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領主編 104話


 俺が皆を追いかけて前線に出た頃には、既に勝敗は決していた。


 みんな気合入りすぎである。


 基地の損傷はひどい有様だった。リンドウの炎球によるものか、施設はほぼ倒壊しており、転移装置が使える施設だけが、原形を留めている。


 基地を囲う外壁は鋭い得物で一閃された跡があるが、これはカルミアの刀傷で間違いないだろう。彼女が前線を切り開いたのだ。


 基地に駐屯していた兵は俺の想定以上に多く、前線に出ている死体の数を見ても数百の規模であることが分かる。基地内部に留まり続ければ、物量で攻められていたかもしれない。


 所々に斃れているフォマティクスの兵の殆どが炭化しているか、一太刀で致命傷を負っているか、頭に一撃、矢を通したような傷がある。


 (敵の炭化はリンドウの技によるものだろう。恐らく炎魔法だ。クラスチェンジをした影響で精霊を扱えるようになったんだっけ。…四属性の大精霊の内、炎を扱う精霊と契約している。精霊の力は周囲の環境すら変化させてしまうほど強力なんだ。そして…刀傷はカルミアが倒した敵で、頭に一撃入れられているものは、イミスの新しい相棒の能力だな…みんな、本気で戦っていたんだ。そして、それぞれが一騎当千の力だ)


 辛うじて息がある敵は自警団が捕縛しており、既に搬送準備を始めていた


 ポカンとしていると、リンドウが笑顔で声をかけてくる


 「サトルさま!ご覧の通り、敵は滅しておきました。転移魔法陣の施設を除き、拠点も使用不能に破壊しておりますのよ。どうですか…?我々も役に立つことが証明できましたか?」


 褒めて褒めてオーラをガンガンにふりまいている


 「あ、あぁ…よくやってくれたね」


 リンドウの頭を優しく撫でてあげると、目を閉じ口角をいっぱいにつり上げた


 「…やった!」


 いつもの丁寧な口調も、この時ばかりは崩れるリンドウである


 「君たちの力を軽視していたわけではないが、この残滅力と遂行力は良い意味で想定外だった。本当に凄いよ…」


 「皆、サトル様に顔を覚えていただきたい一心ですのよ。だから、これからも私たちを頼っていただきたいのです!」


 ふんすとふんぞり返るリンドウ


 町を守ると自負する彼らのスペックの高さを改めて思い知らされる。数は少ないが、スパルタ兵のような精鋭っぷりだ。


 (彼女の言葉通り、俺はパーティーメンバーだけではなくもっと周りを頼るべきなのかもな)


 「ところで、一緒に進軍したカルミアたちの姿が見えないけど…」


 「…カルミア様は敵をある程度倒した後、周囲に増援がないか、外周を索敵すると仰いましたの。風のように走り去っていきましたわ。イミス様はヴァーミリオン様と共に高台から敵兵が逃げないか見張っていますの」


 「そうか…フォノスは?」


 「フォノス様は、戦場のどこにも居ませんでしたの…恐らくですが…先行して基地内部に単騎で…」


 「なんだって!?」


 基地の転移装置がある建物まで走る


 「サトル様…!お待ちください!」


 リンドウも追従してくれるが、今はフォノスの安否確認が先だ。


 (くそ…フォノスが苛立っていることをもっと配慮しておくべきだった。お願いだから無事でいてくれ、無謀なことだけはしないでくれ…)


 転移装置に向かう間の僅かな時間でも、脳内でアナウンスが響く。久々の感覚だ


 *フォノスがレベルアップしました*


 *フォノスがレベルアップしました*


 *フォノスがレベルアップしました*


 *フォノスのカルマ値が低下しました。フォノスのアライメントが混沌にして中立となりました*


 *フォノスのクラスアップが可能です*


 (どれだけ人を殺めたんだ…フォノス……もうやめてくれ……君の怒りは俺が受け止めるから、だからもう君は刃をおさめてくれ…)


 転移装置がある建物の前には、沢山の捕虜と……黒い服を赤黒く染めたフォノスが立っていた。彼の足元には、誰の血かも分からないほどの血が剣から滴り、溜まりを作っている。


 基地内部から単騎で捕虜を救出した上に脱出まで成功したのだろう


 そして、恐ろしい数を一人で殺したんだ


 「フォノス!」


 彼が驚き振り返るが、返事を待つことなく抱き寄せた


 彼は抵抗せず受け入れる


 血に塗れた殺人刀を落として、手を俺の腰に回し、抱きしめ返してくれた


 「お兄さん……」


 「心配したんだぞ。どうして一人でいつも突っ走るんだ……フォノスに何かあったら、俺は…」


 「心配かけちゃってごめん、お兄さん…」


 「いや、謝るのは俺の方だ…本当にごめんな……本当にごめん」


 どれほどの時間、そうしていたか分からないが、しばらくしてフォノスが口を開く


 「お兄さん、嬉しいけど、そろそろ動いたほうがいいよ。それにちょっと照れくさい。捕虜の皆も待っているよ」


 「あ…」


 周りを見ると、微笑ましいものを見る生暖かい視線が俺に向けられている


 空気を読んでくれていたようだ


 「す、すまない…」


 「僕はずっと、こうしてても良いけどね?」


 フォノスが俺に向ける笑みは、相変わらずのいたずらっ子な表情だった



***

Tips

名前:ソリアム・キャピタル


概要:フォマティクス国の重要拠点のひとつ、補給基地の責を預かる将

元々はスターリム国の王都出身であったが、ヒューマンとエルフから生まれたハーフであり、国柄から血筋を理由に疎まれて育った。

後天的にではあるが、生まれから差別され続けた結果、比類なきほどの残虐性を持つことになった。

フォマティクスの兵に登用されてからは、敵を容赦なく殺す豪胆さが認められ、昇格を続けて将まで登り詰めた成り上がり者である。

特にスターリム国への復讐心と憎悪が強く、その性格を利用されフォマティクスのとある計画に必要な役割を任せられた。疎まれてからスターリム国に敵対したという点においては、蛮族王と類似する経緯を持つ。

サトルの前に立ちはだかった時は、その執念や用意周到かつ残虐な性質により、サトルたちを大きく苦しめた

***



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