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領主編 101話


 転移した先は潜入前に居た場所だった。


 「なるほど…こうして物資や人を自在に運ばせていたわけか」


 道理で尻尾がつかめない訳だ。対象の場所を変えるというアドバンテージはシンプルだが、それ故に対策が取りづらい。こうした戦略に組み込まれると、影響範囲は一個人に留まらないのも脅威だ。敵に回ると厄介な能力や魔法の筆頭だろう。


 全員揃っていることを確認し、速やかに移動を開始する。幸いにも外は入る前と特に変化はない。


 (この基地の頭は潰した…だけど、理想とは程遠い結果だったな。それに……)


 フォノスたちが待っている合流地点に近づくにつれて足取りは重くなる


 どう説明すべきなのか。助けられなかった側からすると、何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。


 やがて、とうとう彼らが目視できる地点にまで到着してしまった


 「あ、お兄さん。おかえりなさい……ん?」


 フォノスは手を振るが、すぐに俺の表情を読み取って異変を察知した。フォノスの表情にも影が差す


 (相変わらず、鋭い子だな…)


 「おかえりー!おとーとー!よかったー!!」


 フォノスにしがみついてた女の子は、我先にと弟を抱きしめる。弟の目は涙で腫れていたが、力を振り絞って小さな姉を抱きしめ返した。


 他の捕虜も、それぞれの知り合いや家族への再開を喜んだ


 女の子の母は周りを見渡し、夫が帰還組に含まれていないことを不安に感じ、険しい表情で俺の元へやってきた


 「あの……サトルさま、私の夫が見当たらないようですが…お助けいただいたのは……これで全員、でしょうか」


 「……はい、助けられたのはここに居る者だけです。残りは再突入で可能な限り助ける予定ですが、あなたの旦那様は……申し訳ございません。俺の…力不足でした……」


 母の目は丸くなり、次第に肩を震わせる


 「夫は……」


 再度、問うが、俺は首をゆっくりと横に振ることしかできなかった


 「そ、そんな……」


 母が崩れ落ちると、子供たちが駆け寄る


 「おかーさん…どうしたの?」「おなか…いたいの?」


 「なんでも……ないのよ。大丈夫だから」


 母は二人を抱き寄せた


 どんな声をかけても、どんな言い訳をしても、彼女の悲しみが薄れることなんてない。


 胸が張り裂けそうな思いだった。


 「……」


 「おかーさん、おとーさんはどこ?」


 「…………遠いところに、おでかけしたのよ」


 母はもう一度、子供たちを強く抱きしめた。その手の甲の石には赤黒いエネルギーが活発に渦巻いている


 悲しみを始めとした負の感情を餌として、石が成長しているのだ


 悪魔の石を見ているだけで、反吐が出る


 製造方法や工程を知ってしまった以上、絶対に放置しておけない。


 (こんなこと、絶対に間違えている。悪魔の石を使った戦いを、絶対にやめさせる)


 行動で示すときだ


 「フォノス…リンドウたちが合流次第、再突入するよ。捕虜を救出次第、基地を跡形もなく消し飛ばすぞ」


 フォノスの目には怒りの炎が宿っていた。純粋な怒りだ。


 「あぁ、分かっているよ。お兄さん。僕が一番、分かっている。僕が、一番、許せないんだ」


 フォノスは自身へ言い聞かせるように呟いた



 ・・・



 サトルたちの転移後、誰も居なくなった補給基地の大部屋には、頭を食いちぎられたソリアムがこと切れている


 突然、ソリアムのポケットからホログラムが出現した


 『ごきげんよう…ソリアム。調子はどうですか……?くく…』


 ホログラムに映し出された者は、ローブ姿に身を包んでいる。それは蛮族王の傍に控えていたローブ姿の者に酷似していた。


 『君がこれまで非道の限りを尽くし、普通の倫理観ではできないような実験を一手に引き受けてくれたことで、アレの研究と計画はとてもとても前進しました。結果的には、あなたの性格を利用した形にはなりましたが、我が国に尽くしてくれたこと、とても感謝しているのですよ』


 死体となったソリアムが返事をすることはないが、ローブの者は話し続ける


 『貴方の研究はこちらが引き継ぎます。ですから安心してください。あなたが描いていた理想、我が国が描いている理想は同じ方向を向いています。……おっと、もう聞こえていませんでしたね。私としたことが……では、失礼します。可哀想なソリアム。キャピタルの名を穢した罪を、その身で償うと良いでしょう』


 ホログラムが消え去り、大部屋にはまた沈黙が戻った



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