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征伐編 6話


 「[ヒドゥンブレード]!」


 声と同時に、キメラの首筋に着地すると暗器を突き立てる。その動きはあまりにも咄嗟で、ドライアドが何かを言う前に突き刺さった。


 フォノスがクラスアップして覚えた専用の籠手から繰り出される致命の一撃。ヒドゥン・エトランジェ…見た目はただの籠手だが、極細の糸が5本の指に通っていて、そこから暗器が飛び出すようになっている。ヒドゥンブレードを成功させた場合、対象のユニーク能力を戦闘中使用不可にする能力だ。


 「ガァアアアア……」


 キメラは痛みに悶えると動かなくなる。


 (動かなくなった…?だが、まだキメラの息はあるようだ)


 フォノスは素早く俺の元に移動して肩を貸してくれた


 「フォノス…!助けてくれてありがとう。だけど、どうして――」


 フォノスは俺を庇うように立って戦況を改めて評価するとため息をついた。


 「はぁ…やっぱりこうなった。単独での行動を強要した時点で、この魔物のことは信用していなかった。…お兄さんには申し訳ないけど、家を出た時点で尾行させてもらっていたんだよ」


 (俺の後ろをつけていたのか、全く気が付かなかった…)


 ドライアドも想定外だったのか、激しく取り乱す


 「お前は…!どうやってここに入った!ここ一帯は認識阻害がかかっていたはずよ!並みの者では看破すらできない!」


 フォノスは肩をすくめる


 「…途中からお兄さんを見失ったのはそれのせいだったか。ある場所から忽然と消えたように居なくなったから焦ったよ。お兄さんが派手にやらかした『音』までは消せなかったようだけどね」


 (そうか、ドライアドは俺を消すため、これでもかと言うほどに準備を整えていた。認識阻害も増援を警戒してのことだったのだろう。だけど、フォノスはアサシンとスレイヤーのマルチクラス。追跡やスカウト系の技能で右に出る者は居ない。どんな小さな手がかりでも見つけてくれる。今回は俺のドラゴンブレスが、認識阻害を破るキッカケになったということだ!)


 「キメラ!奴らを食い殺せ!…キメラ!」


 だが、ヒドゥンブレードを受けたキメラが動く様子はない。


 「おのれ、キメラに何をした!」


 フォノスは活人剣と殺人刀を構え、鋭い視線を敵へと送る


 「これ以上、魔物と話し合うことなんてないよ。君は、僕の敵になったのだから」


 タンッと一歩踏み出すとフォノスは残像を生み出しながらドライアドの背後に位置取りする


 「…![エンタングル]」


 フォノスの位置に対し、咄嗟に植物の蔦を多量に生成。エンタングルはドルイド系の呪文のひとつで、指定範囲を蔦で覆うことができるのだ。本来は妨害するための魔法だが、使いようによっては防御に転じることもできる


 フォノスは植物の蔦を一閃、ドライアドごと真っ二つに斬り割いた


 断末魔をあげたドライアドだが、次の瞬間には大樹から新たなドライアドが生み出されていく


 「見事な殺意、それに見合った技量。しかし、私を殺しても、私が生まれるだけだ」


 「ッチ…」


 フォノスは活人剣に切り替え、生み出されたばかりのドライアドを集中攻撃するが、痛みをあまり感じないのかドライアドは平気な顔で反撃。フォノスは空中回転で回避しつつも毒ナイフでけん制。何本かドライアドと依り代の大樹へ刺さるが、やはりこれも効果が薄いようだ。


 一度距離を取って、フォノスはドライアドと対峙する


 「トロールでも一発で悶えるような毒なんだけどね…」


 「私に毒とは、食事を提供しているようなもの…さて」


 俺を囲うように次々とトリエントが生み出されていく。俺もポーションとクロスボウで応戦するが、一匹討伐する度に二匹出てくるような状況だ。こうなっては森全てを焼き払うくらいのつもりじゃないと、奴を追い詰めるのは難しい。


 薄々感じてはいたが、奴は『普通のドライアド』の領域を超えている。それにデオスフィアとキメラ…奴にはフォマティクスとのつながりがありそうだ。


 「フォノス、これじゃキリがない。一旦引こう」


 「くそ…短刀じゃ相性が悪いか。お兄さんのことを殺そうとした奴を見逃すなんて」


 奴の核は依り代である大樹だが、守りが厚い上に胴回りが大きな大樹に対してはフォノスの刀身が通りづらい。彼の剣はあくまで人を斬るためのもので、対人に超特化している。カルミアのような技量やイミスのようなパワーがあるわけでもない。彼の気持ちは汲んであげたいが、今は退却するべきかもしれない。


 「俺は今生きている。フォノスが助けてくれたからだ。それだけでドライアドの作戦は失敗している。俺たちの勝利条件は二人無事に帰ることだ。時間さえ稼げればどうだって対処できるさ」


 「…お兄さんが、そう言うなら。でもその前に、一発かましてやらないとね」


 ドライアドは攻撃の手を緩めない


 鋭い蔦が数十と俺へ向かうが、フォノスはその全てを細切れにした。ドライアドが追撃のため、地面から木の根を伸ばすが、素早い体運びでこれも回避。


 「逃げる気?」


 フォノスは冷たい視線をドライアドへ向け、返答変わりの一撃を繰り出す。


 「[活殺自在抜刀・ディアーブル・エ・アンジュ]…!」


 殺人刀を構え、ドライアドを真っ二つに斬り割いた後、再生前に大樹へたどり着き、木の幹に浅い傷をつける


 生み出されたドライアドは大樹の傷を認めると、取り乱す


 「あぁ…あぁぁあ…ああああああ!!さ、さいせいが、できない!ゆる…ゆるせない…!!あぁぁああ!」


 至る所から植物の根や蔦が飛び出し、無造作に破壊活動を繰り返し始めた。明らかに暴走している。


 フォノスは俺の手をとって、頷く


 「今のうちだよ」


 「あ、あぁ…」


 フォノスの手を借りて、森から全力で離れる。撤退の合間も木々の根や蔓による攻撃は続いた。森全体から、許せない。覚えていろ。と繰り返し声がこだまするが、距離が大樹から離れるにつれて、苛烈な攻撃が徐々に収まっていく。


 (森全てを敵に回している気分だ)


 彼の活躍によって、どうにか命を拾った。


 ドライアドと始まりの地。そしてキメラとデオスフィア。分からない点は多いが、彼女は何等かの形で必ず報復をしてくるだろう。今はその全てに対して対処しなければいけないことだけは事実だ。


 ドライアドの性質を使い、デオスフィアを使った入れ知恵をした奴がいるはずだ。



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