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39話


「お主…もしや依頼を受けてくれるのか?」


赤毛のドワーフは期待の眼差しをこちらに向けている…。やめてくれ、筋骨隆々なドワーフのウルウル顔は色々な意味で破壊力があるんだ。


「えぇっと…グリック?でしたか?俺はちょっと話を聞いてただけで…」


「おお!そうかそうか、話を聞いてくれたか!皆が離れていく中で、最後までそこに居てくれたということは、そういうことなんじゃな!」


強引なドワーフに受付のお姉さんも追撃してきた。


「この方は今、絶好調の仮Cランクパーティーなのです。うちのギルドでも最速でランクアップを繰り返している注目株なので、信頼出来ますよ。サトル様たちであれば、解決できるのではないでしょうか?」


「いやいや、お姉さん…俺はまだ受けるとは」


「そうかそうか!!じゃあ決まりだの」


受付のお姉さんと赤毛のドワーフによる連続コンボで、いつの間にか引き受けることになってしまった!どうなのかと思ったが、歯ごたえのあるクエストを探す予定だったし、討伐依頼と併せて鉱石の採取まで行えば、カルミアたちの装備を充実させることが出来るかもしれない。今の俺達は少しでも強くなる必要があるからな。俺は依頼を受けることにする。


「わかりました。どの道強い相手と戦っていく必要がありますし、やれるだけやってみます」


受付のお姉さんはニコニコして、赤毛のドワーフはヒゲを撫でながら安堵した様子だ。


「あぁ…青年よ。本当に感謝するぞ。シールドウェストから北にある採掘町のブローンアンヴィルまでの案内は、ワシが…と言いたいところじゃが、ここに来る途中で魔物に襲われてしまってな。足が思うように動かん。治療してから向かうことになりそうじゃが、時間がない…どうしたものか」


ドワーフは革製のブーツを脱いで足の怪我を見せる。腱の近くにウルフか何かが引っ掻いたような傷があり痛そうだ。傷を見た受付のお姉さんは、薬と包帯を取ってきて応急処置をし始めた。


「何日かは見た方が良いですね…。思ったよりも傷が深そうです」


サリーの薬でも、すぐに治せる傷の限度はある…少なくとも今のレベルでは難しいはずだ。どうやって最短ルートを辿り、ブローンアンヴィルまで行くか考えを巡らせているとギルドのスイングドアが音を立てた。振り返ると、いつぞやの人。


「話は聞かせてもらった!その道案内、この盾のブルーノーのパーティーが請け負うぞ」


転生して領主様の邸宅で最初に声をかけてくれたドワーフだ!斧で盾を打ち鳴らしていたから、よく覚えている。俺とカルミアが邸宅から脱出した時もテントにいたっけな。その自信満々な表情は変わらず、青い髪とひとつ結びにしたヒゲが特徴的だ。斧は肩に担いで体ほど大きな盾を持っている。邸宅の時の盾はもう少し小さめだったので、あれから盾の方は新調したようだ。後ろに控えているリザードマンも健在で、ブルーノーの名乗りに合わせて尻尾を地面に叩きつけており大変賑やかなこと。


「あなたは…、邸宅で俺に声をかけてくれたドワーフの方ですよね!覚えていますか?」


「あぁ!覚えているともさ。肉を分けてくれたことまでしっかりとな。パーティーは違えどお主と、この盾のブルーノーは友だ。丁度、依頼の帰りで手持ち無沙汰になるところじゃったしの。協力させてもらおう。最も、お主が行かなくともワシらは討伐に向かうつもりだが」


「この依頼は受けますよ。今回は一緒に頑張りましょう」


武器と盾をしまい、俺が差し出した手を力強く握り返し、もう片方の手で俺の肩をドンドンと叩いてくれる。これがブルーノー流の挨拶なのだろう。邸宅で生き延びた実力があるので、今回の討伐ではとっても頼りになるな。握手を交わしたところで、赤毛のドワーフが口を開く。


「コホン…話はまとまったかの?それでは受付で依頼をしてくるぞ。報酬はワシ一人では決められんが、町を救ったとなると、期待して良い。ところで、そこのブルーノーと言ったか?氏族はどこじゃ」


ブルーノーは露骨に不機嫌な顔を作り、吐き捨てるように言った。


「っは。氏族の名などとうの昔に捨てた!今は盾のブルーノーじゃ。それじゃ不満か?」


「氏族名はドワーフにとって、大切な意味を持つことくらいお主も知っておろう…まぁ良い。非常時じゃから、仕方なく雇ってやるわい」


少しの間両ドワーフでにらみ合いが起きたが、先に赤毛のドワーフが目を離して受付に向かった。氏族名は、ドワーフがどこの町でどの長の元暮らすかを把握するために役に立つ。しかし、ドワーフにとってそれは、名前以上の意味と価値を持っているようだ。ブルーノーは名前を捨てて、冒険者をやっているんだ。ここは突っ込まないでおこう。


「さて、カルミアさんとサリーさんを呼び戻すか…。ブルーノーさん、出発は明日で問題ないでしょうか?早めに出発したいですよね?」


「あぁ、そうしてくれると助かる。ワシの氏族ではないが、同族を放おっておくことはできぬ」


こうして俺たちは二つのパーティーを組んで、ブローンアンヴィルまで向かうことになった。


* * *


「ウヒョヒョヒョ…今度の行き先は、ブローンアンヴィルですか」


ギルドの外から顔だけを覗かせ、スイングドアの向こう側を伺うノームが一人。そう、久々のタルッコ登場である。少し前、サトルの実力を確かめるため、ウルフを放ったタルッコは、その頑張りとは裏腹にサトルの情報が得られず失敗しているのだ。でも、まだ諦めてはいなかった。今はその場で出しゃばりたい気持ちをぐっと堪えて、情報収集に徹しているのだ。今度こそ尾行してサトルが持つ力を調べること、可能であれば本を奪おうと目論んでいる。その表情はいたずらと悪意に満ちている。




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