領主編 90話
俺はカルミア、サリー、イミスを連れて、フォノスの報告に上がった地点まで戻ってきた。補給基地の門は派手に両断されているが、これはカルミアが斬ったもので間違いないだろう。彼女にしかできない。あちらこちらで倒れている兵は、一人を除いて全員が気絶し、縛り上げられている。死亡している者はフォノスが倒した兵で、気絶している哨戒たちはカルミアが無力化した兵だ。
フォノスの話が正しければ、あの小さな子の弟さんや他の捕虜のご家族の方が、ここに捕らえられているはずだ。
(…ここまで派手にやったのに、一人の増援も無いというのはおかしいな。最初から外にいる兵だけだったのか?)
「サトル、みんな、こっちきて…誰か来る。鉄が軋む音」
アゴをさすり、周囲を探っていると、カルミアが俺の手を引っ張り物陰に身を潜める。サリーとイミスも後に続いて隠れた。
すると、フォノスの報告があった建物から、幾人かの兵が出てきた。滑車に乗せた物資を外へ引っ張り出そうとしている。兵は哨戒よりも良い装備を身にまとっており、内一人は隊長クラスなのか、派手な鎧を着用していた。
(おかしい…フォノスの報告では、あの建物の中には誰も居ないうえ、何もない大部屋がひとつという話だった。そこから重装備の兵が何人も大きな荷物を持って出てくるなど、考えられない。斥候のプロであるフォノスの目を欺けるとも思えない)
隊長格と思われる兵は、周囲の異変をすぐに察知したようだ
「む…なんだ、なぜ『素材』が一人も居ない!見回りはどうした?」
部下らしき兵が急いで周囲を見回すと、すぐに気絶させられた兵を見つけられてしまった
(野ざらしにしていたから、当然か……)
「隊長!見張りを任せていたショーンが倒れています!しかも縄で縛られて!『素材』も一人もいなくなっています!!」
「なんだとぅ!?となるとぅ……ふうむ、敵襲か!ならば、今すぐ周りを捜査しろ!襲撃に備えて遠距離攻撃に警戒!必ず二人一組で動けぇい!私は本部に報告を入れる!すぐに増援を送るからそれまでは警戒を怠らないようにぃぃ!」
「っは!」
(…まずいな。恐らく隊長は何等かの方法で増援を出す気だ。だが方法を探っているヒマはない。新たな兵の数は10名程度だが、本部に連絡を入れるという部分が引っかかる。ここで隊長を見過ごしてはいけない気がする。数が増える前に、ここは博打でも…やるしかない!)
俺は物陰からサリーに合図する
「サリーさん、今隊長に動かれてはマズイ予感がするんだ。遠距離攻撃を使って一撃で無力化できるかい。隊長に異変があれば、他の兵が駆けつける可能性もある。何人か釣れるかもしれない」
サリーは頷くが、ちょっと自信が無さそうだ
「できるケド、アタシの魔法だと他の建物まで壊しちゃうかモ、それト、タイチョーさんが……」
(隊長の命まで取ってしまう…か。それに、陽動としては派手すぎるな…)
イミスが目を輝かせて俺の肩を叩く
「ここは、ウチに任せて!」
「イミスさん?何か考えが…?」
(イミスは近距離攻撃を主体としたディフェンダーに特化したステータスだ。遠距離から攻撃することには向いていなかったはずだが…)
「ふふん、ウチに秘密兵器があるって言ったの忘れたの?まぁ見てなさいっ」
イミスは物陰から立ち上がり、静かにパチンと指を鳴らした
「来て、my stylish partner ― 敵兵のダンスをサトルに披露するのよ ―」
すると、イミスが持っていた、拳程度の機械の塊が広がりガントレットに変形した!ガントレットから音声が聴こえてきた!
『My sister, anytime is fine. ― 私たち姉妹の力をサトルに魅せるわよ ―』
「良い返事ね!さっすがウチの子。さて……目標補足…完了よ」
(なんだ…新しいゴーレムか?喋るガントレット…?それが遠距離攻撃とどう関係するんだ?)
「な、なぁイミス、それどういう武器――」
イミスは俺の唇を人差し指でおさえて、イタズラな笑みを見せた
「見てて」
ガントレットから返答が来る
『サトル様にこの一撃を捧げるわ。 ターゲット・アクワイアード』
イミスは誇らしげにガントレットを、まだ何も知らない隊長に向けた。
「ならあとは言うまでもないわ…ね!」
小さな射出音と共に、小さな粒が敵の隊長に射出され、足元に着弾する
ピシュン……ピピ
隊長は自分の足を見て顔をしかめる。足から剥がそうとするが、それはガムのように吸着しており全く取れない
「ん…なんだぁコレは?」
ビーコンのような、明滅する小さな物体が不気味に光る
(まさか……これは…!)
「ショー・タイム・ショットよ♪」
イミスが人差し指を自身の唇に押し当てて、サトルに投げキッスした
次の瞬間、破裂音と共に隊長の足が吹き飛んだ!
パアァァーーーン……
隊長は、瞬きの合間に失った片足の方を向いて、ただただ言葉を失う
「……なぁ?」
『目標の無力化を確認……』
「い、いでえええええ!!!うあああああー!!」
隊長は徐々に汗を拭きだし、痛みに悶えた。その声と破裂音から散開した兵が戻ってくる
「た、隊長!どうしたんですかー!!」「敵襲かー!敵襲ー!!」「早く治療を!」
兵たちがわらわら集まってくるが、痛みに悶えながらも隊長は手を振り払い、焦ったように叫ぶ
「ば、ばかやろうぅ!!お前らぁ!!集まってくるんじゃねぇえ!どこからきた攻撃か補足する前に、団子になるんじゃねぇえええ!!これは罠だ!すぐに散開――」
(今だな…)
「よし、カルミアさん。今だ…!敵を捕らえて!」
カルミアは一つ返事で物陰から飛び出した




