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征伐編 1話


 カイエン・キャピタルはサトルたちとの闘いの末、死亡した。更に、ディープ・フォルスによる介入をも阻止することに成功。これにより、フォマティクスのメイス・フラノール侵攻は失敗に終わる。


 捕虜となったバトーは救出され、町を最小限の被害で救った結果は国中に広まるのも時間の問題であった。竜の討伐、自領土の繁栄、そして他領地の奪還、領主救出まで数人で完遂したサトルのパーティーは、スターリム国にて英雄視される。しかし、それは同時に敵国であるフォマティクス側にとって大きな脅威として認識されることになった。


 ディープ・フォルスが考案した侵攻作戦は非常に効果的であったが、サトルの存在がイレギュラーだった。陥落させて守りを固めても、放置すれば内側から崩され、対抗すれば人外の護衛に排除される。謎のマジックブックを片手に指揮をする彼の名声は留まることを知らない。


故にこれ以上、サトルを調子付けてはいけない。民衆からの求心力まで失えば領主は終わりだ。領土の取り合いにイタチごっこを悟ったフォマティクスの王子は、小競り合いを全面戦争に持ち込む算段を企て、大々的に宣言した。狙いは肥沃な国土を持つスターリム。


 サトルの得た領土、ソード・ノヴァエラも例外ではない……



 * * *



 『どうか…この…声……届いて…』


 うーん……うーん…


 『英雄よ、我が地…英雄…』


 まだ眠い


 『始まり…の…』


 自室で久しぶりにゆっくりと眠っていると、また例の声が聞こえてきた。これで何度目だろうか。


 「何なんだ…また…」


 俺は辺りを見回すと、緑色に発光した人型がより鮮明に形を作る。謎の声で起こされることはあったが、日に日に鮮明に見えるようになってきた気がする。


 ルールブックに照らし合わせてみれば、その姿は凡そドライアドの特徴に合致していた。


 眠い頭を叩いて目を凝らすと、そのドライアドは悲しそうな表情をしていることが分かった。助けを求めているようにも見える。


 「貴女は…この間の…」


 うわ言のように呟くドライアド


 『地を統べる英雄よ。始まりの地に来て……どうか、一人で……お願い…』


 「始まりの地?…そもそも君は、一体…それにどうやってここまでこれたの?」


 精霊のイタズラにしても、俺の自室に忍び込むのは簡単じゃない。リンドウが常に目を光らせているからな。それに、並大抵の敵であれば近くの部屋で寝ているカルミアが気が付かないはずがない。フォノスの裏をかくなんて想像もできない……と、考えれば考えるほどこのドライアドが何なのか分からなくなる。


 『時間が……ない。どうか助けを。……始まりの地、一人で、来て…』


 ドライアドは一層悲しそうな表情を作り、ある方向を指さす


 「その方角は…未開拓だね」


 ソード・ノヴァエラの開拓予定地となっている更に先の森。凶悪な魔物が多い危険な場所だ。そこを一人で訪れろなんて自殺行為にも思える。


 『待ってい…る……』


 それだけ言い残し、淡い光を振りまいて初めからそこに居なかったかのように消え去った


 次の瞬間、自室の扉が派手に壊された。勢いに乗って飛び出してきたのはカルミアだ。


 「…サトル!」


 彼女の前では扉など形無しなのかもしれない。だが俺の自室はフリースペースじゃないんだぞ!


 すごく心配そうな表情で俺の顔をペタペタと触れる彼女の顔を見ていると、そんなことを言う気も失せてしまうのだが。


 「カルミアさん、急にどうしたの?」


 「……魔力の淀みを感じた。それも魔物とか、その類だよ。一回だけじゃない、過去に似たようなことが何度もあった。何があったの…」


 十中八九、彼女の探知を遅らせたドライアドを指しているのだろう。魔物に襲われたと勘違いをしてしまっているのか。


 だが現状はドライアドが悪さをしているようには…


 カルミアが眉をハの字にしてこちらを見ている……


 こうしている間にも、続々とメンバーたちが集まってきた


 これ以上、誤魔化すのは違うか。


 「わかった。全部話すよ…。皆も聞いてくれ」


 俺はドライアドの出現と、今まで何度か寝込みに現れたこと。そして、一人で『始まりの地』とやらに向かうように指示されたことを伝えた。


 フォノスが顔をしかめる


 「明らかにおかしいよ。僕だけじゃない、カルミア姉さんの探知をすり抜けてここに現れるなんて。最初から居るか転移している以外に考えづらい。姉さんたちも気付かなかったんだよね」


 カルミアは頷く


 「…私がサトルの部屋の異変を感じてから到達したのは数秒もなかったはず。だけどその魔物は既に居なかった」


 だが謎のドライアドの気配はさっぱりだ。それにおかしいことがひとつ。カルミアの言うことが真実であるなら、俺とドライアドの会話は数秒の間に行われたことになる。それ以上の時間が経過していた……少なくとも俺はそう感じたのだが…


 イミスは腕を組んで壁にもたれかかった


 「でもさ…ウチ思うんだよね。奴が仮に危害を及ぼすつもりなら、もう既にやっているんじゃないかって…。ウチらが不甲斐ないせいだけど、今回のタイミングでサトルを倒すことだってできたはず。そうしなかったのは何故なんだろって」


 彼女の言う通りだ。この件には不可解なことが多すぎる。


 「マスターが無事ならそれで良い」


 ヴァーミリオンは淡々と答えた。しばらく答えのない沈黙が続く。


 こうしていたって仕方がないか。


 俺は手を叩いて注目を集めた


 「さぁ、みんな。来てくれて嬉しいけど、もう夜も遅い…明日から領地の自衛力も上げていきたい。今日は解散だ。ほら帰った帰った」


 サリーは俺のベッドを占領。聞いてない。


 「ファ~~……アタシのぽーしょんをくらエー」


 フォノスは肩をすくめると椅子に座って寝込み始め、イミスとカルミアは顔を見合わせて笑う


 「ウチは…まぁ、研究とかあるから。今日はここでいいよ」「…私もここでいい」


 「おいおい、皆…」


 みんな、心配してくれたんだね。


 結局朝まで皆、俺の部屋で思い思いに過ごしたのであった。




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