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領主編 94話


 誘導されるがまま、自動で開いていく扉の先へ向かう。何度か同じような工程を繰り返され、ベルトコンベア部屋が続いた。


 (本当に大規模な補給拠点だ。この施設ひとつで、どれほどの戦線を支えられるのだろう)


 敵ながらにして関心していると、他とは違う、大きな扉の前までやってきた。もちろんここまで敵兵とのエンカウントはゼロである。明らかな誘導、明らかな罠。でも俺たちは捕虜の居場所を知らない。相手が隙を見せるまでは、従ってやるつもりだ。


 大きな扉が、ゆっくりと開いていく。その先の光景に、俺たちはただただ絶句する


 ベルトコンベアの開始地点と思わる大部屋


 そこでは、ボロをまとった捕虜と思われる人々が列をなしていた。まるで閻魔大王の裁きを大人しく待つ囚人のような構図だ


 さしずめ閻魔大王のポジションと言えそうなベルトコンベアの開始地点には、アイアンメイデンのような不気味で悪趣味な装飾が施された処刑装置が、獲物が運ばれてくるのを待つ獰猛な動物のように、大きな口を開けている。一度入れば、当然即死するであろう針の山のような口だ。今まで何人、この口におさまったのだろうか、赤黒いサビが犠牲者の歴史を物語るようで恐怖心を煽る。今にも、囚人を順番に食していくかのように、それは待っている。


 『次、入れ』


 大部屋全体に広がる拡声が、無慈悲な命令を下した。しかし、この指示を出した声の持ち主はこの部屋にはいない。拡声の魔道具で遠隔から指示しているようだ。


 「カルミアさん」「…わかっている、今たすけ――」


 『動いたら捕虜を殺すぞ。装置を壊してもだ。お前らが助けにきたであろう捕虜はこれだけじゃない。他の隔離してある部屋にもたくさんいる』


 どうやら遠隔から声を発している者は、こちらの状況をリアルタイムに観測できているようだ。魔法による技術だろうか。監視カメラのようなもので見張られていると思った方がいいかもしれない。


 「ぐ……カルミアさん、動かないでくれ……くそ、どうすれば…」「サトル…」


 入れと指示された最前列に並んでいた男の捕虜は、俺たちを一瞥すると会釈をして言った


 「お兄さんたち、助けにきてくれたんだろう。その気持ちだけで十分だ。俺一人犠牲になればいいんだ。それに、もう痛みには疲れたんだ。この施設で俺たちは、捕まってからというもの、毎日毎日、嫌がらせに痛い思いを繰り返し受けてきた。…だから、もう、疲れたんだ。これで終わりなら、それはそれで、平穏なんだ。…でも、お礼は言っておくよ。どうもありがとう…じゃあな」


 「まって!待ってくれ!」


 俺は必死に止めるが、男は絶望した表情のままお礼を伝えると、アイアンメイデンのような装置に入ってしまった。


 針の山を宿した大きな口は、まるで死者を優しく抱擁する聖女のようにゆっくりと閉じていく


 俺は…俺たちは…誰も動けなかった。


 目を背ける以外にできることが無かった


 そう言い訳するしか


 そこから先に何が起きたのかは、あえて表現する必要もないだろう。男は犠牲となったのだ。


 暫くの間、場は沈黙が支配した。


 次に並ぶ者は歯をガタガタさせて絶えず震えている。


 (こんなこと、間違っている。フォマティクスのやり方は、歪んでいる)


 沸々と怒りが込みあがってくる


 「なぜこんなことをする。なぜこんな無意味で悪趣味なことを!どこかで見ているんだろう!卑怯者!俺たちが怖いのか!?」


 俺の発言に対し、拡声の魔道具から中性的な声の印象を持つ者が、欺け笑うような冷静な口調で返答をする


 『おやおや、盛り散らしてうるさいですね。元気が有り余っているようですが、少しは落ち着きましょうよ。それに…意味なら、しっかりと…ありますよ?クフフ…悪趣味でもないでしょう。絶句、絶望、絶叫。どれも、素晴らしい作品を作るうえでは、なくてはならない要素なのですから』


 (馬鹿げた考えだ…)


 「そんな歪みきった思想を他人にぶつけて、意味があるというのか?意味などない。お前たちフォマティクスのやっていることは、戦争の範疇を超えた、人道的に反する、ただの趣味の悪い拷問でしかない!出てこい。出てこないなら、この施設を今すぐ破壊する」


 『そんなこと、絶対にできないでしょう。だって、アナタは捕虜を助けるんだと息巻いていたじゃない。尊い犠牲を良しとする発言には思えないなぁ……クフフフ!あなたは、ただ、助けにきた捕虜がむざむざと殺されているのを【見ているしかない】のですから!!あぁもっと見せてください!あなたの希望に満ちた目が曇っていく様を、わたくしに!!』


 (しまった…。転移したときから、行動を含めて会話内容まで把握されていたのか…自分の詰めの甘さに嫌気がしてくる。本当に俺は……いや、自暴自棄になるのはまだ早い。助ける方法を、この場を打開する方法を探す。考えることをやめたら、それこそ本当に終わりだ。相手は何と言った。目的はなんだ。考えろ…考えるんだ…!!)



 

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