表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/478

領主編 106話


 俺が今フォノスに求められていること、求めていること、それは『力』だ。彼の力は、間違いなくこの先も必要になってくる。彼もそのことを知った上で、もっと頼ってほしいと願う


 少し考えていると、フォノスが告げた


 「お兄さん、僕知っているよ。自分のことだからね。カルミア姉さんたちのような『超越』が、今ならできるって直感が告げている。それを、お兄さんが実現できることも」


 驚きはしなかった。彼が覚悟を今告げることに意味があることを察していたから


 だが、戦力として彼に力を求めるのは、とても残酷なことかもしれない。彼のことを思うのであれば、彼の覚悟は気持ちだけを受け取るべきなのかもしれない。安全な場所で、犬かコボルトかよく分からない生物のクリュと暮らしていてほしいのが本音だが……


 「知っていたのか」


 直接告げたことは一度もない。しかしフォノスは、直感的にクラスアップの能力を知っている。もしくは確信に近い何かを感じ取っているようだ。そして、それを俺ができてしまうことも。


 「うーん…元々知っていた訳じゃないんだ。分かってしまう…と言った方が近いかな。僕の中で眠っている力が『待っている』気がして。その力はお兄さんを求めている。分かってしまうから、仕方がない。それに、姉さんたちが全員、尋常じゃない成長を見せているのは、お兄さんが関係していることは、ここまで一緒にいれば僕だって分かるよ」


 (そりゃそうだよな……)


 自分の詰めの甘さを恥じるばかりだ


 深く息を整えて、彼に告げる


 「ひとつ、約束してほしい。少しでもつらいと感じたら、必ず教えてくれ。それと、無理をしないこと、それと……」


 フォノスがクスクスと笑う


 「お兄さん、それはひとつじゃないよ」


 「あ、あぁ…すまない」


 フォノスが真面目な表情に切り替えて


 「僕はそんなお兄さんが好きだ。だからお兄さんが目指すべき道を一緒に歩きたい。同じ景色を見たい。お兄さんが目指す景色を。そのためには、一歩後ろじゃない。一緒に歩く必要があるんだ。後になって同じ景色を見ても、それは同じなんかじゃない。雲の形も、汗の量も、感情でさえ、違うんだ。……痛くても、つらくても、構わない。きっとその先の景色は素晴らしいものだと、僕は信じている」


 フォノスの覚悟は受け取った。


 あとは俺の覚悟と道理をフォノスに示すだけだ。


 ここまで彼に言わせておいて、ダメなんて言葉は使えない。俺も、俺自身も変わっていく必要があるのだから、彼の変化を受け入れるとき 今が、その時だ。


 「……分かった」


 俺はルールブックを開いた


 危機的状況ではないのに開くのは、なんだか新鮮だった


 「フォノス…いくぞ」


 「うん…いつでもいいよ!」


 彼の気持ちを受け取ると、本が輝き 黄金のペンが現れる


 手によく馴染むペンをとって、彼の『クラスアップ』を始める


 「さぁ……フォノス。君の可能性を、魅せてくれ!!!」



 *対象 フォノスのクラスアップを開始します*


 *警告 混沌属性の対象です 継続しますか*



 久しぶりに聞いた声


 フォノスがクラスチェンジしたときも出た警告だ


 カルマ値が低いキャラクターは 悪や混沌に染まりやすい。


 だからこそ、警告が出た


 分かりきっている。だが俺は、彼の覚悟を信じたいのだ



 (構わない)


 *クラスアップを続行します……*



 カルミアやサリーのような『黄金の光』に包まれることは無かった


 その代わり、フォノスの周りに黒いオーブが漂いだし、やがて力の奔流が生まれた


 混沌に相応しい、黒くて禍々しいオーラがフォノスを包む これが『混沌』のクラスアップ


 アライメントが善のクラスアップとは全く異なる 異質の力を感じる


 (なんて禍々しいんだ……)


 闇の奔流とも取れる膨大な力が、大きなうねりとなって全てを吸い尽くすようだ


 この景色そのものが、悪の存在を自らが作り上げているような気がして不安になる


 (だけど、彼を信じてあげないと。俺が信じてあげないで、どうするんだ)


 自らが産んだ、漠然とした不安を鎮めて、成り行きを見守る



 やがて、その闇はひとつの人の形を作り、収束した



 *デュアルクラスの統合を開始……サトルの能力により、新たなクラスに昇華されます*


 *対象 フォノスは『ディストピア』から『ヒドゥン・エトランジェ』にクラスアップしました*


 *クラスアップにより 能力が大幅に補正されます 能力の向上に対応するため 肉体の成長が促進されます*


 *クラスアップにより フォノスに武器『ヒドゥンブレード』が付与されます*


 *クラスアップを終了します……*



 まだ闇の奔流の残滓が残る中、フォノスの姿が明らかになった


 俺は驚きを隠せなかった


 「フォノス……なのか?」


 彼の姿が変わっていたのだ。こんなこと、今までで一度も無かった


 あどけなさ残る少年の姿は、少しだけ背丈が伸びていて、服の下からでも分かるほどにクッキリとしていてしなやかな筋肉が大人っぽさを感じさせる


 紫色のキレイな髪は少し伸びて、クールっぽさに磨きがかかったようだ。悔しいがイケメンである


 彼は落ち着いた様子で、自らの体を再確認して何度か頷いた


 「やっぱり、お兄さんは凄い」


 落ち着いた口調と、変わらずに兄と慕う様は、フォノスで間違いがない


 やはり、彼の見た目がクラスアップで変化したのだ


 人様の姿形を成長させるような方向で変えてしまった俺も俺だが、彼も彼だなと相変わらずの様子


 「見てくれ、お兄さん」


 俺が茫然としている中、彼は至って冷静に いつの間にか身に付けていた暗器を見せる


 フォノスが手を突き出すと、籠手から刃が飛び出した。


 仕込み刃が飛び出すだけで、籠手から離れて射出されることは無い。不意をついて攻撃することに長ける剣…


 これは……苦無と並び、とても有名な暗器のひとつだ。


 『ヒドゥンブレード』で間違いないだろう


 この仕込み刀は、普段は籠手にしか見えない。しかし、特定の動作をすることで籠手に格納された刃が飛び出して、対象を暗殺することができるものだ。初見を見抜けば対策は容易だが、暗殺は往々にして、初見で殺す術を指す。その中でもヒドゥンブレードは対策が難しい暗器なのだ。


 しかし、このブレードは俺の知っている暗器とは少し違うようだ


 俺が知っているヒドゥンブレードとの大きな違いは二つあった。まず、薬指や中指を犠牲にすることなく刃を出し入れできる点だ。


この手の武器は、性質上、刃の出し入れをするために指の一部を犠牲にするものが多い。刃の出し入れの邪魔になるため、先に指を落とす必要があるためだ。だが、これは違う。フォノスが握り拳を作ると刃が手の甲から飛び出す。握り拳を離すと刃が戻る。こうすることで刃の飛び出しに指がかからないように工夫されているようだ。


 もうひとつ、この武器の射程が長いという点だ。


 ヒドゥンブレードは、どんなに長くても籠手のサイズ以上の刃渡りにはできない。だが、フォノスの暗器は、明らかに籠手以上の刃渡りをしたブレードが、目で追えないほどの速さで出し入れできている。魔法の力か、格納されているブレードの質量限界を超えている。


 「この武器、すごく伸びるよ」


 フォノスが魔力を流すように拳へ力を込めると、刃が身の丈ほど伸びた


 不意討ちに、自身の身の丈ほどある刃物を扱えるという利点は計り知れない


 彼の対人戦術を大きく飛躍させる暗器だと言える


 活人剣と殺人刀、そして籠手についたヒドゥンブレードを使えば、ロマンと実用性を兼ね備えた3刀流の実現という訳だ



[ステータス]

*フォノス*


クラス:ヒドゥン・エトランジェ

レベル:10(上昇値)

ヒットポイント:320(+230)

筋力:28(+12)

敏捷力:100(+60)

耐久力:20(+8)

知力:10

判断力:10

魅力:13


※上昇値はレベル7からの数値と、今回のクラスアップの数値を加算した値です


[ヒドゥンブレード]

クラスアップで付与された新武器で暗器に該当する

見た目はただの籠手だが、極細の糸が5本の指に通っている

握り拳を作ると糸が収縮し、フォノスの魔力と糸の動きに連動して小型の刀が手の甲から飛び出るように設計されている。刀のサイズは魔力量に応じて調節ができるため、剣との併用が可能

ヒドゥンブレードを成功させた場合、対象のユニーク能力を戦闘中使用不可にする



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ