領主編 123話
「そうやって防御的な姿勢を続けていても、状況は何も変わりませんよ」
カイエンが更に一段、ギアを上げるようにゴーレムの生成数を増やす
イミスが一体を射抜く間にも2、3体と続けざまにゴーレムが出現する。いくら彼女が強くても、これではきりがない。
(俺も手を貸すべきか…奴の能力を下げてしまえば…)
ルールブックを手にとり、フォローをしようとペンを取るが、イミスが声で止めにかかる
「サトルくん!手を出さないで!これは…ウチと奴の、正しさを賭けた戦いなの!」
イミスがビーコンを出しつつ4、5本つがえた矢を順番にテンポよく放つと出現したばかりのゴーレムを破壊していく。そんな状況でも俺に目を配る視野の広さは持っているようだ。
カイエンは余裕の笑みで挑発する
「おやおや、良いのですよ。元々貴方一人で私を止められるとは思っていません。大好きな主に助けを求めたって、恥ずべきことではない。これは命の取り合いなのですから」
「『カロネード・ディストラクション』!」
「おっと…とんでもない威力だ。私のゴーレムを5体も貫通するとは…人間に出せる威力ではない」
「嫌味にしか聞こえないけどね!」
ゴーレムを重ね、イミスの攻撃を防ぐ
(イミスとヴァーミリオンの攻撃力は[勇気のオーラ]で底上げされているはず……だが強化された奴のゴーレムも、相応の力を持っているのか。ただのデオスフィアとは一線を画す出力と思った方がいいか)
互いの攻防により、パーティー会場は既に煙と穴ぼこだらけ。攻撃の余波を生き延びたフォマティクスの関係者は戦場から漏れなく逃げている
ここに居るのは俺とイミス、そしてカイエン。あとは…周囲で戦いを見届けている俺のパーティーメンバーたち。彼女らは、イミスの戦いを見届けるつもりのようだ。
最初は拮抗していた状況も、無尽蔵に生み出される黒い靄を纏ったゴーレムによって、カイエン側の有利に傾いていた
(もどかしい……)
手を出せば簡単に状況はひっくり返るだろうが……
(これまでの相手とは強さが段違いだ。これだけの戦闘能力であれば、並みの町を陥落させることなど容易な訳だ)
「はぁ!もう一発よ!」
イミスはターゲットをゴーレムからカイエンに切り替えて、技を繰り出すが
「見飽きた技です。貴方はゴーレムの使い方を間違えている。メリットを全て捨てていると言っても過言ではありません。本来ゴーレムとは使い捨てるもの……何を躊躇う必要がありますか」
カイエンの右手、デオスフィアが光ると、イミスの高威力技を大量のゴーレムを生成して凌ぐ
「違う…!おばあちゃんが教えてくれたの。大切にしている全てには命が宿っているって。錬成者は、それを忘れちゃいけないんだって。貴方の戦い方は、ゴーレムを道具のように扱っているだけ!」
「道具…道具ね。実際そうでしょう。命が宿る?くだらない考えです。ゴーレムには感情は無い。痛みを感じることも無い。そんな道具に何を躊躇いますか。貴方が身に纏っているその赤いゴーレムだって、人間のフリをしているだけの道具ではないですか」
「この子にはヴァーミリオンって言う、サトルくんがつけてくれたすてきな名前がある!道具なんかじゃない!」
「使われるだけの道具に必要なのは名前なんかじゃありません。強さ、生産性、利便性。精々識別番号程度で済む話です。戯言を大切にするから、実際に私に劣るのです。やはり、貴方の主は貴方の力を最大化できない、出来損ないだ。戦ってわかりました、その全てがはっきりしました」
「この…また、また言ったな!…絶対に、許さないから!粉々に砕けろ!五連発『カロネード・ディストラクション』!!」
怒涛の五連星がカイエンへ容赦なく降りかかる
最初の一撃をゴーレムで防いだカイエンは、2、3発と続けて苛烈な攻撃を耐える
攻撃を受けきった姿は一見、満身創痍に見えるが、みるみるうちに傷が回復した
イミスの攻撃が弱いという訳ではない。むしろ一発一発が大砲のような破壊力だ。地形が変わっているのが、威力の証明に他ならない。カイエンの回復能力がそれを上回っているのだ。
(まただ…!最初の一撃から回復したあの能力。あれがある限り、有効打を与えられない…!何か良い方法は…ん?)
よく見ると、右腕のデオスフィアが白色だ。本来であれば気味が悪い黒色をしているはず。それに、最初の一撃だけを防いだのも気になった。全て防げるのであれば、ゴーレムを出し続ければ良い
(一度に出せるゴーレムの数に制限がある…?そして、回復は短時間で何度もできるものじゃないのか…?)
その動きを証明するように、カイエンはイミスから大きく距離を取った
イミスの攻撃は弓矢だから距離を取る意味がない
(追撃を警戒している…?連続で攻撃されるとマズいってことか?)
ゴーレム使い同士の戦いに手は出さない。だが、口は出しても罰は当たらないだろう
「イミスさん!聞いてくれ!奴の回復は短時間では行使できない!それに一度に出せるゴーレム数は限度があるみたいだ!」
カイエンの目がまん丸になる
(当たりか…聞こえるように叫んで確信に至ったな)
イミスも同様に驚くが、頬を膨らませるだけで、特に文句は言わなかった
カイエンがもう一つの…左手のデオスフィアを起動する
「もう時間をかけてはいられないようですね。遊びはオシマイです。この一撃で終わらせる……いでよ、わが名声を轟かせる巨人!!」
カイエンが両手を地面から天空に押し上げるようにジェスチャーすると、小さなゴーレムが一体、また一体と合体していく。
やがて、イミスの奥の手を彷彿させるほど巨大なエクスターミネーター級のゴーレムが生まれた
「ヴォオオオオオオオオオ!!!」
「蹂躙しろ!!タイラントティース!」