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領主編 129話


 どす黒い空間が捻じ曲がり、一人の男と女が現れた。空を切り取ったような違和感をもつポータルは、そのまま残っている。ここから現れたとみて間違いない。


 男は黒髪碧眼で線が細く中性的な顔立ちだ。顔に大きな斬り傷があるのが分かる。服装はフォマティクスの位が高い人が身に着けるタイプの服だが、一際上物であった。一見して貴族ということがわかる。


 女は衣服から傍付きのメイドに見えるが、確認できるだけでも腰には剣、背には槍を装備しており、戦闘が得意であることが伺える。男の一歩後ろを歩いていることから、主従関係のように見えた。


 男は周囲を見渡すと、カイエンに目が留まる。カイエンは目を丸くして、ぐるぐる巻きの状態からもがき、叫んだ


 「ディープフォルス様…!このような場所に……あぁ、私を助けに来てくださったのですね!!」


 (カイエンの仲間か、いや…敬称からカイエンの上に君臨する者か……こんなタイミングで増援、しかも転移で現れるなんて…奴は何なんだ)


 カルミアは俺をゆっくり降ろすと、前に出て抜刀の構えをとった。サリーは遠距離から杖を構え、フォノスとイミス、ヴァーミリオンはバトーを守る位置に立っている。


 ディープフォルスと言われた男はこちらを気にも留めず、カイエンと周囲を見比べ…やがて、大きなため息をついた


 「……ふぅ、……どれほどだ」


 カイエンに向けられた言葉だが、彼は意図を測りかねている


 「え…?えっと、なにが…でしょうか」


 「貴様が使った時間、フォマティクスの資源、人員…どれほど消費したと聞いている。…得られたものは何だ。与えた時間は過ぎている。…その結果がこれか」


 縄を解くこともなく、淡々と言葉を続けるディープフォルスに対し、カイエンの感情は歓喜から悪寒に変わるのも時間の問題だった


 「その…違います。これには訳が。そうだ!奴らです。占拠まではすべてがうまくいっていました!奴らが現れるまでは!」


 カイエンは焦り交じりの形相で必至に俺を睨みつける。しかし返ってくる返答は問答だけ


 「アレを預けてあっただろう。それがあれば負けることなど万に一つもない。アレはどうした」


 「それはその…」


 カイエンが言い詰まると、女が一歩前に出て発言する


 「ディープフォルス様、デリスフォレストの痕跡がございません」


 「何…」


 ここで初めてディープフォルスは感情らしい感情を出し、カイエンの縄を掴む。カイエンはようやく助けてもらえるのかと安堵したが、彼がとった行動は助けるとは到底思えないものだった。縄で縛られたカイエンを掴み上げ、地面に叩きつけたのだ。


 「グハ…!な…なにを…」


 カイエンの問いを待たずして詰め寄るディープフォルス。胸ぐらをつかむように縄を掴んで凄む


 「アレをどうした。なぜ痕跡反応が消失している」


 カイエンは困惑したように答えた


 「う…ゴホ……わ、私にもわからないのです!奴らと戦闘中、突然使えなくなりました。奴らが何かをしたに決まっています!」


 ディープフォルスはカイエンを放り投げ、控えていた女へ指示を出す


 「ポート、調べろ」


 「御意」


 ポートと呼ばれた女は、現れた時と同じ魔法を使用し、どこかへ転移した。


 「さて、私の計画を邪魔してくれたのは貴様らだな……どこの誰かは知らぬが、私の貴重な時間を浪費したその罪は死をもって償ってもらう」


 ここで、ようやく俺たちを注視した。腰に佩いた剣をゆっくりと抜く。剣は特別な合金でできているのか、紫の靄を纏っており刀身がよく見えない。一体どんな技量で作られた剣なのだろうか。


 (おそらく、この男はフォマティクスの中でもかなり位が高い。そして、今ここで何かを探している。だが何をだ…?カイエンは戦闘中に使えなくなったといった。それと関係している可能性が高い。だが今はそれを妨害している時間はない。相手が好戦的である以上、戦う必要があるだろう…そして…それは孤立した今がベストだ。少なくとも、あの女がいるときよりも勝率は高いはずだ)


 状況があいまいだが、まずは捕らえてからでも遅くはない。カイエンを逃がす結果だけは絶対にさせたくない。そうなると、こちらが取れる行動はひとつだけだ。


 「サリー!先制攻撃を!」


 奴が剣を構えるより早く指示を出す。サリーに合わせて皆動きだした


 「は~ィ♪ [イリュージョン・ストライク]!」


 サリーの杖から魔力が収束、氷弾を無数に射出した 礫は壁を貫通するほどの威力があり、ディープフォルスから外れた弾は屋敷の壁を穴だらけにする


 「ソーサラーか…見たことがない魔術のうえ、魔力量が桁外れだ…だが!――ふん![シンク・エンハンス]」


 先ほどの女が使っていた魔術と思われるワープを、この男も使った。10歩程度の距離だが、ポータルを作り移動することによって瞬間的に転移している


 (外れた……!転移魔法はこの男も使えるのか…!?)


 畳み掛けるようにカルミアが一閃


 「[雷閃一文字]」


 あまりの速さに反応が遅れてしまったのか、ディープフォルスはとっさに身構えた片腕を吹き飛ばされる


 「ぐ…貴様、剣士か。人とは思えぬ。ッチ…致し方あるまい……[シンク・エンハンス]」


 さらにポータルで距離をとって、腕に魔術をかけると欠損が修復された。ディープフォルスは数個、懐から石を取り外し、地面に投げ捨てる


 (これはカイエンが使っていた回復手段か…?今捨てたのは…もしやデオスフィアか?)


 デオスフィアのような石は白くなっているが、間違いなさそうだ


 「まだまだいくよォ♪[能力値変性薬][グレーター・リエゾン・シェイプシフト]」


 サリーは指でポーションを開けて一気飲みし、更に魔法を唱えた。すると、片腕が竜のような凶悪な腕に変化する


 (グレーター・リエゾン・シェイプシフト……サリーのクラスアップで新たに獲得した魔法だ。自身か味方に限り、強大な生物へと体の一部を変化させることができる。今回は戦闘用に腕を竜化させ、能力値変性薬で筋力を上げるというシナジーコンボだ。ゴミ捨て以外で彼女がこれを使うのは初めてかもしれない)


 「カルミアちゃン!」「…わかっている」


 カルミアはスイッチするように彼女の手をとって男へ向けてサリーをぶん投げる。サリーはその勢いにのって、男に竜の爪を喰らわせた。


 「ていていてーィ!」


 「なんだ…それは…でたらめだ!くそ![シンク・エンハンス]!」


 サリーの前に多数のゴーレムが立ちはだかる。どれもカイエンの技量には劣るものの、間違いなくカイエンの技だ。だが彼は今ぐるぐる巻きになっていて詠唱ができる状況でもない。


 (どうなっている…?なぜあの男はカイエンの魔法が使える…?)


 足止めに生み出したゴーレムは、サリーの竜の爪によって、まるで豆腐を潰すような具合に簡単に弾けていく。能力値変性薬とシェイプシフトのシナジーが生み出す威力は凄まじい。彼女の一振り一振りが轟音を生み出している


 男のほうも狡猾に動いており、ゴーレムをサリーの頭上に落下させた


 だが、フォノスがサリーを担いでこれを避ける。ついでに毒ナイフをばら撒くと、一本だけ奴に刺さった


 「ぐ…!」


 奴は一瞬だけ膝をつくが、イミスが弓形態で狙っていたことは想定外だっただろう。そのナイフにはビーコンがついている


 これでチェックメイトだ


 「終わりよ![カロネード・ディストラクション]!」


 イミスとヴァーミリオンが放った弓が男の目前に迫るが――


 「ディープフォルス様、お待たせしました」


 突然、女がポータルから現れる。最初から残してあったものだ


 (なるほど…ディープフォルスが一旦下がったのはポータルとの距離を狭めるためか)


 女はディープフォルスの前に特大のポータルを作り、矢を全く異なる箇所へ転移させた。


 数秒後、町の外れで爆発音が響く。イミスの攻撃が転移させられたとみて間違いない


 (この女はかなりの距離を、物、人問わず転移できるのか)


 ディープフォルスは、更に懐からデオスフィアらしき石を使って、フォノスの毒を克服した


 立ち上がると、何事もなかったかのように淡々と話す


 「遅いぞ。首尾はどうだ」


 「申し訳ございません。デリスフォレストは書斎らしき部屋で破壊されていました。部屋には既に誰もおりませんでした」


 「やはりか……」


 報告を聞いたディープフォルスは、次の瞬間には何のためらいもなく、カイエンの首を斬り飛ばした


 (仲間を…殺しただと……!?)



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