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領主編 135話


 「お~い、雪像はできたのか?」


 サリーとあたふた(彼女は楽しそうだが)している内にバトーがやってきてしまった。とっさに雪だるまの前に立って目を泳がせる


 「あ、えぇ…まぁ、できました?というか。できてしまったといいますか…」


 「なんだ?歯切れの悪い。ちょっと見せてみろ」


 「ウネウネくん、かくれテ!」


 サリーがウネウネくんのウネウネを雪だるまの中に押し込めた。この状態では何の変哲もない、出来の悪い雪だるまにしか見えない。


 バトーは俺の肩越しから顔を覗かせ、雪だるまを確認すると頷いた


 「ほう……初めてにしちゃ良い出来だ。最初は皆こんなもんだ。なんだ、隠すことないじゃないか。大事なのは気持ちだからな!ワハハハ!」


 ニカっと歯を見せて笑みを浮かべる


 (違うんです。その雪だるまは正体不明のウネウネに寄生されているんです。なんて言える雰囲気じゃない…!)


 「ど、どうも……」


 「よし、依り代も完成した。あとは呼ぶだけだ。ついてきなさい」


 「えぇっと、ウネウネくん……じゃなかった。あの雪像はどうするんですか」


 「ん?せっかくだし一番目立つ場所にでも置いておくか。時間になれば精霊が降りて、気に入られたら依り代になる。心配することはない」


 「…えっと、精霊さんに気に入られない場合は?」


 「そりゃあ……まぁ、その時考えれば良い。心配するな!ひょっとしたら、サトルの活躍を称えるために大精霊がやってくるかもしれないぞ!ワハハハ!」


 「いやいや…それは困る…色んな意味で…」


 「謙遜するんじゃない!大丈夫だ!」


 サリーにどうにかするようにアイコンタクトを送るが、手でバツのサインを作っている。どうやら雪ごと破壊する以外に手の施しようがないらしい。作り直す時間は無いうえ、彼女はウネウネくんを気に入っている。壊すのはなんだか可哀想だ。



 * *



 雪華祭のメインイベント。降霊の儀式の時間がやってきてしまった…


 住民たちがメインストリートに集まり、思い思いに精霊をイメージした仮装を身に纏っている。夜の明かりを照らす魔道具の光が、降り積もった雪を幻想的に照らしているのがとても美しい。今日は大精霊が現れるかもしれない。という噂が噂を呼び、祭りの賑わいはとんでもないことになっている。こんな状況でなければ、俺はもっと祭りを楽しんだのだが。


 俺たちはバトーと席を並べ、イエティ肉のもてなしを受けている。サリーをチラ見するが、彼女は天真爛漫な様子で肉を食べていた。いつも通りである。


 「…サトル、どうしたの?顔色が悪い」


 カルミアが心配そうに俺の横顔を見つめる


 「あぁ、うん。ウネウネくんが…ウネウネしたらどうしよう…って」


 「…そう」


 カルミアがなんとも言えない表情を作り、黙って食事に戻る。


 ウネウネくんが入った雪だるまは、あろうことかメインストリートの中央広場に特別な台座まで拵えて、その上に魔道具でライトアップまでされた状態で配置されている。まるで展示会のようで、こうなれば出来の悪い雪だるまも幾分かマシに見えるのが不思議だが、生憎と正体不明のナニカが寄生しているのだ。いつ爆発するかわからないダイナマイトを胸に抱えているような不安と相違ない。


 ウネウネくんが動く様子は…今のところない。このまま終わるまで大人しくしてくれることを祈るばかりだ。


 バトーの側近が耳打ちすると、彼は頷き、一度大きく手を叩いて注意を集めた。


 「皆、聞いてくれ。『雲呼び』の儀式の準備が整った!いよいよ精霊様がお見えになるぞ!」


 それを聞いた住民たちは一層盛り上がった。


 「『雲呼び』って?」


 バトーは俺のグラスにエールを入れつつ答えてくれる。


 「サトルはこの辺りの文化に詳しくないんだったな。『雲呼び』は降霊の際に必要な儀式だと思ってくれていい。文字通り雲を呼ぶのだが…そこらの雲じゃないぞ。この雲からは大量の精霊を呼び込めるが、それに見合った魔力を消費するうえ、大掛かりな詠唱と、数十人が陣を組んで行う大規模詠唱術だ。魔術師は長期間の休養が必要になる。だから実施は年に一度が精いっぱいだ。この景色を特別席で見てほしくてな…気に入ってくれると嬉しいのだが」


 俺が何か言う間もなく、バトーは側近に指示する


 「始めてくれ」


 「っは!」


 側近が松明で合図すると、町の広場全体に魔法陣が浮かび上がった


 詠唱が続くにつれ、雲が集まってくる。町全体の体感温度がぐっと下がった。


 しばらく観察すると、やがて空にも大きな変化が…


 蒼く輝きを放つ球体と雪がゆっくりと降って、空を自然のイルミネーションのように飾ったのだ。


 「わぁ……」


 この時ばかりはウネウネくんのことなど忘れ、ただ上空から降り積もる宝石に目を奪われる


 「宝石みたいだ…」


 蒼い輝きを手で囲うと、隙間から抜け出して俺の周囲をくるくると描いてみせた。この地方の精霊はいたずらっ子のようだ


 「すごい…」


 カルミア、イミス、フォノスの元にもひとつ、サリーには…なぜか10以上の精霊が飛び回っている。やがて町全体が、精霊で溢れ、様々な雪像が動き出した。精霊が憑依したのだろう。雪像の動きに合わせ、吟遊詩人が即興で曲を奏でる。これが本来の、雪華祭なのか。


 「幻想的だ…」


 「ワハハハ!気に入ってもらえたようだな!その様子だと精霊がしっかり見えているようだ」


 バトーは笑顔で俺の分のエールを差し出し、満面の笑み


 「えぇ、球体上ですが…見えます」


 エールを受け取って、一杯飲む。俺にくっついた精霊はエールの周囲をふわふわしている


 「精霊は優しい魔力を好む。だが君たち全員が精霊に好かれるなんて面白いこともあったもんだ。そこのお嬢さんなんて、精霊が多すぎて眩しいくらいだ」


 「アハハ、なにこレ~!サトル、見テ~!」


 サリーは精霊でお手玉をしてみせる。失礼にならないか見ててハラハラだが、精霊も楽しそうだった


 (なんだか火の精霊とは対照的だな…)


 フォティアの時は厳格な儀式だったし、精霊は辺りに浮かんだりフォティアの力として吸収されたりで、こんな動きはしていなかった。周囲の温度に変化があるのは同じだが、精霊ひとつとっても、ここまで違いが出るのは面白い。


 精霊とのふれあい、雪像のダンスを楽しんでいると、空から一際大きな輝きを放つ球体がゆっくりゆっくり降りてくるのが見える


 「バトーさん、あれは?」


 「ん…?な、なんてことだ……まさか、本当に現れるとは!サトル、やったな!君はやはり英雄だ!我の目に曇りは無かった!」


 「え?なんです?」


 「大精霊だよ!君のために降りてきたに違いない!」


 「えぇ!?」


 「サトルの作った雪像があるだろう、そこに降りているようだ。この目で見ることができるだけでも幸運なのだ。これは本当に名誉なことだぞ!」


 バトーは年甲斐もなくはしゃいでいるように見える。それほど貴重な体験を今している。ということなのだろうが、俺の心はそれどころじゃない。


 (まずいまずい、ウネウネくんがいる。どうしよう、やめてくれー!)


 大精霊は、とうとう俺の出来損ない雪だるまの元までやってきた


 通常であれば、それに入り込んで動き出したりするのだが……


 大精霊は、雪だるまの頭上でピタリと動きを止めてしまう。


 「あぁ……マズイ」


 その時である


 雪だるまがガタガタ震えだす。我慢できないといった具合に。


 次の瞬間、雪だるまから禍々しい触手が数本飛び出した!


 大精霊の球体もちょっとビックリしたようで、少し身を引いたように後ろへ下がる


 「シュルルルルルル!!」


 ウネウネくんは触手を足にして蜘蛛の動きで台座から高速で飛び出し、誰かが何かを反応する間もなく闇夜に走り去っていった。ウネウネくんの行先は、誰にも分からない。


 傍から見れば、雪だるまに急に手足が生えて、蜘蛛じみた動きで走り去っていったというカオスな光景だ。


 そして沈黙だけが残った。沈黙しか残らなかったと言うべきか。


 大精霊はプルプル震えて、やがて俺の前まで凄まじい速度でやってくる


 『…ちょっとアンタ!』


 (大精霊の声!?…と、とにかく誠意を見せなきゃ)


 「は、はい!」


 『あんなものが依り代になるわけないじゃないの!どうなってんのよ!…少し怖かったじゃないの!』


 「すみません!」


 『作り直しよ!いいわね?明日まで待っててあげるから!大精霊様の言うことは絶対なのよ!必ず依り代と祝福してほしいものを用意すること!』


 「分かりました!」


 『2回も会ってあげるなんて特別なんだから、感謝しなさいよね!絶対よ!いいわね!』


 「はい!約束します!」


 『フン…じゃあね』


 大精霊はそのまま雲へ向かって飛んで行った。やがて小さな精霊たちも後を追うように消えていく


 バトーはポカンとしている


 「何が…どうなっているんだ…」


 俺は恐る恐るバトーのほうを見る。どう申し開きするべきか。


 ここまでやってもらった祭事をめちゃくちゃにしたのだ。怒ってもいいレベルである。


 すると、なぜだか彼は少年のように目を輝かせていた。


 俺の肩を掴み、揺さぶる


 「大精霊が語りかけるなど、この町始まって以来の出来事だ!何をしたか知らんが、よくやった!さすがは英雄だ!!やはり我の目に曇りは無かった!」


 なんだか違う方向に感謝されているー!!


 


 

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