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領主編 89話


 カルミアは補給拠点の正門を物理的に破壊することに成功し、捕虜たちを連れ、少し離れた場所で待機しているサトルの元へ向かった。


 「…いた、あの人が私たちのパーティーリーダー。そしてソード・ノヴァエラの町、領主のサトル」


 カルミアの言葉を聞いた捕虜たちは驚く


 「り、領主様が自ら出向かれていたとは…」


 サトルはカルミアの姿を確認すると、手振って合図した。カルミアも手を振り返す。そして、何十と連れ添う捕虜たちの姿を認めると、苦笑いした。


 「カルミアさーん!潜入は……どうやら、成功したようだね。その方たちは、フォマティクスの捕虜ってことでいいのかな?」


 「…そう」


 「捕虜まで助けるなんて、さすがだよ。二人に任せて正解だった」


 捕虜は興奮したように同意し、サトルへ話す


 「領主様か。この嬢ちゃんは本当にすげぇな。人間なのか何度も疑ったぜ?数十秒経たずに哨戒を無力化したうえに、正門をぶち破ったんだからな!」


 (正門をぶち破った…?潜入ミッションとは一体何だったのか…?)


 サトルは動揺を隠しつつ、捕虜へ対応する


 「カルミアさんは俺の自慢の切り札ですよ」


 カルミアをチラっと見ると、腕を組んで頷いていた。可愛い。やがて思い出したかのように報告に付け加える。


 「…フォノスが、捕虜を助けたいって突撃したの。もう少し慎重に敵を処理して回りたかったけど、時間がなかったから、視える範囲の敵は全て無力化してきた。討ちもらしはあるかもしれない。フォノスは一足先に拠点の建物へ偵察しに向かった」


 「そうか、派手に暴れたようだね。突入前から敵にバレちゃったかもしれないけど…人の命には代えられないか。…ところで、正門をぶち破ったという話だけど……」


 (大きな音がしたのはここまで聞こえてきたから、なんとなくは予想はできるけど)


 カルミアは少し焦った様子で答える


 「も、門は…これ以外方法が無かったから、壊した。私一人なら飛び越えて終わりだけど、捕虜たちが建物から出られない。敵は追いかけてこなかったし、増援も無かった」


 「…それは妙だね。フォノスが偵察に向かう前から、音に気がついて兵たちが建物から出てきてもおかしくないはずだけど」


 「うん、それと…」


 カルミアは言いよどむと、捕虜の手へ視線を向ける。サトルもそれにつられて捕虜の手元を見る。そこには、あってはならない石が埋め込まれている。


 「…な!?デオスフィア…!?なぜだ?」


 駆け寄って捕虜の手をとり、埋め込まれた石をまじまじと見つめるサトル。捕虜は困惑したようにもう片方の手で頭をポリポリかいている


 「領主様、これが何か知っているのか?」


 「知っているも何もこれは……」


 (人を悪魔化させる石が埋まっていますなんて、今言ったらどうなる…?言えるわけがない……) 


 「いや……今は、申し訳ございません。今はお伝えできません。ですが、必ずお伝えします。」


 捕虜は悲しそうにするが、間をおいて返事をくれた


 「…そうかい」


 石の容体を確認する。蛮族王や戦の時にフォマティクスの兵が着用していたものよりも石は小さく、色は薄い。しかし、赤黒い、見ているだけで胃がムカムカするようなオーラを放つこれは、見間違うことなんてない。デオスフィアで間違いないだろう。


 (なぜ、人の手に埋め込まれている…?ここは補給地点だ。重要拠点だが、デオスフィアとは何の関係もない施設のはずだ。それにこの者たちは悪魔化していない。専用の抑制アクセサリーがなければ、瞬く間に悪魔化するはずだ)


 サトルが眉間にしわをよせ、沈黙しているとカルミアは思い出したかのように、捕虜へ問う


 「…正門を破る前、門は貴方たちの『石で強化されている』と言っていたわね」


 「あぁ、あれのことかい。俺たちも詳しくは知らねえんだが、兵たちがおしゃべりしているのを、荷運びをしているときに聞いたんだ。『こいつらの石があれば門の強度は数十倍にも上がる』ってな。だから、俺たちの石はそういう効果があるって思っただけだ。それが手に埋め込まれているのは何なのかは分からねえが。それを一太刀で斬ってしまうなんざ、お嬢ちゃん、本当すげぇなあ!」


 「…そう、ねぇ、サトル」


 サトルは頷いた


 「あぁ、聞いていたよ。原理としては、辻褄があう。ただ……いや、やめておこう。これ以上は邪推だからね。それに、フォノスが心配だ…まずは合流して……おや?」


 噂をすれば…


 一迅の風のようにフォノスが舞い戻る。音もなくサトルの前に着地すると、フォノスが報告した


 「お兄さん、拠点の中を見てきたよ。結論から言うと、建物の中は空っぽ。物資も、敵も、家具も、何も、だれもいなかった。ひとつの大部屋があるだけだった」


 捕虜たちは驚いて、反論する


 「そんなはずねぇだろう!俺たちはあそこの建物に備蓄されている物を荷運びしていたんだ。今日だって夜遅くまでやらさせるはずだったんだ。何もない、誰もないなんてありえないだろう!?」「そうだそうだ」「しっかり確認したのか?」


 フォノスがムキになって言い返す


 「本当だって!そんなに気になるなら引き返しても良いんだよ!?」


 言い合いになりそうなところで、サトルが割って入った


 「待ってくれ。どちらも嘘は言っていないはずだ。そうだよね、フォノス」


 「うん、お兄さんと、この命に誓うよ。ちいさな女の子の弟が中で捕らえられているって聞いたから、拠点をくまなく探したけどいなかった。それどころか、兵も捕虜も奴隷も、一人もいなかった」


 小さな女の子が泣きじゃくってフォノスの足元に抱きついてきた


 「ねぇ、おとーとは……?おにいさん、おとーと、どこ……」


 フォノスの表情が苦虫を嚙み潰したようだ


 「補給物資が無い以上、襲撃の意味は無くなってしまったけど……念のため、俺とカルミア、イミスとサリーを連れて、その部屋を調べてくる。フォノスはここで待機して皆を守って――」


 「僕もいく」


 「その子はどこにも行ってほしくないようだよ?」


 女の子はフォノスにべったりとくっついて離れそうにない。精神的に不安定になっているのかもしれない。傍にいさせてあげたい。


 フォノスもその気持ちを察したか、暫く黙り込むが、やがて頷いた


 「分かったよ。…お兄さん、あとはお願い」


 「あぁ、任せなって」


 (例の大部屋とやらを調べに行こう…。絶対に何か、からくりがあるはずだ)



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