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征伐編 12話


 フォノスの連絡を受けて、例のゴーレム兵器新プロジェクト…その進捗の確認に工房へとやってきたわけだが…


 「こりゃすごいな…」


 新設した専用の工房には、二足型のヒト型鉄巨人が沈黙していた。数メートルあるだろうか…今にも動き出して、見上げている俺とヘルゲを踏みつぶしてしまいそうな迫力があった。図体が大きいため、腰より上の部分は工房の天井から足場を吊り下げ、ドワーフたちが作業を続けていた。それがまた、機体規模の大きさを実感する。時たま聞こえる大声の合図や、金属の削れる音が工場独特の雰囲気を出していて、なんだか胸が熱くなる。


 「へへ…すげぇっすよね。自分で言うのもなんですけど、オレ、マジ頑張ったと思うんすよ」


 少し照れくさそうに手を頭の後ろに組んで微笑むヘルゲ


 「あぁ…正直、こんなに早く搭乗型ゴーレムのプロトタイプが仕上がるとは思わなかった。これは素直にヘルゲにも感謝しなきゃな」


 (フォマティクスの侵攻前に、一騎だけでも作れたのは大きい。ヘルゲは想定以上に調整役に向いていたのかもしれない。作れるかどうかは五分五分の賭けだった。動くかどうかは更に賭けだ)


 「いやいや、オレなんかなんもっすよ。ほとんどイミスの姉貴と番頭たちのおかげっすね…イミスの姉貴、プロジェクトに直接は手は出さないけど、心配で何度も見に来てくれたんすよ。自分の仕事も忙しいだろうに…いい女すぎて怖いっす!」


 「へぇ、彼女も見に来てくれていたんだね」


 「はいっす。防壁の強化の合間だから気にするなって、何度も来てはアドバイスをくれたんすよ…マジ惚れそうだったっす」


 ヘルゲは顔をニタニタさせて、仕事道具のスパナを抱きしめる


 (その様子だと惚れそうっていうか…惚れているんじゃないか…)


 「でもでも、食事にも誘ってみたんすけど『ウチはゴーレムの相手で忙しいから、今はゴメンね♪』って言って全然相手してくんないんすよお~ちょっとぐらいいいじゃないっすか~……」


 「そ、そうなんだ…」


 「トホホっす~…」


 スパナを抱きしめたまま涙目で溜息をつくヘルゲ


 イミスは元々酒場の看板娘をやっていたくらいには顔が良い。ヘルゲの気持ちはわからなくもないが…断り方が実にイミスらしい。彼女には成し遂げたいことが多いのだろう。他のことに割いている時間がないのかもしれない。とりわけ彼が特別に悪いってわけじゃないんだ……多分。ヘルゲが落ち込みかけているので話題を戻そう。


 「コホン…あ~…俺を呼んでくれたってことは、今日、今から動かすってことで良いんだよね?」


 「あ、はいっす。これが動くと思うと感動っす。最初は調整役なんてできるのかって思っていたっすけど…何度もぶつかっては提案を繰り返して、ここまで来たっすよ。サトルのセンパイに、成果を見せるっすよ!」


 「楽しみだ。ところで誰が搭乗するんだ…?俺はしないぞ」


 二足歩行の鉄巨人を起動した途端ぶっ倒れる自信がある。ラジコンの操作とか上手い人は本当に尊敬するぜ


 「そうっすね~…実は意見が割れていたところだったんすけど、運動神経が良くてそこそこ頑丈な人が良いって話になったんすよ。搭乗型ってことは、乗る方もある程度の負担がかかるっすから。それに…ゴーレムに乗るってことは戦場の最前線に出るってことっす」


 「あぁ…となると国家間の争いには不介入である冒険者は除外するとして…自警団の誰か?」


 「そうっすね…ただ、ひとつ問題があって……」


 「ん…問題? あぁ、搭乗希望者が少ないんだろう。命がけなんだから仕方ないよ」


 「いや、その逆っすね!!希望者が多すぎるんっす!!自警団に留まらず、噂が冒険者たちにまで広まって、工房の外で建造中の機体を見学する人まで現れたんっすよ!中にはアレに乗りたいがために冒険者やめるって人までいて、冒険者のギルドマスターが寂しがって泣いていたっす!」


 (オーパス……なんかゴメン…彼には災難なとばっちりだったな。今度オーパスに何か買っていってあげよう)


 「で、結局は現自警団の副隊長の竜人がパイロット予定っす」


 地力が強く、戦闘力が高い人を乗せては、ゴーレム兵器の強みである戦闘力の底上げが最大限に活用できない。自警団の副隊長程度であれば、戦闘能力の向上が見込めるだろう。


 「うん、良いんじゃないかな。起動実験、やってみようか」


 「ありがとうございますっす!じゃ、始めるっすよ~!」


 ヘルゲは整備士に合図を送った



 * *



 ラグナ重工やミラージュ商品の試し斬りなどで使う大きな広場。何時もは冒険者たちで溢れかえっているが、今日は領主が貸切るということで、朝から毛色の違う傭兵や商人たちが多く集まっていた。既に噂が広がっている新ゴーレム兵器の起動実験、それを一目でも見ようということなのだろう。


 「今日は領主様が来てくださる大切な日だ…」


 整備用の勝手口を少し開けると、人の熱気が押し寄せる


 不安になってすぐに扉を閉めると、背もたれにして大きく溜息をついた


 「ふぅ~…ただの起動テストじゃなかったのかよ。なんだこの人だかりは…」


 これじゃただの見世物だ。


 いつもの見回りで魔物を斬るよりもよほど緊張する…


 だが俺は自警団の竜人…しかも副隊長を任せられている身だ。こんな姿を見られて笑い者になるのはゴメンだ


 「怖気づいたのかい?」


 「ん?」


 目をやると相棒の整備士がレンチをくるくるさせて、こっちを見ている。俺がパイロットになることが決まってから、ずっと整備を担当してくれている奴だ。いけ好かないが、信用できる奴だ。


 「ッチ…お前か。よりによって」


 「よりによってってのは…余計だろう。せっかく相棒の晴れ姿見に来てやったのによぉ」


 「それが余計だ。晴れ舞台ってなんだよ、くすぐったい言い方をするな。気持ちが悪い」


 シッシと手で払うがニコニコしている。いけ好かない。


 「この期間、ずっとプロトタイプの骨組みの予備で練習してきただろう?何をそんなビビってんだ」


 「ビビってない。節穴め」


 悪態を全く気にせずレンチをキャッチして眩しい笑顔を見せてくる相棒


 「はは、この演習が終わったらイエティ肉おごってやるよ。だから頑張ってこい」


 整備はこいつがやった。だから最初から安心している。これはただの武者震いだ


 「お前がいようがいまいが、頑張るのは当たり前だ。だが肉はいただく…絶対にヘマだけはできん」


 「だな!……っと、合図か」


 相棒は勝手口から何かの合図を受け取ると走って戻ってくる


 「領主様の準備ができたってさ。ヘルゲから連絡がきた。搭乗の時間だ」


 胸が締め付けられる。こんな感覚は初めてだ。


 俺は竜人だ。何を緊張しているんだ。くそ


 不安にかられ、コックピットの搭乗前に立ち竦む


 そこで相棒が後ろから笑ってくるのだ。馬鹿にしたように


 「ぷぷぷ…ビビってやんの!」


 「ビビってない!!!…いってくる!」


 「あぁ、いってきな!」


 気がつけば、足は搭乗口にかかっていた。最初の一歩を相棒に手伝ってもらうなんて屈辱だ


 あぁくそ…さっさと終わらせて、領主様に認めてもらうのだ


 「いくぞ」


 

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