領主編 124話
巨大なゴーレムの肩に乗って俺たちを見下ろすカイエンは、ゆっくりと手を降ろすジェスチャーをする
「終わりです」
動きに合わせるように大きな拳がイミスとヴァーミリオンへ振り下ろされた
ゆっくりとした動作に見えるが、巨大さ故だ。
イミスはブーツのジェットで回避。直撃は避けたものの巨大な質量が地面に接触する余波だけで接触面は地割れ、突風が吹き荒れる。
(なんて威力だ…!)
「一点突破の連続射撃!これで…どう!」
飛来する瓦礫を躱しつつゴーレムの足に連射を決める。着弾点が吹き飛び、大きくバランスを崩すがすぐに再生してしまった。
「うっそ…そんなのアリ!?」
イミスは反撃で何度も射るが、岩が素体のゴーレム相手では有効打にならないうえ、ゴーレムの岩を削っても、時間が経過すると元通りだ。一度に大きなダメージを与えるか、カイエンにダイレクトアタックする方法しかないだろう。
「はぁ!!」
カイエンに射った矢は、ゴーレムの肩から突然生成された岩によって防がれる
「私を狙った攻撃も想定済みですよ。後衛なら尚当然のこと」
「っく…」
一旦下がると、ヴァーミリオンがイミスへ促す
「マイシスター、私に考えがあるの」
「考え…?」
「うん…私をスカーレット姉さまと同じように、近接武器に切り替えられない?それこそ、一撃で粉砕できるほどの武器に…!」
イミスは言い淀む。まるでヴァーミリオンが壊れてしまうことを恐れているかのようだ
「そ…それはできるけど…」
ヴァーミリオンはイミスの微妙な機微を感じ取り、優しい声量で話した
「スカーレット姉さまのことは…知っているよ。サトル様も優しく話をしてくれたから。マイシスターにとって、とてもつらい経験だったことも。だけど、ここで奴に負けるのだけは、私だって嫌なの。悔しいし、私たちの力だけでどうしても見返してやりたい。だから、貴方の本来の戦い方をしてほしい。奴に弓は効かない」
イミスは首を振る
「ダメだよ……ウチには…」
「壊れることを心配しているの?」
「…」
「マイシスターの力の強さが、私の機体の頑丈さに叶わないと思っているの?他ならない。貴方が作ってくれた自慢の体だよ」
「ウチにだって…そんなこと、分かっている。だからこそよ。ヴァーミリオン、貴方を危険な目にあわせたくない。一緒に戦いたい半面、とても不安で、心配なの。カイエンの奴にとってはゴーレムは道具かもしれない。けどウチにとっては、ゴーレムは皆、家族同然なのよ」
ヴァーミリオンがジェットブーツ形態以外の合体を強制的に解除し、二人共地面に降りた
「ちょっと…!ヴァーミリオン!?強制解除って…どういうこと…?」
カイエンは面白そうなものを見る目で観察を続け、挑発をした。ゴーレム使いとして気になるのかもしれない
「おやおや、仲間割れ…ですかな。道具に感情なんて持たせるべきではなかったのでしょうね。貴方は弱者だ。ゴーレムを道具として使い込む勇気もなければ、何一つ成し遂げる力量もない」
ヴァーミリオンはカイエンへ一言悪態をつくと、すぐにイミスの両肩を掴み、向き合った
「マイシスター、私はスカーレット姉さまの気持ちが分かる。最後まで貴方を守って戦った気持ちも、手に取るように分かる。だって、ゴーレムをここまで大切に思ってくれる人なんて、貴方位だもの。だから自信をもって言えるわ。…この気持ちが間違っているはずなんてない。心を…大切なものをくれたから、私はマイシスターと強くなりたいって思えたの。スカーレット姉さまも、私もただの道具なんかじゃなく、一緒に成長できる仲間として、横に並ぶことができた。今までも、これからも、一瞬一瞬を後悔することなく乗り越えたい。だから、怖いかもしれないけど、私を作った自分自身と、このヴァーミリオンを信じて」
俯いて話を聞いていたイミスは、やがて決心したかのように敵を見据える
「はは……ウチにしては、弱気だったかな。ねぇ、ヴァーミリオン……一緒に戦ってくれるの」
「何を今更。当然でしょ。隣同士、痛い思いをして並ぶのが仲間っていうのよ!私を創った天賦の才、こんなものじゃないんでしょう?」
ヴァーミリオンが手を差し伸べる そしてイミスがその手を取る
「当然でしょ」