領主編 102話
リンドウたち後発組が補給基地まで追いついてから、風前の灯火であった基地の運命は決したと言ってもいいいだろう。
合流したリンドウら自警団の装備は、今回の遠征に備え、ミラージュやラグナ重工産の採算を度外視したゴーレム装備の特注品を割り当てている。装備している者も体格の良い竜人と相まって、彼らが横に並ぶだけで威圧感が半端じゃない。負ける気がしないとはこのことである。
ちなみに、ネオを始めとした新兵たちも、この遠征に組み込まれている。役割は補給と後方の警護だが、彼らの目にも油断は無い。
屈強な竜人や新兵の男たちを後ろに従え、悠然とした様で俺の前で会釈をするリンドウは、自信に満ちている。彼女の持つ錫杖と巫女服のせいか、何かの祭事にも見えなくもない。
「サトル様、貴方様の自警団が到着いたしました。制圧でも蹂躙でも、果たしてみせましょう。何なりとお申し付けください」
「まずは来てくれてありがとう。状況だけど…」
俺は、基地の偵察でまんまと敵の罠にはまってしまったこと。その上で基地の頭らしき者は倒して撤退したこと。そして、捕虜を可能な限り救出し、残りの捕虜救出と敵陣殲滅のための再突入の段取りを整えていたことを話す。
「――ということがあった。すまない、本来であれば君たちの到着を待って、万全を期して調査を進めるべきだった。引っ搔き回した状況ですまないが、リンドウさんたちの力を貸してほしい。捕虜を助けつつ、敵陣を殲滅するためには、君たちのような精鋭が必要なんだ」
話を聞き終えたリンドウは俯いて、錫杖を力強く握り、わなわなと震える
(…怒っているのか?……それも仕方がないか。今回の俺の判断は、お世辞にも良かったなんて言えるものじゃない)
「サトル様、私、怒っています」
藍色の髪から覗かせている赤い目は、怒りに燃えているように見えた…
「はい…」
「サトル様を罠にはめた愚劣な敵兵どもを、どう懲らしめてやりましょうか…!」
「……は、はい?」
(あ、、あれ?俺に対しての怒りじゃないの?)
リンドウは後ろで控える男共へ身を翻し、両腕を大きく広げて声を張り上げる
「皆、聞きましたね…!我らが祖たる血を引くサトル様に対し、愚かにも弓を引き剣を向ける者がこの先の基地で我らの制裁を首を差し出して待っています。自警団としての初めての大きな仕事です。必ずや成果をあげて、我ら竜人の誇りをみせましょう。そして、力の差を教えて差し上げるのです!」
言い切ると同時に、男共の雄叫びが響いた
「うぉおおおおおーーーー!!」「サトル様のために!」「巫女様のために!」
(あ、あれ…?なんだかおかしな流れになってきたぞ…!?)
「リ、リンドウさんや…あの――」
「いきます!突撃ぃいい!!」
―ウォオオオオオ!!!―
(急に突撃を始めたぁぁ!?)
砂埃を巻き上げて、何十名もの屈強な男共が補給地点に突撃をかます
その様子を見ていたフォノスもくくっと笑い声を抑えて、俺の肩を叩く
「ふふ…お兄さん、僕も待ちくたびれちゃったよ。敵さんにはしっかりとした借りがある。それを返さないと、気が済まないんだ。悪いけど、僕も行くよ。リンドウ姉さんたちが来てくれたんだ。約束通り、もういいでしょ?今日のお兄さんは、ちょっと慎重すぎるよ。ここの捕虜たちをよろしくね」
返事を待たずしてフォノスも風のように行ってしまった
「あ、ちょっと、フォノスまで!?」
カルミアは、チラッと俺を横目に一言だけ呟いて、彼らの後を追う。
「…サリーと留守番、よろしく」
「えぇ……」
イミスとヴァーミリオンはここに残ってくれる…と思ったが、バッチリ装備を整えていた
「ウチも行ってくるよ。サトル君を困らせた相手を、ちょっとだけ懲らしめてくるね。ヴァーミリオン、行くよ」「わかっています、マイシスター」
リンドウの声が切っ掛けとなって、台風のような勢いで進軍を始めてしまった
こうなっては止められそうにもない
(俺のパーティーメンバー、闘争心が強すぎる…)