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領主編 92話


 気を失った隊長から所持品を探ると、ポケットから妙な形のカギが出てきた。カギには魔法めいた文様が浮かんでいるのが分かる。魔法といえば、サリーなら何か分かるかもしれない。


 「サリーさん、この兵の止血をお願いできるかい。このままだと欠損した場所から出血が止まらないから死んでしまう。それと、この鍵について何か分かることはある?」


 「ドレドレ、このサリー博士に任せたまヘ」


 サリーはカギを受け取ると、もう片方の空いている手で、兵に向けて雑にポーションをぶっかける。すると兵の傷口はシュウウと痛そうな音と煙が出てきた。欠損した傷口自体はじわじわと塞がったが…


 (うわ…なんとも雑な治療方法だ。酸で焼いたような音が生々しい。どういうポーションを使っているのか、聞くのがコワイ。だが、ワガママは言えないだろう。死ぬよりはマシ…この兵は気絶してて助かったのかもな。起きてたら痛みで…いや、考えるのはやめておこう)


 サリーは兵にポーションをぶっかけた後、カギと睨めっこしてフンフン言っている。そんな確認方法で何かが分かるのだろうか


 「サトル、このカギ。う~ん……何か、何処かと何処かを繋ぐような魔力の流れを感じるケド、それ以外はよくわからなイ。魔力が宿っているのは間違いないヨ」


 「なるほど…別の場所に繋がるアイテムになっている可能性があるね。この兵たちが、大きな物資と共に突然現れたことを考えると…」


 (一つの可能性につながるか…この隊長らしき人が現れたのは僥倖だった。この人にとっては災難だったかもしれないけど…)


 俺たちはフォノスが調べつくしたと思われる、隊長たちが現れた部屋に入る。情報通り、何もないただ広い空間だ。ここに兵や物資を隠して置ける場所など、一見存在しないように見える。


 「サリーさん、たしか魔力の『匂い』を感じることができたよね。このカギと同じ匂いのする箇所がこの部屋の何処かにあるはずなんだ。…どうかな?」


 サリーは種族上はハーフエルフに該当するが、その血筋はハイエルフのルーツを持っている。エルフは魔力の流れを読み解くことに長けているが、中でもサリーの父のようなハイエルフに属するものはそれが顕著だ。父譲りの鋭敏な魔力感知能力があれば…それは見つけられる。


 サリーは広くて何もないように見える大部屋をクンクンと鼻を効かせて辺りを探っている。ついでに口ずさんでクンクン言っている。真剣な本人を前にして言うべきじゃないかもしれないが、その姿が何か可愛らしい。


 「クンクン…クンクンクン」


 (可愛い。しかし、それを口に出す必要はあるのだろうか…)


 サリーは目を閉じてクンクンして部屋を行ったり来たりしており、丁度中央あたりでピタリと止まって、目を見開いた。地面に指を差して飛び跳ねる。


 「サトル!ココ!ココだヨ!」


 「何か見つけたのか?」


 サリーの元に寄ると、カギが振動する


 「うん…?カギが勝手に振動して……そうか、ここが『入口』なのか!サリーさん、お手柄だぞ!」


 イミスとヴァーミリオンは互いに顔を見合わせる


 「ねぇ、サトル。入口って何?どこにもそれらしい場所は無いよ。ね?ヴァーミリオン」


 「はい、マイシスター。どこにも見当たりませんデス」


 俺は、カギがより強く振動する場所へ移動させると、丁度その地面に小さな窪みがあることを見つける。窪みの形はカギの形と合致するようだ。


 (どうりで、フォノスがいくら探しても見つからないわけだ。兵が突然現れたのも、物資が部屋の規模以上に運び出されることも、人が消えて出てこないのも…)


 「入口はここ。厳密に言うと、この部屋自体が、大きな入口。つまり転移装置だったんだ。そしてこのカギは、転移を起動させるためのトリガーになっている…はずだ」


 俺がカギを窪みに差し込むと、何も無かった部屋に大きな魔法陣が構築される。地から青白い光が眩く俺たちを照らすと、徐々に魔法が体に纏わりつくような感覚を覚えた。


 カルミアが俺の手をとって、辺りを警戒した


 「…サトル、気をつけて。飛ばされる」


 そして、俺たちはその部屋から音もなく消えた



 ・・・



 機械仕掛けの管制室のような場で豪華な食事を嗜む男がハンカチで口を優雅に拭いた。


 「どうなさいました。お食事中ですよ」


 「ソリアム・キャピタル様…お食事中の所、失礼いたします。どうかご無礼をお許しください。『ネズミ』が入り込んだとの情報が…」


 ソリアムと呼ばれた男は、大きくにやけるが、すぐにハンカチで口元を隠す。


 「くふふ……ふむ。折角ですから、歓迎して差し上げましょう。まずはアレを見ていただきましょうか」


 「『製造室』に向かわれているようですが、止めなくてもよろしいので…?」


 「おおいに、結構ですよ……見せたいのですから。『製造室』を破壊するようであれば、わたくしが自ら伺いましょう」


 「っは…仰せの通りに」


 ソリアムと呼ばれた男は、部下が退室するのを見届けると、恋焦がれる少女のように監視装置に映ったサトルを見つめる


 「あぁ……あの男の希望に満ち溢れた目は……一体どんな表情に変わっていくのでしょうか……それが楽しみで愛おしくて、あぁ……」



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