領主編 134話
雪華祭の雪像を作るエリアは基本的に自由だ。家の前で飾るのがポピュラーのようだが、広場で作っている人たちもいたりして町中で個性豊かな作品を楽しむことができる。その中でも作品作りで有名な人だったり、有権者だったりすると目立つところに置かせてもらえるのだ。
俺の指定された作成ポイントは、一番目立つメインストリート。たくさんの人の目につくポイントなのだ。降霊の儀式はこの広場を使って行う予定らしい。主役である俺たちのパーティーは儀式に近い場所で雪像を作る名誉とやらを賜ったのだが、全然うれしくない。どうしてこうなった…。
既に精霊を称えるためのディテールの凝った作品が立ち並んでおり、中には数メートル程ある像まで……こんなものの中に素人が作った雪だるまを配置したらどうなるかなんて明らかである。
(これは…公開処刑という名の…罰ゲームなのでは?)
一抹どころではない不安を抱えつつ雪をかき集めるが、精霊など見たこともない。イメージで作るにも実力が足りなさすぎる。こういうときにイミスの器用さが羨ましく思う。彼女を招集したい気持ちも山々だが、目下、復興のために町中走り回っている彼女を呼ぶのは申し訳がなさすぎる。
雪像など作ったことがないうえ、昔、図画工作の授業なんかでは、ひとたび粘土を持たせれば不気味なハニワを作ることで有名になった俺。そんな人にバトーは一体何を期待しているというのだろうか。
(えぇい、ままよ…!やれることをやるのだ!)
俺は決意を込めて雪と格闘を始める
* *
そして数時間の奮闘の末…
俺の目の前には出来損ないの雪だるまが鎮座することになった。
雪だるまとギリギリ言えそうなナニカは崩れかけの笑顔でこちらを見つめている……
どうしてこうなった!いや、わかってはいたが!
「う…これはまずいな」
人は比較する生き物で、良いものと悪いものを並べるとそれがより顕著になるのだ。何が言いたいかというと、俺の雪像の出来の悪さは、より磨きがかかったように見えるのである。
近くを通りかかったガキンチョがゲラゲラ笑っている
「お母さーん、あれ、なにー!なんかへーん!」「っし!やめなさい!お兄さんだって頑張っているのよ!」
(グハ…)
ガキンチョの心無い口撃によって俺は四つ這いになる。地味にお母さんの優しさも追撃になっている。
(やっぱりこれは罰ゲームなのでは!?)
仕方がないじゃないか。誰にだって初めてはあるんだ。初めから完璧なんて人いない。俺だって不得意な分野があるのだ!
気持ちを奮い立たせてみても、出来の悪い雪だるまは、情けない顔をこちらに向けるだけだ。雪だるま君第一号を犠牲者にカウントするべくスコップを構えたところで、サリーがやってきた。暖かそうな服を着こんで、売店で買ったと思われる串物を両手に持っている。
「あれ?サトルだ!なにこレ、ゴブリン?」「違うわ!精霊をイメージしたんだよ!」
「うーン……そうなノ?」「そうだよ!」
サリーは表面上は笑顔だが、どちらかと言えば困り笑顔っぽく微笑んで見せる。
(うーんじゃねぇ!あとその笑顔やめろー!俺の心のライフはもうないのよ!)
「そ、そうだ。サリーさんも一緒に手伝ってよ。暇でしょう?」
(怪我人の治療はひと段落ついたはずだ。手に持っている美味しそうな串が何よりの証拠!)
「アタシ?別に良いけド…サトルだけで完成させなくても大丈夫なノ?」
精霊は心がこもっていれば宿ると、バトーは言っていた。俺一人の力で完成させないといけないという縛りはないはずだ。
「大丈夫だよ、心をこめればね!」
「心ネ!わかっタ!」
(二人で作れば、俺一人で作ったものより、良い作品になるはずだ!)
ただ無心になって二人して雪をかき集める
だが、相手がダメだった。この安直な発想が悲劇を生むのは必然である。
* *
更に一時間ほどかけて、一から作り直す
もう夕方で、これ以上の時間的な余裕はない。そろそろ儀式に参列せねば……
「サトル!すっごい良いネ!こレ!」
「……」
二人で協力するということは、一人で作業するのとは全く異なる。文字通りの協力が必要なのであって、それをしない。つまり個性と個性がぶつかれば調和が素足で逃げ出すのも時間の問題だったのだろう。
俺たちの目の前には、さっきより酷いナニカが鎮座している
一つの大きな雪玉に、ウネウネ動き回る触手が寄生して這いずり回っていた。雪だるまの顔だけは残しているのが余計に不気味で、たまに『ヴォオオオオ…』と蠢き囁く。害は無さそうだが、もう害を与えるナニカにしか見えない。これを見た住民たちは腰を抜かして逃げ出したりして、もう収集がつかない。
どうみても闇の生き物です。本当にありがとうございました。
どうして、どうしてこうなった……いや、サリーのせいだ…きっとそうだ
大きな雪玉を作るところまではうまくやれていたはずだ。それからサリーが『精霊なしでも動いたら面白いと思うし精霊もビックリするんじゃないかナ!?』とか言い出したところからおかしくなったのだ。特製の即興ポーションやらなにやらを雪玉に混ぜ始めて……決して悪乗りした俺に非は……非は……あるな。
「これ……どうするんだよ……」
『ヴォオオオオ……』
触手雪玉は、俺を慰めるように、その怪しいウネウネで目の下を優しく拭ってくれた。
「う…ありがとう(全然うれしくない)」
サリーは一仕事終えたような、満足そうな表情で頷く
「名前は……ウネウネくんだナ!」
雪だるま一号改め、ウネウネくんはうれしそうに触手を伸ばした
こんなものに精霊が入り込むわけがない。だってなんか既に寄生されているし!むしろ怒られるのでは!?
今更作り直す時間もない。もはや後の祭りである。まだ始まってもないのに。
「どうすっかなぁ~!!」
俺は頭を抱えた。




