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征伐編 10話


 「共同合作…じゃと?」「何を作らせる気じゃ?」


 「そうだよ、ラグナ重工とミラージュでの合作。まずはこれを見てほしい」


 戸惑いを見せるドワーフ番頭たちに図面を配る。依頼用にと予め書いておいたものだ。図面には『槍』と『弓』そして…とっておきの兵器について記載している。この『とっておき』製作には、双方の得意分野を活かして作らなければ完成は見込めない。それほどに複雑で挑戦的な装備だ。


 ドワーフ共は新しい鍛冶の知見には敏感である。鍛冶の技術向上が見込めるとなれば、目先の問題を全てかなぐり捨ててしまうほどだ。先ほどまで喧嘩モードだったドワーフ共は、意見交換しながらも図面を舐めるように、隅々まで見ている。


 (本当に鍛冶には貪欲なんだよな…)


 ラグナ重工の番頭が首をかしげて言った。


 「サトルの旦那、槍と弓についは図面を見ただけでわかった。だが…この、三枚目の図面はなんじゃ」


 ミラージュの番頭も頷く


 「こんな装備、使い方のイメージすら沸かんな。一体何なんだ?これは」


 やはり『とっておき』の図面について質問が上がった。イミスと共同で考えた新汎用装備のひとつだ。分からなくても無理はない。説明が必要だろう。


 「よくぞ聞いてくれました。これは搭載型汎用兵器…のプロトタイプ…『とっておき』だよ」


 「と…とうさいがた…はんよう……なんじゃって?」


 「コホン……今まで俺たちは、装備にゴーレムパーツを装着することで、武具そのものの威力や使い勝手を向上させてきた。これはその逆…つまり、ゴーレム自体に『人』が搭載して戦うコンセプトの兵器さ」


 自慢げに話すが完全に前世の知識を引っ張り出してきたアイデアである。


 「ゴーレムに人を乗せる…?肩とか、頭とかに乗せて戦うのか?そんな魔術師のようなこと、鍛冶屋はやらんぞ。第一、それならゴーレムだけ召喚して戦えば早く済む話じゃろうて…わざわざ人が乗る必要はあるのか。わしらが作るのは武器や防具ぞ。召喚士の真似事じゃあない」「そうじゃそうじゃ!」


 (否定意見を出すときだけは息ぴったりの番頭…)


 カルミアがギロリと睨みを効かせる


 「…サトルの話はまだ終わっていない」


 ドワーフたちはぴしゃりと文句を止めて正座になった


 「はいですじゃ」「了解ですじゃ」


 ドワーフたちにとっては分かりづらいだろうか。イメージがまだついていないみたいだ。ここはじっくり掘り下げて説明した方が良いだろう。


 「えっと…続けるよ……。ミラージュの番頭さん、前に、体が生まれつき弱いというクライアントの冒険者がいたのは覚えているかい。その人の専用装備を作ったことがあったはずだ。この計画はそれにヒントを得たんだよ」


 「あぁ、あやつか。確かにそんな冒険者がいた。奇妙な注文をしていたもんで、まだ覚えているぞ。確か…『動く鎧』を作ってほしいって注文だったか。その中に入って戦うんだとかなんだとか。結局大惨事になって終わったがの」


 俺たちが留守中の話だ。ミラージュにとある特注での製作依頼が舞い込んできたことがあった。その内容は『動く鎧』を作ってほしいというものだったそうだ。番頭が依頼主である冒険者に対し、どう使うのか聞いたところ、その中に入って戦うのだという。体の一部をゴーレム化させる技術はオーメルの番頭が得意とする分野だが、これは少し趣旨が違っていて、ゴーレムそのものに入って戦うイメージだ。繊細な技術を要するため、それを得意分野とするミラージュを見込んでの依頼だったのだろう。


依頼をした冒険者の目論見としては、体が弱い分ゴーレムでサポートして、後方から戦うような戦術を想定していたらしい。


『動く鎧』のプロトタイプが形になってからというもの、実際に(例の冒険者が)ゴーレムの中に入って稼働実験を行った。すると、鎧ゴーレムの意思と中に入っている人の意思がかみ合わず、立ち上がってはすぐに転倒を繰り返したそうだ。それだけなら良かったのだが、ゴーレムの敏捷な動きに体がついていかず、中の人の全身の筋肉が悲鳴を上げ、たいそう悲惨なことになってしまったらしい。


それ以来、『動く鎧』プロジェクトは頓挫し、例の冒険者も治療院で養成中となったという顛末だ。


 ミラージュの番頭は、その出来事を思い出したのか渋い表情だ


 「う~む……サトル殿…悪いが、仮に動く鎧を作っても、またあの『惨事』が起きるだけじゃぞ…」


 「図面の趣旨はつかめてきたようだね。今回のプロトタイプは『搭載型』。つまり、ゴーレムに搭乗するんだ。ゴーレムを身に纏うのではなく、乗り込む。体そのものをアシストするわけじゃないから、肉体が断裂するようなことは……ない。……と思う」


 イミスはゴーレムを身に纏って戦うが、それは彼女の体が特別丈夫で、ルールブックでとんでもない強化を施してあるから実現できたことだ。並みの冒険者で近しいことを実現するためには、戦い方の発想を変える必要がある。成功すればフォマティクス戦での戦力となってくれるはずだ。


 ラグナ重工の番頭は頷いた


 「ふーむ…なるほどなぁ。間接的に操作できれば、体の強さに関わらずゴーレムのパワーを引き出せる…そういうことじゃな?」


 (さすがに番頭を張っているだけはあって理解のスピードが凄いな)


 「その通りだよ。最初は町拡張のための重機としてイミスが考案していた図面を、兵器として転用したものだ。これで魔物の討伐ができれば、ひとまずの完成としてみて良いと思う。そして…このプロジェクトの指揮はヘルゲ、君に執ってもらうことにした」


 俺の話を半ば上の空で聞き流し、葉っぱを噛んでいたヘルゲは驚き飛び上がった


 「…ん?…へ…?ふぇ!?…オレがやるんすか!?…なんで!?オレ、まだまだ見習いっすよ!ロングソードなんかの武器だって数打ちばっかり打ってるっす!」


 「サリヴォルさんに自慢できるような、何等かの成果をあげて里帰りしたほうが箔がつくってもんでしょう」


 「うっ…それは、そうっすけど…」


 (…実際は、ラグナ重工とミラージュの中立的な立場であることの理由が大きかったりするけどね)


 ドワーフたちも頷いている


 「ヘルゲなら文句はねぇな」「どっちかに肩入れするタイプじゃねぇしよ」


 「よし、それなら作業を開始してくれ。槍と弓は自警団の標準装備だ。そしてプロジェクトの『とっておき』は一機程度しか作れる余裕がないと思う。慎重に進めてほしい。パイロットの選別は……任せるよ」


 ドワーフの番頭は、皆を引き連れて気合を入れた


 「よぉし、野郎ども!新しい『武器』をわしらたちの手で作りあげるんじゃあ!」



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