征伐編 7話
ドライアドの計略から脱し、フォノスの助けによってソード・ノヴァエラに帰還を果たした。だが、俺の試練はむしろ、ここからだったんじゃないか。
ドライアドなんか目じゃないほどの殺戮オーラを出しまくっている相方は、俺が逃げないようにと鋭い視線をぶつけている。
「…サトル、聞いているの?」
「はい…」
姿勢正しく正座をする俺の周りを、ゆっくりゆっくりと練り歩くカルミア様。こちらの様子を伺いながらウロウロするそのお姿は、やり手のパソコンメーカーで新作を発表する社長のようだ。
少しでも動けば、ッキっと目配せをする
新手の座禅かな?
「私は、貴方の護衛をするって二人で約束してた」
「はい」
「それなのに、貴方一人で行動して、危険な目にあった」
「はい」
「…分かっているの?」
「はい」
バチ…バチバチバチ……
彼女の纏う雷の波動がバチバチと激しさを増す。また一段階上がった気がした。
ソード・ノヴァエラに帰還してからはずっとこんな調子である。
イミスとサリーのお説教がまだ控えていると思うと気が重い。だが、俺の軽率な行動が招いたことは事実であるからして、仲間の心配を無碍にするなんてできないだろう。お説教は甘んじて受け入れるべきだ。彼女たちに心配をかけてしまったのだから。
だがしかし、ドライアドが私に向けた殺意よりも濃厚な殺意をぶつけてくるのをやめていただけないでしょうか。カルミア様。わたくし、死んでしまいます。
「分かってない気がする…正座1時間追加」
「ヒェ…」
…
結局、数時間の正座。普段は二人分淹れてくれる飲み物も、今日はナシになった。俺的には彼女の差し入れが毎日の楽しみであったため、とても苦しい罰…だった!!
イミスからはゴーレムの研究と題して、超高速移動するゴーレム式乗り物の『試乗』…いや、拷問に付き合わされ、サリーからはポーションの実験台にされ、数時間コボルトにされてしまったが、それはまた別のお話。
冷静に一日を振り返ると…あれ?ドライアドよりひどくね?っと思ったが気にしたら負けである。
次からキチンと相談して行動しようと、心に決めた日だった。
* *
翌日
俺は領内の自衛強化手段の一環として、リンドウが設立した自警団に、武具を提供しようと行動に起こす。元々自警団にはゴーレム式の良い装備を使ってもらっているが、これを一段階底上げするつもりだ。更に、俺の能力を使ってクラスチェンジも同時並行で進める算段だ。
十中八九、刃を交える相手はフォマティクスになるだろう。それぞれの領地では戦の準備を進めているらしいが、普通の武具で、奴らが使う例の兵器に対抗できるとは思っていない。デオスフィアは純粋に力を引き上げる強力なアイテムだ。向こうがそのつもりなら、こっちだって本気でやってやる必要がある。
「ともあれだ…まずは武具屋の様子を見に行かないと」
飲み物を運んできてくれたカルミアが首を傾ける
「どこか行くの?」
「あぁ、武具屋にね」
「…一緒にいく」
武具の提供には、以前設立した三大武具店『ラグナ重工』『ミラージュ』『オーメル・テクノロジー』に協力をしてもらう。
なぜ領内にわざわざ3店舗も分けて設立したのか。ざっくりおさらいをすると、イメージ戦略による商法を確立するためだ。
ラグナ重工は重戦士タイプに好まれる大剣や重装備を始めとした販売ラインナップと、ラグナーという戦士を広告塔として軸に使い集客を。
ミラージュはマチルダという女性剣士を広告塔に、レイピアや軽装備を軸に販売。流線型の美しいフォルムと青色の配色。洗練されたデザインでその手の好みを持つ相手へ集客を。
オーメル・テクノロジーは、本来作る予定のなかった武具屋だったが、オーメルという左手を失った戦士が義手武器の可能性を示した。彼を広告塔に、義手装備、仕込み杖やフレイル、暗器や三節棍を打ち出し、ベテラン、義手や義足が必要な層に気に入られているらしい。黄色がイメージカラーで、この手の店を好む戦士は毛色がやや特殊という客層だ。
ひとつの武具屋では手広くやる必要がある一方で、一定の客層がつきにくいが、パターンとイメージを明確に分けることで集客力を上げるという戦法をとったのだ。どの店を利用しても、ソード・ノヴァエラの収益につながるため、一見デメリットは少ないように見える
もの珍しさもあってか、この方法で冒険者の抱え込みには成功し、ソード・ノヴァエラの商業基盤を作った
…しかし、この方法。メリットばかりではない
サトルが遠征で放置していたツケが回ってくることになる
メイス・フラノールやドライアドの件以降、商業地域には専ら放置の状態だったからご挨拶も兼ねて、様子を見に行くと準備を整えていたときだった
執務室(扉は修理中)の前に自警団の一人があわてて報告に来たのだ
「サトル様!商業エリアで問題が起きています。その…ラグナ重工とミラージュの件です。リンドウ様では状況を悪化させてしまうので、一度お時間を割いていただけないでしょうか」
(あぁ……またあの二大巨塔の大喧嘩だ)




