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領主編 125話


 * *


 「ウヒョヒョヒョ…!とうとう最後の見張りがいなくなりましたぞ。今の内にトンズラするべきですな!そして、わたくしめをこんな薄汚い場所に何日も閉じ込めていた罪を償っていただくのです!フン!」


 ガン!


 タルッコは鉄格子を力いっぱい蹴とばすが、足がジンジンするほどの痛みを感じる以外に変化は起きない


 「ウ…ウヒョ…あ、足が…」


 「あー、あー、何やってんだよ。もう…ちょっと見せてみな!…腫れているじゃないかったく…余計な手間増やすんじゃないよ」


 なんともちんちくりんなノームと強者の匂いを漂わせる女。


 何をやらかして、この最も厳重で暗く、過酷な場所にぶち込まれてしまったのかは分からない。だが、長らく一人で閉じ込められていたことを考えると、こんな些細な変化でも、嬉しく感じてしまうものだ。だから奴らの境遇なんてものは気にならない。


 石の壁に背を預け、伸びた髪をかき分け、鋭い目で二人をじっと観察する


 (騒がしい奴らだ…だが……気は紛れるというものだ)


 「…お前たちは…ずっと騒がしいな」


 タルッコがこちらに目を向ける


 「バトー殿も手伝ってほしいものです!この鉄格子は手ごわいですぞ!わたくしめの最強キックでも壊れませんでした!かくなる上は黄金の右フックしかありませんな」


 タルッコが痛がりつつもファイティングポーズを維持する。我は手枷のついた両腕を横に振った


 「…やめておけ、この鉄格子はただの鉄ではない。我の拳でもびくともしない魔力を施してあるからな。腕が折れるだけだ」


 丸太のような傷だらけの腕を見せると、タルッコは残念そうな顔をした


 タルッコの無駄なあがきを観察しつつ、その辺りに転がっている石の破片で、壁にひとつ傷を入れる。牢屋に入ってから、意識が覚醒する度に行っている日課だ。


 もう何十もの傷が壁に刻まれている。


 (我が領民は無事でいてくれているだろうか…)


 壁の傷が増える度に、不安が大きくなるが、その不安をかき消すようにちんちくりんが叫んだ


 「ウヒョー!!!痛い!痛すぎる!おのれ!壁とフォマティクス!許しませんよ!」


 「だぁー!黙ってじっとしてろ!怪我の具合が見れないだろう!」


 サザンカという女がタルッコの足を診ようとしているようだ。如何せん女の膂力が強いのと、扱いがぞんざいなせいでいじめているようにしか見えないが。


 サザンカはタルッコの片足を捕まえて、狩猟されたウサギのようにタルッコを逆さ吊りに持つ


 「ウヒョ…!?あなたは怪力です!診せたりしたら逆に折られそうなのでお断りしますよ!というより怪我人の扱いじゃありませんね!?」


 「なんだと!心配している女にそんな態度は無いだろう!折るぞ!」


 「ウヒョ…!!サザンカ!そういうところです!やめろー!」



 メイス・フラノール地下牢



 この強固な牢屋に、これを作るよう命令した我自身が入ることになろうとは思いもしなかった


 メイス・フラノール内で凶悪な犯罪を犯した者を収監する特別な牢


 出る方法はカギを使用し鉄格子の扉を開くか、この頑丈な岩壁を監視がついている中、生涯に渡って掘り進めるくらいしか無いだろう。


 もう一つ方法はあるのだが、それを行使するには強い力を持つ戦士が必要だ。


 最も、地上ではイレギュラーな事態が発生しているようで、地下は揺れるうえ、監視も居ない


 脱獄のチャンスなのは言わずもがな…しかし……


 「問題はどうやって出るか…だな」


 タルッコとサザンカを見つめる。タルッコは諦めたようにグッタリしていた


 この騒がしい二名が同じ牢部屋に入ったのは数日前だ

 

 薄暗い石造りの廊下を照らす松明の火が揺れ、それに合わせるように牢の天井から埃が落ちる


 普段は鉄格子の向こうであくびをしている兵も居ない。この『揺れの正体』に対処しているのだろうか


 頑丈な城を揺らすほどの音が、先ほどから断続的に続いているのだ


 この状況をつなぎ合わせて考えれば、ある程度の目測に辿り着く


 「助けが、来たか……」


 今ならば、領民を人質にされることなく抜け出し、体制を整えられるかもしれない


 鍵を握るのは、この女だ。数日間観察してきて、並々ならぬ力を持つことはタルッコとのやり取りを見て分かった。騒がしいと兵に殴られても大した怪我もなく平然としており、ノームとは言え人一人を簡単に持ち上げてしまう膂力がある


 タルッコの応急処置という名のトドメをさしたサザンカは、お腹が空いたようで、何度も腹をさすっている


 我は残り少ないパンの欠片を差し出した


 「…ほら、これを食え。それと…お前を腕利きの戦士と見込んで試したいことがある。手伝ってくれ」


 サザンカはパンを嬉しそうに頬張ると、すぐに飲み込んで頷いた


 「くれるのか…!はぐ…はぐ…んむ。……よし、いいぞ。一口分の仕事はしてやる」


 我は鉄格子を指差す


 「一度、タルッコがやったように鉄格子を蹴とばせ。どれほどの力か見てみたい」


 サザンカは肩をすくめる


 「別に良いが……多分壊れないぞ」


 素早い動きで鉄格子を蹴ると、不快な金属音が響いた


 威力が高く、鉄格子の防壁が悲鳴を上げているのがわかる。だが…ギリギリ牢屋の方が頑丈だったようだ


 「ほらな…?」


 サザンカは首を傾げると我を見つめた


 「…十分な検証結果だ。この威力であれば……いけるかもしれん。すまないがもう一度頼む……ヘラヘクスよ。この者に一時の野獣の如き力を与えたまへ…『レッサー・ブルズストレングス』」


 力を振り絞って呪文を唱える。


 「っぐ…視界が、ぼやける…」


 おそらく詠唱限界で、この一週間で貯め切った魔力を全て使った。これが最後の一回だ


 サザンカの右足に闘牛のような魔力の刺繍が施される。それと同時に、牛の突進力を得たかのような力がサザンカの内側に湧き出てきた


 彼女は驚き、目を見開く


 (一時的に力を上げる我が家に伝わる魔法だ。驚くのも無理はない)


 サザンカが駆け寄ってくる


 「この力…すごいな!おっさん!…て、そんなことより大丈夫なのか?」


 「おっさんじゃない…バトーだ。それより…その付与魔法の時間は限られている。お前の力であれば、この牢を打ち破れるかもしれん。いけるか」


 「あぁ、今なら何でもぶち破れそうだ」


 グッタリしていたタルッコが起き上がり、飛び跳ねる


 「おや!おやおや!!これは珍しい魔術だ!牛みたいな力を持つ女!馬鹿みたいに力が強いあなたにピッタリです!」


 「おっさん、このノームで試してもいいか」


 「ウヒョ!?」


 「やめてくれ…もう魔術を行使する力は残っていない」


 「ったく…いくよ!」


 サザンカが助走をして鉄格子に向かって飛び蹴りを入れる。すると、先ほどと比べ物にならないほど大きな金属がぶつかる音が響き、あれほど強固だった鉄はガムのようにぐにゃりと歪みきった!


 「…どうやら、うまくいったようだ」



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