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領主編 118話


 雪華祭当日


 ポンジェのコネをフル活用し、雪華祭の特別招待枠にねじ込んでもらえることになった。通常の参加枠とは違い、俺がもらった招待枠は、城内の中庭で食事を楽しみながら、領主とお近づきになれる、誰も喜ばなさそうな…いや、なんともありがたいシステムになっている。当然、この枠の参加メンバーは領内で貢献している者に限られるのだが、食事会は夜からだ。


 ディナーまでは時間が空くので、領主が城から出てくるまで、城外の通常枠会場でブラブラすることにした。


 一般招待枠では、城外周辺で雪像を楽しんだり、露店をひやかしたりできるが、城内への立ち入りができないため領主のありがたいご尊顔を賜ることはできない。


 「祭りにしては……静かだな…」


 本来であれば、様々な雪像が並び立ち、色鮮やかな飾り立てがお祭り特有の賑やかな雰囲気を彩るはずだった。しかし、今の町の雰囲気は重く、楽しそうにしているのは雪像にイタズラをしている子供たち程度。そんな子供たちも、兵士を見れば一目散に逃げる始末。戦の噂も広まってか、冒険者たちの出入りも極端に減っている。


 雪像は現領主を称えるための雪像だけが残り、他の像は破壊されている。他のモニュメントは厳しく規制され、特に雪の精霊を称えるようなものがあれば即刻取り壊しが行われているためだろう。


 俺は数ある同じような雪像のひとつの前に立ち、出来栄えをチェックする。


 (こいつが現領主、そしてこの町を落とした主犯。如何にも悪そうな領主って顔だ…)


 現領主の顔をモデルにした雪像だ。


 オールバックの髪から覗かせる野心に塗れた嫌らしい目つき。大きな鼻の印象を薄れさせるほどつり上がった口角は、胡散臭さマックスである。顔しか作られていないのは、参加者向けに配られた写し絵が顔だけだからだろう。


 作品名は…『カイエン・キャピタル様を称えよ』と書かれている


 (カイエン…ポンジェの情報によると、この町を乗っ取った、現領主の名前のはずだ。バトーはこいつに捕まっている。俺が倒すべき敵でもある。にしても……キャピタルって…たしかデオスフィアを製造する補給基地を仕切っていたソリアムと同じ姓だったはずだ。兄弟なのか…?)


 妙な違和感を感じつつも、背後で止まる足音に意識を逸らされる


 「君が、ポンジェのお気に入りか」


 振り向くと、雪像と同じ顔をした小柄な男が、手を後ろに組んで立っていた。ヒューマンの半分ほどしかない体格からして種族はノームだろう。顔写真からしてヒューマンかと思っていたから余計に驚いた。


 「え…」


 (…カイエン!?何故…。いや、まて。ここで会うのは完全に想定外だ!まずい…突然遭遇したパターンを何も考えていなかった。ああ、くそ…なぜ城外に、このタイミングで現れるんだ!?)


 カイエンは写し絵で見るよりも気迫があり、ノームにもかかわらず黒く頑丈そうな鎧を身に纏って剣を何本か腰に佩いている。両腕にデオスフィアらしき腕輪まで装備しており、後ろには二人、同様の鎧と顔を隠した姿の護衛らしき者。この者たちも片腕のみだが、デオスフィアを埋め込んだアクセサリーを着用していた。


 なんとか動揺しないように取り繕うが、返答を待つ間もなくカイエンは言った


 「…随分と驚いているようだな」


 (まずい…)


 「え…えぇ、現領主で有らせられるカイエン様…にお声がけいただくとは思ってもおらず」


 ノームは鼻で笑った後に言葉を返す


 「お前のことは、町で噂になっているからな。領主として気にかけるのは当然だろう。突然町にやってきたと思えば、イエティハンターと名乗り、格安で町の食糧事情を解決して見せただけではなく、軍の備蓄へ提供を続け、大きな貢献をしてくれたと耳にした。十分すぎるほどに実力を兼ね備えた商人だ。不気味だよ。これまで噂が立たなかったことが不思議なほどにな。……そして、このタイミングで現れたのだ。私にとって、とてもとても都合が良い人物がな。……イエティハンター、お前は何だ?」


 (感づかれているか…?ポンジェの野郎、筒抜けじゃないか)


 「一介の商人ですよ……私共の活動が、この町にとって大きな貢献ができたと確信が持てて嬉しい限りです。商人という生き物は機を逃すことを嫌います。大きな戦があれば、必要な物資が必ず品薄になりますからね。名を変え、品を変え…各地を転々としているに過ぎません。お気に召さないようであれば去りましょう」


 「…一介の商人…か…私に意見するとは面白い」


 ノームが顎をさすって値踏みしていると、護衛の一人が前に出て抜刀前の姿勢を見せる


 「普通の商人は冒険者が赤字覚悟で狩りに出るイエティの商品を、格安で提供し続けるような能力を持たない。カイエン様、やはりこの者は明らかに怪しいです。余計なリスクを生む前に摘み取っておくべきかと。間者であれば情報を持ち帰らせるのも危険です」


 「ふむ…」


 (分かりやすい貢献がかえって仇となってしまったか…)


 ここで戦うことになるかと、考えていたが、思わぬところで助け舟が


 「カイエン様!」


 哨戒らしきフォマティクスの兵が慌ただしい様子でやってきた


 ノームの注意はそちらに向く


 「なんだ、今は大事な見定めをしている所だ。私の時間を割くに値する報告か」


 「はっ…申し訳ございません。カイエン様の雪像を制作した一般参加者の中で、あまりにも出来が悪いものがありました。放置しておけば御威光を穢す恐れのあるものです」


 ノームは声を一段大きくして目も見開いた


 「それは…重大な事件だ。よく報告してくれた。侮辱に対しては血を以って支払ってもらうしかないだろう。私を称える雪像以外は必要ないのだ」


 (重大なのか……?)


 どうやらカイエンにとって、自らの威光を知らしめることは、間者を裁くよりもずっと高い優先度にあるようだ。彼が主催となった祭りの趣旨を見ても明らかだが、異常なほどに貪欲だ。


 「はい…侮蔑の意が込められている意図であれば、処断しなくてはなりません。製作者を問い詰めたところ、至極真っ当に作ったと…領主様を称えるため、だから雪像製作費を寄こせと…そう言って怒り出し、現在もウヒョウヒョと訳の分からない言葉をのたまって暴れております。如何いたしましょうか」


 冷静に考えれば、取り壊すなり殺すなり捕えるなり言いそうなものだが、まるで100人の命を切り捨てるかのような苦渋の決断を決め込む表情で考え込むカイエン


 「ふむ……そうか。もし、その者が私を称えるために作ったのであれば、それは素晴らしいことだ。労ってやるべきだ。しかし、出来が悪いとなると放置はできない。…………よし、ならばこうしよう。私が直接出向いて雪像を確認し、ジャッジを下す。本当にその者の言うことが正しければ金貨をやろう。ダメなら処断するだけだ。それで全て解決だ。いいな、案内しろ」


 「っは!承知いたしました!…ところで、その者は尋問中かとお見受けしました。如何いたしましょう…?」


 「あぁ、そうであったな……まぁ、いい。ここで全てを決めることでもないだろう…では、また食事会で会おう。イエティハンター」


 カイエンは手を後ろで組みなおし、護衛たちを連れて去っていった


 護衛は最後まで俺から目をそらすことなくカイエンの一歩後ろを歩いていく


 ひとまずは、やり過ごせたようだ。


 (誰かは分からないが助かった。あのまま話が進めば、間違いなくここで戦闘になっていた)


 ピンチを凌ぐことはできたが、俺への疑いがほぼ確信に変わっているのが現状だ


 弁明を回避することも、これ以上の信頼を勝ち取るのも難しい。


 恐らくディナー会場が戦いの場となる。…戦闘の準備を進めておく必要があるだろう


 

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