征伐編 11話
新ゴーレム兵器のプロジェクト開始から一月ほどの時間が経過した頃。俺は仕事に追われていた…!
ひとつ資料の山を片付けると、もう一つの山が現れる。無限ループかな?
「よし、逃げるか」
山積みになった机の上の仕事から現実逃避するため、執務室という牢獄からの逃亡を決意する。思い立ったが吉日と言う。すぐ行動すべきだろう。
俺はドアノブに手をかけるが、ラスボスの看守にすぐに悟られてしまった。
「サトル…どこ行くの?」
看守のカルミアは美味しそうなフルーツと、飲み物を二人分持ってきている。俺が頑張っているときは、必ずと言っていいほど差し入れをしてくれる。しかも見計らったようなタイミングで現れるのだ。
(うぐ…せっかく用意してくれた行為を無碍にすることなんてできない…これじゃあ脱出は不可能じゃないか)
早々に逃亡計画を打ち砕かれた
優しい笑顔を見せる彼女は、俺が今逃亡を決意しているなんてミリも考えていないだろう。多分。
「頑張ってね…」
「はい」
俺は一つ返事で席に戻り、仕事を再開した。
新プロジェクトが開始してからというもの、必要な魔物の素材やら冒険者の手配やら、姉貴分であるシールドウェストの領主、アイリスとの連携やらで目が回るほどの仕事量になったのだ。
一体誰がこんな牢獄を作り上げたんだ…?俺だよチクショウ。
その時、救いの音がドアから響く
「お兄さん、頑張っているみたいだね。…報告だけど、ふたつあって。まずは奴らの動きについて」
執務室に入ってきたのはフォノスだ。新プロジェクトの合間は隣国の動きがないかフォマティクスの動向を探ってもらっていたのだが、どうやら何か動きがあったようだ。
「とうとう…フォマティクスが、攻めてくるか…」
「当たり」
「詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
フォノスは頷くと、地図を机の空いているところに敷いて指す。
「お兄さんのことを凄く警戒しているみたいだね。奴ら、こっちに戦力を集中投下しているみたいだ。その証拠にドワーフの村、ブローンアンヴィルとエルフの里のジロスキエントのちょうど合間、そこに小規模な魔方陣が断続的に展開されていて、少数の隊が転移してきているみたいだよ。今では数百人近い人数にまで膨れ上がっている。ここの地点からであれば、そのまま南下してシールド・ウェストとソード・ノヴァエラを攻めることができると思っているみたいだ。事実、このルートに砦や大きな町は存在しない。商人が使う道が整えられているから、行軍も早いはずだよ。すでに向こうの斥候はこっちに南下している。それは既に殺し…追い払っておいたよ。デオスフィアを装着していて、練度が高かった。ここの新兵なら死んでたかも」
防衛ラインを無視して突如部隊が現れる。……十中八九、ディープ・フォルスがポートと呼んでいた侍女の能力だろう。何等かの条件を満たせば、対象位置を変えることができる、ワープのような能力を持っている。サリーの魔法すら転移させていたことから、汎用性に優れた能力だ。だが、このような魔法はごく小さなものであったり限られた範囲でしか行使できないのが通説だ。デオスフィアで身体を強化し行使しているのは想像に難くない。直接この町の近くに転移しないのは、距離的な制約がかかっているためだろう。メイス・フラノールは、フォマティクスの領土が近い。事実、彼女の能力で陥落させられたと言ってもいい、危険な相手だ。少し離れた位置から人を集めて進軍するのは、一度に転移できる人数に限りがあるからだな。
「エルフとドワーフたちの集落は目と鼻の先だ。みんなは大丈夫なのか?」
出稼ぎにきたドワーフたちやサリーの故郷が近い。かなり心配だ。
「うん、奴らは『人』以外の村や里への襲撃を避けているね。無駄な損害を出したくないだけかもしれないけど」
「そうか…自分の領土を守ることに注力する必要がありそうだな」
フォノスの顔も渋くなる
「奴らの狙いはまさにそれで、お兄さんが他領に行く余裕を与えるつもりがないんだ。だって、他領土にも同時進行しているけど、こっちに向かっている戦力のが王都の次に多いからね」
「王都にまで進軍しているのか!?」
「うん、残念ながらね」
「戦力差の数はスターリムに軍配が上がる。早々王都が陥落するとは思えないが…」
だが、不安が拭えない。奴らには一兵卒を老練の騎士にするほどのアレがある
俺たちが他領土へ助けに向かえば、フォマティクスの幹部が各個撃破されるだけだろう。奴らがジリ貧になるまえに、全体へ大きく攻勢に出たってことか。
「それで…もうひとつの報告は?」
「こっちに向かう道中でお願いされただけなんだけど、鍛冶屋のエルフが会いたいって」
新プロジェクトを任せていたヘルゲのことだな…こちらも動きがあったとみていいだろう