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領主編 100話

領主編も100話に到達することができました。この場を借りて、応援してくださっている画面の前の貴方様にお礼を申し上げます。いつも本当にありがとうございます。猛暑日が続いていますが、どうかお体ご自愛のうえお過ごしくださいませ。前書きにて失礼いたしました。


 カルミアの言う通り、ここは敵陣だ。犠牲者を前に狼狽えている内にも、状況は刻一刻と変わっていくだろう。俺がこんなところで絶望していては、それこそソリアムの思い通りだ。胸が痛くて張り裂けそうな思いだが、立ち上がらないといけない。


 (小さい子ですら、頑張っているのに、俺は何をやっていたんだろう…仲間に感謝しないとな)


 服の埃を払うと、一呼吸。大きく息を整えて、何度か自身の頬を叩く


 「よし…カルミアさん。ごめん、そしてありがとう。もう、大丈夫だよ……まずは皆を集めよう。動ける人員の数と、負傷者の数を把握したい。その後に方針を決める。協力してくれるかい?」


 「もちろんよ」


 カルミアは大きく頷き、急いで皆を集めた。


 集まった人員から、状況を整理していく。


 動ける捕虜は十名程度で、応急手当は終わっているが動けないのが数名だ。俺のパーティーメンバーは全員無事だが、サリーの魔力が足りない状況が続いていて、強敵との戦闘は難しいのが分かる。イミスとカルミアはまだ戦闘可能だが、十名近くを庇いながら戦うのは先のようなリスクがつきまとう。また人質でも取られて足止めされる事態だけは避けたい。基地内には十中八九、まだ他の捕虜が捕まっている。敵はここのヘッドであろうソリアムが死んだことは把握しているはずだが、混乱はいずれ無くなり、こちらを制圧する動きを取るはずだ。


 (理想は、捕虜を全員助けた後に基地を出ることだけど、俺がするべきことは一つだな…)


 「……みなさん、集まりましたね。それでは聞いてください。ここに居る全員で、一度この基地から脱出を行います」


 捕虜たちはざわめく。不満そうな声が所々から出てくる


 「ちょっと待ってよ、私のカレはまだこの基地のどこかにいるのよ。カレも助けてよ!」「俺の同僚もだ……」「みんなを助けてくれるんじゃなかったのか」「そんな馬鹿な!」


 カルミアが刀の切っ先を地面に突き刺し、強制的に注目させる


 「…黙りなさい。今はサトルの話を聞いて」


 全員、沈黙したのを確認したカルミアは、俺を見つめる


 (…すまない)


 「………みなさんの気持ちはわかります。ですが、先の戦いで我々も消耗しており、みなさんを守りながらここに留まるのはリスクが高いと判断しました。正直にお伝えします。全員…は難しいかもしれません。ですが、少しでも多くの命を救うための判断だと、ご理解いただきたいのです。こうしている間にも敵は動いているでしょう。……急ぎましょう」


 渋々ながら動きだす者、泣きながらも足を止めない者、それぞれの反応を示しつつも


 捕虜の中でも、先ほど声をあげていた女性が特に取り乱している


 「…ふざけないで!!それって暗に他の人は全員『見捨てる』って言っているのよね!ここに居る人がどれだけの酷い仕打ちを受けて、助けを待っていたか、貴方たち分かっているの!?私が助かっても、カレがいなければ何の意味もない!奴らはきっと見せしめにカレたちを殺すわよ。そこの女剣士は強そうだし、無傷でしょう!?ねぇ助けてよ!」


 胸がしめつけられる。本当に苦しくて足が何度も止まりそうになる。振り返って『それもそうだね、じゃあみんなを助けよう』って言えたら、どれだけ楽なことか。確かにカルミアは無傷だし、彼女の力をもってすれば制圧など容易いかもしれない。


だが、イレギュラーが無いとも限らない。こちら側の守りは手薄になるし、彼女は強いが、情報戦略や搦め手には長けていない。俺たちはデオスフィアのことも、敵のことも、知らない情報が多すぎる。今回の件で、それを思い知らされた。


闇雲に単騎で突撃させて、万一彼女を失うことになれば、今後救えるはずだった命すら救えなくなる。彼女は万能だが不死身なんかじゃない。残りを救うのは、捕虜を安全な場所まで退避させるのは絶対条件で、リンドウの部隊が到着した後にフォノスを連れて万全を期してからだ。


 (俺たちは強いからと慢心した行動が起こした結果なら、同じ轍を踏んではいけない。それがあの悪魔化してしまったお父さんへのせめてもの……)


 「……ソリアムの居た部屋を調べるところから始めよう。脱出するにも、転移用のゲートを出さないとね」


 「無視しないでよ!ちょっと…!」


 彼女が俺の前に立ちはだかるが


 「……こうするしか、無いのです」


 俺の決意は変わらない。


 「…どうしてよ……何一つ、納得できないわよ……」


 吹けば消えそうなほどの頼りない声を背中で受け取るしかできない


 今は脱出が第一だ。


 ・・


 ソリアムが出てきた部屋は大部屋から直結している管制室のような場所だった。モニターのようなものには、先の大部屋の様子や、他のエリアの様子がリアルタイムで映し出されている。魔力によるものだとしても、イミスの技術力に匹敵すると思える技量だ。他の場所を投影させる魔道具など、スターリムでは聞いたことも見たこともない。


 異質な空間だが、それに拍車をかけるように不自然なほど悪趣味な拷問道具に溢れていた。ソリアムは残忍で几帳面な性格だったのか、どの道具も手入れが行き届いているのが分かる。日々この道具を使って、人をいたぶっていたのは間違いないだろう。


 (本当に救いようのないゲスな野郎だ……死んだ後にも不快な気持ちにさせてくれる)


 暗い雰囲気の中、イミスだけはこの部屋への好奇心を隠しきれない様子だった。主に魔道具にだ。彼女はすぐに部屋をまさぐり始め、魔道具の部品やらコードやらを引っ張り出してはウンウンと唸る


 しばらく彼女の動向を見ていたが、ずっと魔道具に張り付いていそうな気がしたので、声をかける


 「…イミスさん、この部屋から、転移に関する何かがあれば教えてほしいのだけど…」


 「ん?あー、ゴメンゴメン。それなら、カルミアちゃんが丁度いるそこ、多分そのレバーだと思う」


 大した時間もかけずに大規模な魔道具の仕組みを理解して当ててみせる芸当は、彼女くらいしかできないだろう。イミスが指を差した機械には大きなレバーがいくつもついている。


 「…これ、どのレバーを引けばいいの?」


 カルミアが顔をしかめる


 「うーん……分からない。それが転移に関する魔道具って所くらいしか検討がつかないかな。調べてもいいけど、時間がかかるかもだよ?」


 イミスが困った顔をするのを見てカルミアが納得したように頷いた


 「…そう」


 カルミアは興味なさそうに返事をして『全てのレバー』を引いた


 「…これでいい?」


 「全部引いたの!?」


 (全部引くのかよ…!)


 心の中で、イミスと同じ突っ込みを入れたが、案外…良い手だったのかもしれない。


 ゴゴゴゴ…


 基地が大きく揺れ、モニターに映し出されているほぼ全ての部屋に転移魔法陣が現れた


 もちろん、横の大部屋にも出現している。


 (脱出ルートは確保できた…かな?)


 捕虜たちを連れて外に出られそうな算段は立った。俺はソリアムの居た部屋から、重要そうな資料をいくつか懐に入れていく。机には、彼の日記のようなものも見つかったので持っていくことにした。


 モニターには、敵兵が慌てて何かを指示して動き回っているのが分かった。管制室に来るかもしれないな…


 「よし、そろそろ引き上げよう」


 名残惜しそうにしているイミスの手を引っ張り、大部屋を後にした



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