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領主編 111話


 「北の領地、メイス・フラノールが陥落した…」


 「……」


 王の表情は歪み、悔しさを滲ませる。どうにか顔に出すまいといった頑張りを感じるが、発言の際に拳を強く握りしめているところからも、恥を感じることをぐっとこらえているに違いない。


 爆弾発言に傍付きや近衛兵たちがざわめく


 「あのアイリス様に並ぶ、武闘派バトー様が戦で負けた…?」「絶対防壁のフラノールが…?そんなまさか」「戦は優勢だと聞いていたが…」


 アルフレッドがギロリと睨みを利かせる


 「大切な謁見中ですよ、貴方たち、掃除当番を増やされたいようですね」


 近衛兵たちは置物のように停止して口を閉ざす


 王は大きなため息をついて、話を続ける


 「ふぅ…アル、良いのだ。サトルよ、話を続けるぞ。北の領土は我が国でも難攻不落だ。険しい山と雪、そして絶対防壁という高い城壁によって、兵糧戦や攻城戦においても有利に戦うことができる。なにより、我が腹心のバトーが治める地でもある。…いや、治めていた…だな」


 (…近衛兵たちの動揺っぷりを見る限り、会ったことがないがバトーというお方はアイリスと同じく武力によって身を立てた口だろう。俺がこの国で実際に出向いた地は少ないが、聞く分には険しい環境と防壁の両面から難攻不落とされていた地という点がまずい。それが落ちたとなれば、精神的な支柱を壊されたに等しいからだ。本格的な侵攻に反発するためか、時期的に見ればフォマティクスの兵によって落とされたとみるべきだな。他の手の者は考えづらい。緘口令もひかず、わざわざこの場で俺たちを呼び出して伝える意図はひとつだけだ。だがまずは順序よく確認をするべきだろう)


 「陥落した…という連絡は信頼できるものでしょうか。生き残りが伝令となったと?」


 王は頷く


 「うむ…情報の信憑性は保証する。伝令に走った我が国の兵は殺されたようだが、幾つか敵側に張っていたスパイが訳に立った」


 「バトー殿は生きているのですか?」


 「情報を得た時点では敵側に捕らえられ、重症だと聞いている。尋問か交渉のためか…すぐに殺すつもりはないのだろう」


 「なぜ陥落に至ったのかは判明しているのですか」


 王の表情はより険しくなる


 「お前は、我が不徳の致すところ…という話を聞きたいのでは無いのだろうな…。うむ…少なくとも、伝令が送られる間もなく陥落することは想定していなかった。我が国の難攻不落は伊達ではない。文字通り、短時間で状況が一変したのだ。敵陣にもお前のような『少数で兵何百に匹敵する戦力』を保有しているとしか考えられぬ。短時間、少人数で可能な制圧戦闘。そしてそれを実際になせる手段。お前がもたらしてくれた情報がなければ、その手段すら明らかになることはなかっただろう」


 「デオスフィア……ですね」


 デオスフィアであれば、人の力を増幅させることができる。最終的には破滅する運命であったとしても、得られる力は莫大であり疑似的にも蛮族王はカルミアの戦闘力に迫るものがあった。もし彼女のような者が局地的な町崩しを企めば未然に阻止することはとても難しい。


 俺がアイリスに送ったサンプルは王の元にも届いていたようで、王は懐から禍々しいソレをとりだした


 赤黒く煌びやかに光る宝石のような石。あれが全て人の感情によって黒ずんでいると思うと、視界に入れるだけで吐き気すら覚える


 「そうだ……この禍々しき血肉のような石が、人の命によって完成されるなど、未だ信じがたい。そして身につけた者に破滅をもたらすことも、同様に恐ろしく思う。そして、お前は戦地で得た石を、どのような結果をもたらすかを、知らせてくれた。この功績は計り知れないものだ。誰もが羨む力を得られる代償はあまりにも大きく、危険だ。…戦争においては唯一無二の武器となるだろうが、あまりに人道的に反する。人を殺すための武器が人の命によって創られるなど、あってはならぬ。奴らにこれ以上、我が国民を好き勝手にさせる訳にはいかないのだ…!」


 王は熱を込めた声と共に肘置きへ拳を叩きつけた。


 (スターリム国とフォマティクス国間の諍いに興味は無いが、デオスフィアの製造を止めさせなきゃいけないのは同意だ)


 「もちろん、私としても…誰に頼まれずともデオスフィアによる被害の連鎖は止めるつもりです」


 王として、これほど悔しいことは無いだろう。未知の石によって突然始まった蹂躙劇。終始優勢であった戦局は、この石によって大きく傾いたのだ。王のプライドと人としての尊厳が、毒を以て毒を制すような戦い方を留めている。兵を出せば幾千の被害と、デオスフィアによる命を命で洗う負の連鎖が始まるだろう。そうせざるを得ない前に、恥を忍んで俺たちに頼んでいるのだ。


 「そう申してくれるのか。……サトル、お前は人と戦いを変える力を持っている。それを証明し続けてきた。…頼む、メイス・フラノールとバトー、そして国民を奴らから救ってほしい。…頼む…この通りだ…」


 アルフレッドが慌てて王に駆け寄り、下げた頭を上げるように伝えているが、王は断固として頭を上げない


 「わたくし、ソード・ノヴァエラが当主…サトルがその使命を果たします。皆も…俺についてきてくれるかい?」


 カルミアは真剣な面持ちで


 サリーはいつものニコニコスマイルで


 イミスは元気よくサムズアップし


 フォノスは仏頂面だが誰よりも早く頷き


 それぞれが俺に命を預けてくれると誓ってくれた。


 俺は皆がいれば、どこまでも強くなれる



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