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38話


「実は、北にあるドワーフの採掘町、ブローンアンヴィルの採掘場で、竜魔吸石が発掘されたんじゃ」


その言葉でガヤガヤしていたギルド内は更に騒がしくなった。


「おい、聞いたかよ」


「竜魔吸石ったら、素材自体が優秀で武器や防具に優れているというあの…」


「魔力を帯びた鉱石って噂だ」


ガヤガヤしている中、冒険者の一人が赤毛のドワーフに詰め寄る。


「発掘されたって…自慢かよ?それ自体は別に何の問題もないどころか、良いニュースじゃねぇか」


赤毛のドワーフはバツが悪そうに話を続けた。


「あぁ…発掘されるまでは良かったんじゃ。問題は発掘されたのと同じタイミングで、見たことがない魔物が出現したのじゃ。魔物は、その鉱脈を守るように立ち回ってな。迂闊に近づけないうえに、ワシたちではどうしようもない…」


ブローンアンヴィルは採掘場がある町だが、町と言ってもここ、シールドウェストのようにギルドがある訳でもないし、大きな商店街等も存在しない。あくまで採掘を行うために発展したような場所だ。当然普段から強力な魔物が採掘場を闊歩することもないわけで、実力ある冒険者も住み着かない。シールドウェストの冒険者は強者が多いから、救援の要請にこの場所を選ぶという認識は正しいものだろう。 


「なるほどな…そいつをどうにかしてほしくて、ここまでやって来たんだな?」


「あぁ…端的に言えばその通りじゃ」


「じゃあ、何でそんな焦ってるんだよ。時間をかけて討伐していくか、魔物が出ていくまで待てばいいじゃねぇか」


「そうしたいのじゃが、ワシらの長が、近々総攻撃をすると言って聞かんのじゃ。 …ワシらは一人ひとり戦いの心得はあるが、奴にそれが通用するとは思えん。あの魔物は甘く見ちゃいかん…このままでは皆死ぬだろう。だから頼む…助けてくれ」


「随分無茶な長だな」


「…そう言うがな。お主らが知っている通り、ブローンアンヴィルで開催される鍛冶大会が迫っている。大会には氏族の長もいらっしゃる予定じゃ。竜魔吸石はミスリル鉱石に並ぶ超高級品じゃから、この採掘場が安定的に供給できる産地となれば、ワシら氏族の王からの覚えはめでたい。鍛冶大会はドワーフの誉そのもので、絶対に中止などできん。それに、採掘場で働くドワーフは皆、鍛冶一本では稼げぬ見習いばかりじゃ。そいつらが自分で採掘した鉱石で上等な武器の一つでも作れば、名を売るチャンスとなろう?それが竜魔吸石なら尚更…」


「採掘した鉱石の一割は、採掘した者に権利がある…だったか?ドワーフって奴は相変わらず仲間思いだな。まぁ俺たちも、そんな良い武器や防具を打ったことのあるドワーフとは、繋がりを持ちたいところではあるがな」


「そうじゃろう?ワシらドワーフは鉱石と共に生き、鉱石と共に死ぬ。珍しい鉱石を打つほど、劇的に力が身につくのじゃ。長はこの一世一元のピンチとチャンスに焦っている。頼む、魔物を討伐する手伝いをしてほしい」


赤毛のドワーフは一度呼吸を整えて、周りを囲っている冒険者達に頭を下げる。ドワーフはエルフ程ではないが、頑固でプライドが高いと聞いたことがある。そんなドワーフが皆の前で頭を下げるなんて、相当参ってるのだろう。冒険者が思い出したかのように確認する。


「いや、ちょっと待てよ…魔物ってどういう奴だったんだ?見た目は?」


赤毛のドワーフは言い出すのが辛そうで、一度大きなため息をついた。次第に顔色が悪くなり、何度か頭を掻きながら、諦めの表情で口を開いた。


「……見た目は、ワームなんじゃがクチバシがある。顔の部分…クチバシの周りにタコ足のようなものが四本ほど生えててな、そいつで捕獲して、鋭いクチバシで捕食してしまうんじゃ。もう既に何人か犠牲になっとる」


「おい、もしかしてグランド・グリックじゃないか?」


「俺は嫌だぞ…そんな凶暴な魔物。犠牲無しで倒せるわけがない!」


「俺もグリックはちょっと自信ないな」


その説明を聞いた冒険者たちが驚き、一人、また一人と話の輪から去っていく。グリックとやらは後で調べてみよう。恐らく強い魔物なのだろう。名前を聞いただけで囲っていた人の半分がいなくなってしまった。まだ数名、腕に自信がある者がいたので、ドワーフは話を続ける。


「そいつは竜魔吸石を食べてるせいか、色が鉱石同様に青白く変色してて、サイズが馬鹿デカイ。ヒューマン五人分はあった…そして、竜魔吸石が保有する魔力が備わってしまっている可能性があるんじゃ。何故なら、使えないはずの魔法…ファイアボールを放ってきたんじゃから…」


賑やかな場は一変してお通夜モードに突入した。


「おいおい、話を聞く分にはそれ、グリックのボス。しかも変異種だぞ!魔法を使えるなんて聞いたことがない」


情報を伏せていれば、もしかしたら依頼を受けてくれる者がいたかもしれない。こんな無茶苦茶な魔物の情報を聞いた強者共は、表情を険しくし、あるものは首を横に振って、あるものは両手でお手上げのポーズ…そして皆去っていってしまった。


「やはり、こうなってしまったか…っく、このままでは…ん?」


そう、その場で呑気に話を聞いてた俺と、受付のお姉さん以外は誰もいない…。


「お主…もしや依頼を受けてくれるのか?」




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