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領主編 133話


 雪華祭当日


 いつにも増して一段と寒い日だ。しかし、メイス・フラノール占拠から解放されたのもあってか、町の雰囲気は潜入時よりも一段と明るく見える。所狭しと立ち並ぶ露店では、氷の精霊に関連した商品がラインナップされており、子供たちが群がっているのが印象的だ。派手な飾り付けに様々な雪像は、見ているだけで楽しい気持ちにさせてくれる。


 氷の精霊をイメージした商品は、白い球に目が二つ付いているだけのシンプルなものから、巨人の氷像、まで様々だ。ここまで精霊の姿の認識に一貫性がないのは、精霊の姿を直接見ることができない者が多いためだろう。


魔力を持つ者や精霊が心を許した者でない限り、精霊そのものを目視するのは難しいのだ。幸いにも、いたずら好きな氷の精霊が雪像へ宿り、動き出す姿は誰にでも見ることができる。人によって印象が違うのはそのためだ。


 色々な雪像があり、見ているだけで楽しい。どれも心が込められていてステキだ。


 町を歩いて商品をひやかしていると、雪にも負けずに屋台の屋根をぽんぽんと弾くおじさんの店主が美味しそうなイエティ肉を売っている。食べ歩きできるように焼きたてをパンに挟んで手渡ししていた。ついつい匂いに釣られ、気づけば屋台の前だ。


 (ひとつ貰おうかな…)


 「おじさん、ひとつ下さい」


 一番美味しそうなイエティ肉を指さした。おじさんは愛想よく返事する。


 「あいよ!おじさんは金貨100枚ね!イエティ肉は金貨10枚!」


 俺は懐から銅貨を取り出し、黙って5枚ほど屋台に置いた。今日はツッコミをしないと決めている。おじさんも返事を期待してなかったのか、普通に受け取って手際よく焼き始める。


 「まいど!ちょっと待ってな」


 他愛ない話をしつつ、出来上がったばかりの肉を特製のタレをつけ、パンに挟んでくれた。これは美味しそうだ!


 「お待ちどう!お祭り、楽しんでくれ、我らの救世主殿!」


 (バレてたか……)


 オマケにひとつ多めにくれたのはうれしいが、両手が埋まってしまった…座れそうなところは無いものか


 うろついていると、近くで見世物を見つけたので空いている席に座って眺める。どうやら救世主が町の圧政へ立ち向かう話のようだ。そこそこ人の出入りが多いので有名な旅団なのかもしれない。


 「世間が許そうとも!この私の目が黒い内は、絶対に許さない!」


 如何にもヒーローっぽい人が悪人に剣を向ける。謎なことに、腰には俺と同じような本を装備している。もちろん剣は作り物だ。


 「えぇい、小賢しい。我の大魔法を受けてみよ!」


 やや淡泊な口調で如何にも悪人っぽい人が杖を掲げると、本物の火魔法が飛んでいった。ヒーローっぽい人は本を取り出して魔法を吸収する


 (魔法は本物なんだな…戦い方がなんか俺っぽいような)


 「なぬ!それではこれでどうだー!」


 (あぁ、この肉汁……やはりイエティ肉は最高だ)


 ゆっくりと屋台の味を楽しむ。


 そうそう、これで良いんだ。一人の時の休暇は心が休まることをするべきなんだ。あぁ、なんたる至福の時か


 「ぐ……なかなかやるな、だがスターリムの英雄たる私、サトルは負けるわけにはいかない!今こそみんなの力が必要だ!声援を分けてくれ!」


 口の中のものを勢いよく吐き出しそうになったところで慌てて飲み込み、咳き込む


 どうやらこの劇は俺を題材にしたもののようだ。ビックリしすぎて一気に味が分からなくなったぞ


 周囲の人は劇に夢中なのか、俺のことを気にしていない。気付いていないという方が適切か


 隣に座っているやんちゃそうなガキンチョが枝を振り回して叫ぶ


 「サトルー!いけー!」


 舞台の隅に立っている進行役のお姉さんが、皆の声援が必要だとか言って笑顔で耳を澄ます仕草をしている


 相応に大きな声援が入ったが、進行役のお姉さんは何が気に食わなかったのか、あろうことかわざとらしくもっともっと煽りだす


 「あれれー!おっかしいぞー!?みんなの元気な声が、まだまだサトルに届いていないみたいだー!もっと大きな声で応援してあげてー!!」


 ヒーロー役もお姉さんの言葉に合わせるように、急に胸を押さえて苦しみだし、悪役の攻撃を絶妙な加減で受けている。悪役はファイアボールがクリーンヒットしないように的確に外している。逆に難しいだろう…かなりの使い手だ。


 「っく!皆!助けてくれ!みんなの声援が命だ!!」


 (俺は今、声援より平穏が欲しいのだけど!てか俺そんなこと言わないし!)


 俺の心の抗議もむなしく、ガキンチョ共が本気になったのか一丸となって立ち上がりわちゃわちゃ叫びだす


 あまりの恥ずかしさから居ても立っても居られなくなったので、そそくさと退席した


 「はぁ………恐ろしい劇だった…」


 いたる所で自分の名前が出るから、なんだか落ち着けない。バトーはあんな調子だから期待できないしな!


 (…そろそろ雪像作りをしなければ)


 良い時間になっていたので町の広場まで向かうことにした


 夜の降霊イベントが始まってしまう。夜からは氷の精霊が一度に介する時間があるらしい


 その時間までに間に合わせる必要があるのだ。


 

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