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領主編 115話


 「ウヒョヒョ…サトルめを追いかけて来てみれば、こここ、こんな寒いところに居るなんて…わたくしから逃げるおつもりなのでしょうか……へ、へ…ヘクショイ!」


 タルッコは乗合馬車から降りて、メイス・フラノールの門前で肩を抱きぷるぷると震えている。くしゃみまで出てきてしまう始末。周りの者はみな暖かそうな服を着用しているが、タルッコはいつもの動きやすそうな風通しの良い服である。


 「お前から逃げているというより、フォマティクスとスターリムがやりあっているって専らの噂だし、この町で何かあったんじゃないのかってのは誰でも気がつくよ?…というか、着の身着のまま寒冷地に行くバカがあるか」


 暖かそうな服にスタイルチェンジしていたサザンカが、毒舌を活かしてタルッコを可哀想なものを見る目で一瞥し口撃した


 「バカとは何ですか!…大体あなたがいつもいつも10人前の食事を要求するせいでオサイフが空っぽなんですよ!わたくしの分まで揃えるお金なんて残っているわけないでしょう!そう考えると、装備が揃えられなかったのは、あなたのせいですよね!まったく!」


 タルッコはぴょんぴょん飛び跳ねて猛抗議するが、サザンカは気にせず話題を変える


 「そうそう、そう言えば町の様子が何か変だぞ。旗も違うし」


 「あ!こら!聞いているんですか!誤魔化そうたってそうはいきませんよ!ウヒョ!!」


 ヒートアップしたタルッコのシャドーボクシングを頭を押さえつけてなだめつつ


 サザンカが門前にぶら下がった旗を指差す。


 「いやいや、ほら」


 そこにはスターリムではなく、フォマティクスの旗が堂々と棚引いていた。タルッコも腕の動きをとめて傾げる。


 「……むむ?ここはスターリムの領土のはず…それではやはり、あの話は噂ではなかったのですね…ふむふむ」


 考え事をしていたタルッコたちに、乗合馬車のおじさんは言った


 「そりゃそうでしょう。占拠されたって噂ですから、こんな時期に乗るなんてよっぽどの物好きか、急用か、家族や親戚をメイス・フラノールから遠ざけるためくらいでしょうな。ところでお二人さん、運賃まだ払ってもらっていないよ。危険手当合わせて、一人銀貨5枚いただくよ」


 タルッコは乗合馬車のおじさんになけなしの金を全て押し付けながらアゴをなでる。


 おじさんはなすりつけられたボロ袋を開けるが、銅貨数枚程度しか入っていない


 「ふむ…ならばサトルめがここに来た理由も納得がいくものです。では、我々も向かいましょうぞ」


 乗合馬車のおじさんは町へ向かおうとするタルッコの肩をつかむ


 「お客さん、運賃ですけど、全然…まったく、金足りないですね」


 「ウヒョ…?間違いなく銀貨10枚あったはず…」


 すると、サザンカが悪びれる様子もなく言う


 「あぁ、寒かったから馬車で同席した女から予備の服を買ったんだ。銀貨10枚もしたんだぞ。どうだ、似合うか?」


 ファッションショーのようにポーズをとってタルッコとおじさんへ見せびらかす。顔はカルミアと同じくとても美人。鍛え上げた肉体で絶妙なプロポーションを誇るため、様になっているが、なっているのだが……タルッコにとって、これほど嬉しくないファッションショーは無いだろう。乗合馬車のおじさんに、使い込んでしまってお金はありませんとアピールするようなものだ。


 「ぐぬぬぬ!あなたが犯人でしたか!10人前食べるくせに!」


 「今食べる量は関係ないだろう?…そんな話をしていたらお腹がすいてきたな」


 「また!またあなたは食べつくすつもりですか!」


 乗合馬車のおじさんの目が鷹のようになる


 「あのーお客さんたち。金が無いならメイス・フラノールで重い物いっぱい持って運んで…そんでもって働いて返してもらうからね?」


 タルッコの額に汗が


 「悪役は逃げるのが華と言います。運送ご苦労でした。それでは!ウヒョウヒョ!!」


 タルッコが踵を返して町へ走り出そうとするが、乗合馬車のおじさんの素早さは見た目以上に凄かった


 小さな悪人の頭を掴み上げ、額に筋を立てる


 「重いもんいーっぱい持って、働いて、返してもらいますからね………?」


 ジタバタするタルッコは、せめてもの断末魔を繰り出した



 「ひいい!?ウヒョ~~~~!!!」



 * *



 「今日売る分のイエティはっと……うん…?」


 「サトル、どうしたの?」


 「あ、いや。なんでもないよ、カルミアさん。変な声が聴こえた気がしただけ」


 「…少し休むといい。疲れているのかも」


 「そうだね…そうさせてもらうよ」


 タルッコの叫びは町中に響いたのであった



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