領主編 120話
体裁は雪華祭だが、事実上はカイエン・キャピタルを称えるためのお食事会が始まった。城内にはカイエンを称えるための雪像が運ばれ、トロフィーのように飾り立てられている。食事は贅を尽くしたものや、俺たちが提供を続けていたイエティの料理も目立つ。参加している者は殆どがフォマティクスの関係者と思われる者で、部外者は俺と、出来の良い雪像を作った者が招かれた程度の閉鎖的なものだった。
カイエンは一際目立つ席から立ち上がり、見渡す。何も言わずとも、皆が彼に注目して会場は静まった
大きく頷くと、覇気のあるノームは演説を始める
「皆、聞いて欲しい。諸君と共に今日と言う日を迎えられたことが、我々にとってどれほど大きな転機となることか、改めて語ることも無いだろうが、言わせてほしい。我々はメイス・フラノールを手に入れ、私は功績によって、正式にキャピタルの名を戴くことを許された」
惜しみない拍手が送られ、カイエンは手で何度も制す
「ありがとう、ありがとう。だがまだだ。反撃の狼煙が上がったにすぎない。火を消されては煙は二度と空に帰らないだろう。我々はこの大事な火種を、大きくしなくてはならないのだ。ここからが本番と言っても良い。そのためには諸君の力が必要不可欠だ。必ずやスターリムを打ち倒し、我々の勝利を絶対のものとする。既にこの地から逃げ出した数多くのメイス・フラノールの住民共や、冒険者たちへ、私とフォマティクスの偉大さを知らしめ、どちらに正義があるかを証明するのだ。まず――」
カイエンの話の区切りにねじ込むように、大きな拍手が続く
俺は後方から話を聞いてるだけだが、武装した兵が冷たい目線をやってくるので、違和感がないように拍手だけは送ってやった。
(キャピタル…名前を戴いたと言っていたな。フォマティクスで特に優れる者に送る名だろうか。出生を問わず名を送る制度があるなら、この話にも辻褄は合う。それならば兄弟というよりも、称号に近いものかもしれないな。それにしても……)
俺の隣にいるイミスが不服そうだ
「ねぇ、サトルくん。いつまでこんな格好してたらいいの?動きにくいんだけど…!」
イミスはパーティー会場によく引き立つドレスを身に着けており、とても綺麗だった。半面、彼女はあまり気に入っていない様子。いつも動きやすさ重視、ゴーレムのメンテナンス作業に快適な服ばかりだからだろうか。いずれにしても、もう少しガマンしてもらわねばならない。
何故なら今作戦において、唯一同伴できた戦力だからだ
「もう少し我慢してくれ。この会場に入れられる護衛は君一人だけだったんだから…」
「むう~…」
そう、パーティー会場に連れていける護衛は一人だけだ。
その誓約に加えて、武器やポーションの持ち込みもできず、近づいて始末するのにはカルミアやフォノスだと不利。サリーの技は広範囲すぎて特定の人物だけを始末することに向いていない。相手がどんな能力を持っているか、不明瞭なまま接近戦に持ち込むのは得策ではない。
誰を同伴させるのか…悩んだ結果、イミスに頑張ってもらうことにした。
彼女のパートナーであるヴァーミリオンが今作戦の鍵である
彼女であれば、超遠距離から一方的に射殺すことが可能であり、イミス自身も高い戦闘能力と防衛力を持つ。加えてイミスは武器を持っていない状態でもビーコンだけで魔弓の誘導が可能だから、検閲にもかからない。味気ない方法だが、親分から潰すのが最も有効だ。
念のため、会場の外に他メンバーを待機させ、バックアップの準備を万端に。ヴァーミリオンは町が見渡せるほどの遠方から弓を構えて指示を待っている
「イミスさん、カイエンの話が終わるようだよ」
「大丈夫!準備はできてるよ!」
カイエンが気分よく長話を終えると、一際大きな拍手を送られた
彼は笑顔で頷きつつも、食事を取るために一度席を立つ。護衛は食事を取る際には同伴しないようで、今の彼を守る盾は無く1メートル周囲に誰もいない。チャンスは一度だけ。今しかない
城にばかり籠っている男で、なかなか顔を出さない奴だったが、どうにかここまでやってこれた。
根競べは俺たちの勝ちだ
「…今だ!」
イミスは頷くと、ビーコンを射出しカイエンの背中に命中させる
「ヴァーミリオン!…来て!」
* *
遠方から規則性のある光がヴァーミリオンの目に映る
イミスのビーコンが正しく起動した合図だ
「本当にゴーレム使いの荒いあるじですね…でも」
ヴァーミリオンがぽつりと愚痴をこぼしつつも魔弓を上空へ構える
小さな体を全て使って、背の丈ほどある魔の弓を限界まで引き絞った
弦を締め付ける音があまりにも重く、その威力と重さが尋常ではないことを物語る
ギギギギギギィイイイ……
「いっぱい褒めてもらえるなら、頑張ります!」
弓矢にありったけの魔力を込めて天空へ解き放った…!
『デバステーター・コメット!』




