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領主編 138話


 セルシウスから祝福を受けたネックレスは、彼女の膨大な魔力の影響を受け、アーティファクトに匹敵する品となった。透き通った水晶からは大精霊の魔力が宿っているのが俺にでもなんとなくだが分かる。着用しているだけで、あれだけ寒く感じた外気も快適だ。これほど便利であれば毎日でも肌身離さずつけていたい。もちろん、カルミアから頂いた大切な品なので、性能が高かろうが悪かろうが、見た目がなんだろうが毎日身につけるつもりだが。


 祝福を終えたセルシウスは『また絶対に会いに来なさい!』と言って帰っていった。どうやら儀式も契約もなしに顕現し続けるのには限界があるらしい。リンドウを連れてこなくてよかった。何かの手違いで契約になんてことになったら手に負えない。


 オーロラの出現も含め、バトーには内緒にしてソード・ノヴァエラへ帰るつもりだ。これ以上精霊関連で彼の目を引いたら永住させられそうだしな。


 拠点に戻ったらより徹底した防衛策が必要になってくるだろう。



 * * *



 サトルが帰還準備を始めた頃…フォマティクスでは大きな動きがあった。


 フォマティクスの首都、ハイド・コンバティア


 上流階級が住まう城下町と庶民が暮らす下町で完全に区分けされた都市だが、区分けとは名ばかりの事実上の隔離である。というのも、国内では反乱と裏切りが日常茶飯事だったため、強制的な区分けが必要になったのだ。城下町へと出入りするために唯一通れる道は、大きな門があり重装備をした衛兵たちが配備された検問を通る必要がある。


 住民の大半は獣族、ティーフリング、ハーフエルフ、ノーム、ハーフオーク、リザードマンなどで、純粋なヒューマンは少ない。


 日夜食料を求め徘徊する庶民が、門前で騒ぎを起こし衛兵に捕まるのは最早日常的だ。そのため社会的な不平等や緊張感を強調し、対処的な手段が状況を悪化させるという悪循環に陥っている。


 フォマティクスは過去に一度、大規模な魔法実験を行っており、かつて豊かで実りあったフォマティクスの所有する土地は三分の一が魔物の住処となってしまっている。このため食糧事情がとても厳しい状況が続いている。


 だからこそ、ディープ・フォルスの企てたスターリム侵攻の第一歩は、国の希望であったのだ。


 そんなハイド・コンバティアでは、今日この日こそが記念すべき一日として祭りが行われる予定であった。ディープ・フォルスの領土侵攻作戦の失敗が知らされるまでは…


 全てを飲み込むような威圧感がある、黒を基調とした城内では、朝から慌ただしい様子


 城内の会議室では一席を除いて全てが埋まっている。その一席は他の席よりも一段と豪華に飾られていることから、最も偉い者が座することは想像に容易い


 その席の後ろで空間が歪むと、一人の男と傍付きが現れた


 黒髪碧眼で線が細い。中性的な顔立ちにはそれを台無しにするほどの顔に大きな斬り傷がある。ディープ・フォルスと自ら名乗る男だ


 「全員…揃っているな。遅くなった」


 言葉に反して悪びれる様子もなく、乱暴に座る。椅子に肩肘をついて足を組み見渡した


 しかし、それに異を唱える者はいない。それどころか崇拝の目を向ける者まで


 「我らが王子よ…」


 「王子のためならいくらでも待ちますとも!」


 王子…そう呼ばれたディープ・フォルスは、その言葉に慣れているのか表情ひとつ変えず、本題に入る


 「カイエンに預けてあったデリスフォレストが破壊された。それどころか、メイス・フラノールの侵略に失敗した」


 その言葉に、老人のような姿をした者が真っ先に机を叩いて腰を上げる


 「それは誠ですか…!」


 「あぁ」


 ぶっきらぼうに返答するディープ・フォルスこと王子


 わなわなと震える老人の怒りの先は王子ではない


 「カイエンめ…我らが王子の寵愛を受け、キャピタルの名を戴いたというのにこの始末とは…なんたる罰当たりか」


 一席に座する少年のような獣人が老人をいさめる


 「おじいちゃん、年なんだから叫ぶのはよしなって」


 しかしそれは火に油だった


 「じじい扱いするでないわ!第一、あのような僻地……占拠に時間がかかること自体がおかしなことだ。障害になりそうな戦力といえば昔に名を上げたバトーとかいう者だけ。こんな状況で貴重なデリスフォレストを失うなど、無能以外なにものでもないわい!!」


 老人が言葉の区切りにもう一度机を叩く


 少年は両手を頭の後ろに組んで椅子をギコギコとならす


 「ん~…たしかに、ちょっと不自然だよね。曲がりなりにも、カイエンはキャピタルだ。弱くない」


 王子は周囲を見渡して頷く


 「皆の怒りも最もだ。奴には『けじめ』をつけた。これで一席が空くことになるが計画に支障はない。ただ、奴が失敗したことには理由がある。スターリム国の所属と思われるパーティーが介入していた」


 老人が首をかしげる


 「ですが……王子よ。発言をお許しください。奴はスターリム国のパーティーひとつに遅れをとる存在だったのでしょうか。護衛も手練れを連れていたはずで、奴自身…すこし、その…阿呆なところはございますが、状況からして完全武装した一個中隊が1パーティーに滅されるなど考え難いことです」


 王子は苛立った様子で返した


 「腹立たしいが、事実だ。この目で見たからな。サトルと名乗る一行だった。特にパーティーメンバーが強い。隠し持っていた可能性はあるが、『奇跡の実り』は無かったはずだ。少数精鋭で陥落させ、同じ手法で奪い返されたとみて間違いない。カイエンはこのイレギュラーに対応できなかった。私が見に行ってやったときには、全てを使い果たし満身創痍だ。ポートの転移魔力も限界だった。あそこで仕留めきれなかったのは残念だが、機会ならいくらでもあるだろう」


 ポートと呼ばれた王子の傍付きは何も言わずお辞儀する。それを一瞥すると王子は続けた


 「サトル。こいつがイレギュラーだ。単体戦闘能力は極めて高い。同じように分散しても各個撃破されるのがオチだ」


 少年の獣人は椅子のギコギコをやめて目を丸くする


 「へぇー!『奇跡の実り』なしで戦えるの…どんな手品を使ったんだろうね!いいなぁ~会って確かめてみたいよ!!」


 王子は口角を上げる


 「それも良いが……お前たちにはもっと有用な使い方がある。我らはスターリム国に対して同時に戦を仕掛ける」


 「ついにやるんだね!」


 「あぁ、コソコソするのはナシだ。奴らの隠し玉は確かに脅威ではあるが、同時に対応できないという欠点がある。対する我らには、それぞれに唯一無二の『奇跡の実り』がある」


 王子が手の甲を晒すと、そこには禍々しいデオスフィアが光を放っていた


 老人は頷くと椅子に座る


 「王子よ、メイス・フラノールの占拠について、町中は既にお祭り状態です。これは如何様に始末をつけましょうか。祭りを取りやめますか」


 王子は顔を一度だけ横に振ると、不気味に笑う


 「いいや、続けさせろ。祭事は始まっている。ただし、その名目は変えてくれ」


 「はて…その名目とやらは?」


 「スターリムとの全面戦争記念日だよ」



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