表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
363/478

領主編 114話


 「それは好都合だな…」


 カルミアがイエティ肉に目をやった。


 「…サトル、もしかして、商人になりすまして潜入するつもり?」


 イエティを狩ってきた点と、先にフォノスを偵察させた二点から本筋の可能性を導き出すとは、カルミアはさすがに鋭い感を持っている。


 「その通りだよ。俺たちは正面衝突をしない。やろうと思えばできると思うけどそれじゃ犠牲が大きくなりすぎるからだ。町もタダじゃ済まないだろう。住民からしてみればたまったもんじゃない。そこで、メイス・フラノールへは潜入という形で攻略することになる」


 イミスがヴァーミリオンの手入れをしながら言った


 「それじゃ、余分にイエティを狩ってきたのは、これを商品にするためだったのね?」


 「そうだよ。今一番町で不足しているのは食料と防寒着だ。イエティ肉はめちゃくちゃに旨いし、毛皮は優秀な防寒着になる。油は火起こしに最適だ。戦で人が増えれば当然消費が激しくなる。寒冷地なら顕著だ。占拠後に部隊を駐屯させるなら尚更で、住民から巻き上げをするのは想定していたからね。検閲では当然警戒しているだろうけど、フォマティクスとしては喉から欲しい商品を積んだ荷馬車を断ることなんかできない。だから、潜入までは簡単に進むはずだ」


 イエティは本来、狩るのがとても難しい魔物だ。足場と視界が悪い雪国の山間に多く生息する。そして逃げ足がとても速い。それなのにパワーがあって知恵もある。カルミアたちじゃなきゃ一匹捕まえるのに何十人という人手が必要になるため、費用対効果が薄い。絶対に釣れるはずだ。


 「潜入後からが問題だ。フォノス、敵陣のボスは偵察時点では確認できなかったんだよね?」


 フォノスは肉を嚙みちぎって頷く


 「うん、できなかった。町中回ってみたけど…多分、お城の中じゃないかな」


 (城は奪い取ってそのまま利用…そして元領主のバトーもそこに囚われている…)


 「だろうね。もちろん、敵方のボスを倒し、拠点を手放してもらうのが一番楽で確実だ。だが、城に入るにはもっと他のアプローチが必要になる。あまり先の話をしても仕方がない。概要はこの辺りまでで良いだろう。まずは潜入を確実に成功させる。いいね?」


 皆が頷き、荷運びを開始した



 * *



 メイス・フラノール。


標高や魔物の影響により一年の殆どが雪という悪環境でありながらも、美味しく頂ける魔物が多く生息する地、またここから見られる景色が絶景のため訪れる旅人は多いと言う。山を挟み町が形成されているため交易都市と言うよりは関所と言った方がしっくりくるだろう。北からフォマティクスとスターリム国を行き来するうえで、最も安全な旅路の中では唯一無二の道だ。特例を除き両国間の行き来は厳しく制限されている。最も、現在はその機能を果たしていないが……


 厳重な警備体制の元、検閲が行われている。相変わらず雪が吹き荒れており、商人たちは皆、寒さに耐えて、次か次かと順番待ちをしていた


 「次!そこの者!馬車の中身を見せろ!終わるまでは全員馬車から降りるんだ!」


 フォマティクスの兵だ。武装しており、荒々しく御者さんを退かすと、ずかずかと荷物をチェックし出す


 「はいよ」


 御者さんは大人しく降りて、荒い扱いにも何も言わない。


 俺たちは全員防寒着とフード、武器を身に着けているため、護衛なのは見れば分かる


 「中身は……なんだと!」


 フォマティクス兵の声に、他の警備連中も集まってくる


 「どうした!禁制品でもあったか!」


 (どうした…何かバレたか?)


 内心はヒヤヒヤな気持ちで成り行きを見守る


 「いや…すまない。ただ、これを見てみろよ。イエティ肉だ。それもたんまり積んでやがる。毛皮も…上物だ」


 「なんだと!イエティ肉だと!?」


 (なんだ…肉に驚いただけか……ビックリした)


 「おい、商人。これをどこに卸す予定なんだ」


 フォマティクス兵は偉そうな態度で肉を我が物顔で掴んでいる


 御者さんは動じない


 「へぇ、それは肉屋でしょうなあ。いつもお世話になっておりますんで」


 フォマティクスの兵は真顔になって肉を脇に抱え、御者さんの胸ぐらを掴む


 「ほぉ?我々に卸す予定は無いと?なぁ、ちょっとした心付けで物事は大抵うまくいくってもんだろう?そうだよな?もう一度だけ聞くぞ……この町に入りたいんだよな?寒い中立たされるのは嫌だろう。それで……この肉は誰のものだ?」


 (暗に脅しているだけじゃないか…くそ、フォマティクスの連中はどいつもこいつもこうなのか?)


 「さ、さようで。であれば5割、格安で兵士様たちにはご提供させていただきます」


 「お、分かっているじゃねぇか。ただもう一声、俺たちも平和のために頑張っているんだ。そんな俺たちに少しくらいご褒美があっても良いと思わないか?5割じゃ足りないよな……?」


 ほぼゆすりだが、御者さんはやっぱり動じなかった。


 「では、8割。もちろん、格安でお譲りしやす。残り2割を肉屋に卸すというのでどうでしょう」


 (住民に食料が十分に行き渡らない訳だな…こんなゆすり続ければ、いずれ破綻する)


 「ふん……」


 兵士は胸ぐらを離し、俺たちに一瞥し、指を差す


 「あいつらは何だ」


 「護衛の皆さまでさ」


 「そうか、護衛なら冒険者カードを持っているだろう。見せろ」


 (まずいぞ…)


 御者さんが機転をきかせて間に入った


 「彼らは……傭兵でさ。冒険者は途中でイエティに襲われて怪我をしやした。村から腕利きを数名雇っただけで、冒険者登録はしていない。多めに見てくれんか」


 「……良いだろう。だが、分かるだろう?」


 フォマティクスの兵は脇に抱えた肉をこれ見よがしに見せつける


 「そちらは…お譲りしやす。無料でさ」


 「よし、通っていいぞ!おい、こいつらを通せ。次の者!はやくしろ!」


 俺たちは検閲を抜けてなんとか町へ潜入できた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ