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領主編 121話


 『デバステーター・コメット!』


 ヴァーミリオンの魔弓から放たれた矢は、凄まじい速度で上昇を続ける。その間も、魔力によって彗星のように明滅し…やがて常人の目では捉えられない垂直距離に到達した。


 「ふふふ!これは素晴らしい一撃になるはずです!マイシスター!」


 手をひさしにして様子を看するヴァーミリオン。しかし彼女はイミスのゴーレムである。そんなことをしなくても目で追えるのだが、気にするのは野暮かもしれない。


 * *


 突然イミスが深いため息をついた


 「はぁ、あの子…加減を間違えている。張り切りすぎちゃったのかな」


 「イミスさん、どうしたの?」


 「サトルくん…あのね…あぁ、もう時間がないかも。ウチの後ろに回って。ちょっと想定外」


 有無を言わせずな勢いで俺の手を引っ張り、離れないように体を寄せる


 「ちょっ…!?」


 少し顔色が紅いイミス。しかし行動は至って冷静。バッグから小さな箱を手に取る


 「小型化したゴーレムよ。念のため持ってきてよかった。あの子の一撃に耐えられると良いけど……『シンティクシィ・ディフェンシブフォームチェンジ』!」


 小型ゴーレムを空中へ放ると、高速で展開し、みるみるうちに防具として形成されていく。やがてイミスの身体を守る防具としてフォームチェンジした


 ドレス姿は健在だが、急所はしっかりカバーされている。右手には小型の盾が展開された。展開型の盾はソード・ノヴァエラでとても人気である。これの最新版プロトタイプだろう。


 (かつて、スカーレットとイミスが力を合わせるためにフォームチェンジしていたときの戦闘スタイルだ…。このスタンスはイミスの防御力を飛躍的に上昇させるが、スカーレットほどの出力は出せないだろう。ヴァーミリオンは遠距離からの支援型に特化している分、イミスの近接戦闘能力を補う必要がある。これはその一環という訳か)


 やがて空に異変が起った


 とんでもない魔力が練り込まれた物体が高速で落下している


 雲が黙って道を空けるかのように、全てを突き破って地上へ接近していた


 「くるよ……『シールド・ウォール』!」


 イミスが盾を展開する。当然周囲から目を惹くが、その理由が次の瞬間には明らかになった


 空を裂き轟く隕石のような矢が、カイエン・キャピタルへ迫っている


 着弾まで僅か1秒もない。何かを感じ取ったカイエンは上空へ目を向けると、目前まで迫る矢


 気が付いた時にはもう遅く、回避のしようが無い


 「カイエン様!危ない!」


 部下がカイエンの元へ走るが、その前に矢が到達する


 矢が目標に到達した瞬間…


 着弾したカイエンを中心に激しい爆発が発生し、パーティー会場や雪像は一瞬にしてバラバラに吹き飛ぶ


 そこそこ近くに居たフォマティクスの関係者たちも、何が起こったのか訳も分からず吹き飛ばされてしまった


 華やかな会場は、一瞬にして酷い惨状に変わる


 イミスがいなければ、俺も怪我程度では済まなかったかもしれない


 (これが…ヴァーミリオンの、本来の力…)


 白い靄の中、立ち上がり辺りを見回す


 イミスが仁王立ちして前方を警戒している以外、立っている者は存在しない


 この攻撃は、ヴァーミリオンの攻撃『カロネード・ディストラクション』を遥か上空へ向けて飛ばし、威力を高めたものだろう。ソリアムとの戦いで見せた大砲のような威力を持つ攻撃よりもずっと威力が高い。魔弓の性質上、アウトレンジからの攻撃が最も光るだろうが、ここまでの威力を見せつけられるとは思わなかった。彼女が持つ本来の武器は『距離』なのかもしれない。


 その場に居た者で無傷なのは、俺とイミスくらいか


 安堵しかけたときだった


 「…私を称えるにしては……どうにも過激な贈り物だと言わざるを得ないですね」


 爆心地のようなクレーター


 その中央には、死んでいて当然であるはずのノームが生きていた


 だが、無傷という訳ではない。体を大きく穿ったのか、腹は矢が突き破っている


 「…な!?」


 こんな状況で生きられる…そもそも、原型を留めていられるのが衝撃だ


 デオスフィアの力によるものだろうか


 カイエン・キャピタルは両腕に装着した内のひとつ、デオスフィアを起動する


 黒いオーラで負傷した部分を覆うと、怪我が元通りにになってしまった。突き破った鎧の部分だけは再生しなかったのか、負傷していたはずの肌だけが見えている


 「再生…!?デオスフィアの力か…?」


 カイエンは肩をすくめ、まるで何事もなかったかのように発言した


 「ふむ……ということは、君がサトルか。残念だよ。有望な若者を殺すしかないとはね。スターリムも惨い判断をする」


 そしてカイエンはイミスに指を差す


 「一騎討ちと行きましょう。サトルの騎士殿。奇遇なことに、私も…ゴーレムを使うのだよ」


 指した指を鳴らすと、カイエンの両サイドに3メートル級のゴーレムが出来上がる。岩から作った即席のものだろう。しかし、黒いオーラはゴーレムにも伝染しているようだ。


 「イミスさん、奴のゴーレムはデオスフィアの影響を受けているかもしれない。受ける必要はないぞ。バックアップの皆で叩くべきだ」


 カイエンは被せるように言った


 「君の主は…君のゴーレムの力を信じていないようだ。狭量なものだな。仕えるべき相手を間違えていますね。そしてあなたも、一人では何もできない。馬鹿な主に使えると有能な部下まで腐るとはこのことです。違いますか」


 イミスの手を引っ張るが、彼女はぴくりとも動かない


 「イミスさん…耳をかすな。挑発だ。一旦仲間と合流しよう」


 イミスは仁王立ちしたまま、戦闘態勢をとった


 「ごめん、サトルくん。従えない」


 「なぜ…」


 「ウチ、大事な人をバカにする奴は許せない。真っ向から勝ちたいの。だから行かせて…ううん、誰がなんと言おうとも、これだけは曲げられないわ……サトルくんを馬鹿呼ばわりしたこと」


 ヴァーミリオンが空から降りてきて、イミスの横に着地する


 イミスとヴァーミリオンは示し合わせたかのようにぴったりと同じ動作で指を差し、カイエンへ宣戦布告した


 「取り消してもらうわ」「取り消してもらうデス」



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