与しているだろう。


 「目標!試し斬り用の大岩っす!攻撃っすー!」


 あまたの冒険者の試し斬りを受け続けてきた傷だらけの大岩を正眼に、ゴーレムは巨大なスチーム剣を上段に構えた。


 そして、勢いよく振り下ろす。力を込めるタイミングでスチームが唸り、その巨体から繰り出される一撃は想像を超える破壊力だった。


 広場の中心に大きなクレーターを作り、目標の大岩くんは消失した。


 静まり返るどころか、どんちゃん騒ぎを始める野次馬たち


 「じゃ、ジャイアントが…ジャイアントしたのじゃあ!!?」「すげぇええ!今のみたか!プシュー!って煙でて剣で攻撃したぞ!」「あの大岩、Bランクでも真っ二つにできる人は少ないぞ…」「動くぞ!?」


 (あのー…冒険者のみなさん?君たちは何か壊れるとすぐ騒ぐね!?)


 冒険者は何か壊れにくいものが壊れると喜ぶ生き物なのかもしれない。俺はまたひとつ賢くなった。


 「す…すごい。これがひとりの人から生み出される兵器の力とは思えない…」


 「武装はまだあるっす」


 「まだあるの!?」


 「次、お願いしますっす!目標!…え~っと」


 ヘルゲは試し斬り広場に丁度良いマトがないか探したが、先ほどの攻撃で広場はクレーターしか残っていない。


 「ヘルゲ、マト持ってきたぜ~。合金製の特注品だ」


 整備士っぽい子が、マトを担いできた。随分用意が良いな。…と思ったが、設計した人であればこの規模の攻撃は予測済みか


 「助かるっすー!じゃ、適当に配置しておいてほしいっす。できればマトが『簡単に抜けない』ようにっす」


 「はいよ!簡単に『射抜けない』ようにね!」


 「違うっすよ~!」


 「はいよ!簡単にぶち壊れないようにだね!」


 「違うっす~!!」


 整備士は合金製のマトを束ねるように配置した。きっとヘルゲは、違う、そうじゃない。と思っているだろう。いくら高性能の弓矢でも鉄板を何枚も貫通するというのは無理がある。


 ヘルゲは元に戻すよう指示したが、どうやらパイロットは配置されたマトを射抜く気のようだ。剣を戻すと、背中の弓武装を取り出し始める。弓はゴーレムの背から手に渡った時点で折り畳み式に展開され弦が張った。


 狙うは鉄の塊…のようなマトだ


 弦にはミスリルが練られているのか、細い糸の形状にもかかわらず、陽光に反射し七色に輝いているため存在感がある。剣とは異なり、フォルムが繊細でありながらも緻密な設計と魔法の浸透力で破壊力を高めているようだ。弓を引けば、ミスリルが擦れる。その音すら美しい。まるで玲瓏透徹れいろうとうてつを武器にしたようなイメージがまさに…ミラージュが担当したのだろう。


 ゴーレムが弦を限界まで引き絞って、訓練用の矢を放つ。風絶ちの音が破滅の訪れに変わったのは瞬く間


 鉄のひしゃげるような悲鳴の後、残っているのはマトだったような何か。遥か後方の木々をなぎ倒し、どこで止まったかも分からない。マトの後ろが未開拓地で誰もいないという状況が何よりの救いだった。


 これは…威力高すぎ…?


 どんちゃん騒ぎの外野は、収拾がつかない。冒険者たち…いや破壊神共に更なる喜びを与えてしまったか。


 冒険者用の装備として売り出すつもりはないんだけどね??そこんとこ分かっているのだろうか。


 ともかく…


 整備士は『やっちまったぜ』みたいな雰囲気で頭をかいている


 「あ~やっぱ合金じゃだめか~。コンゴウキンか竜魔吸石あたりなら防いだかな?でもそうなるとマトっていうかただの防壁なんだよなぁ」


 「嘘っすよね!?こんなに出力がでるなんて聞いてないっすよ!?というよりこんな設計でこれほど大きなパワーは出ないはずっす!!何をしたんすか!?」


 ヘルゲも予想外なほど高性能でまとまっているらしい


 整備士はレンチをくるくるさせて肩をすくめる。さも当然のことのように


 「さぁ?パイロットの根性っしょ」


 まさかの根性論。でも嫌いじゃないよ


 「ちゃんと教えろっす~!!」


 ヘルゲは納得がいっていないようだ



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