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領主編 87話


 カルミアが跳躍すれば、行く手を阻む壁は無かったも同然、敵拠点の外壁の上まで届いてしまう。フォノスが追従する形でカルミアを追いかける。


 「カルミアお姉さん、僕はお兄さんの言いつけ通り、中を調べてくるよ。見張りを倒してくれる?」


 「…うん、問題ないわ」


 高所から確認する限り、敵拠点は大きな建物がひとつ、荷運び用の馬車小屋と、補給物資と思われる資源を運び出すエリアに分かれていた。今は丁度捕虜のようなボロをまとった人物が、フォマティクスの兵に見張られている状況で重そうな荷物を抱えて運んでいる。中には子供の姿まで確認できた。


 「それじゃ、いくわよ」


 「…まって、お姉さん」


 「…」


 物資を運び出すエリアだろう。働きアリのように捕虜や奴隷と思われる人物らが列をなして荷物を運んでいる。各ポイントでは、フォマティクスの兵が鞭を握っており、荷運びをする者が動けなくなるその時を待っているかのように見張っている。


 丁度、見張りの兵が鞭で地を打ち脅すように声を張っている光景を目撃してしまうフォノスとカルミア。


 「おらぁ!グズども!とっとと運べ!生かしておいてやっているだけでありがたいと思えよ!」


 鞭の音に驚いた子供が、両手に持っていた荷物を落としてしまう


 「ひぃい…落としちゃった……」


 目ざとく見つけたフォマティクスの兵は速足で子供の元まで向かった。苛ついた声を出すが、顔はニタニタしている。


 「おいおいおいおいおい、何やってんだぁ~?あ?この物資ひとつでお前らの命がいくつ買えると思ってんだぁ~!?!?」


 「す、すみませ…あぐ…!」


 謝罪を待つことなく、そして容赦することなく鞭をしならせる


 「あぁ~!!腹立たしいぜ!!せっかく生かしておいてやっていると言うのに、荷物もろくに運べないんじゃ、もう口減らしするしかないよなぁ~!!このグズがよぉ!!泣きわめく以外することがないのかよお~!」


 バシンバシンと鞭で体を打つ音が、周りの恐怖を誘う。誰しも俯き、嵐を待つように震えている


 フォマティクス兵はニタニタしながら痛みでうずくまっている子を蹴り始めた


 「ど、どうかお許しください!」


 列の後ろに並んでいた女性…恐らく母と思われる人物が走ってきて、子供を庇った


 「あん?」


 「ば、罰なら母である私が受けます。ですから…どうか、どうかこの子だけは…」


 フォマティクスの兵は真顔になったが、良い考えが浮かんだかのように下劣な笑みを浮かべた


 「この栄えあるフォマティクスの上級兵士である私に意見するとは大したものだ。むぅ~…ぐふふ…それなら、お前の前で子供を痛めつけて、最後にお前を―」


 フォノスの瞳に憎しみの炎が宿るような光景だった


 「…許せない」


 フォノスが飛び出そうとするが、カルミアがその手をつかむ


 「待って」


 「待たない。お姉さん、離してよ。はやくキレイにしないと、全てキレイに」


 カルミアがため息をついた


 「許せないのは分かるよ。でも、今はサトルの指示が最優先事項じゃないの?貴方の役割は何?」


 フォノスは力強く手を払って言う


 「僕の役割は、お兄さんと僕による完全なる世界を作ること。遠回りになるけど、これも目的の一環なんだ。奴は死ななければならないんだ。お兄さんが描く世界に、あの人間は不要なんだ。だから止めたっていくよ。僕は僕の正義を通させてもらう。こんな状況、お兄さんが放置するとも思えない」


 言い捨てるようにフォノスは現場に向かって高所から自由落下し、『活人剣』と『殺人刀』を抜いた


 カルミアが肩をすくめ独り言を呟く


 「…はぁ、サトル、ごめんなさい。開始早々、潜入は失敗しそうだわ」


 ・・


 フォマティクスの兵が母の手を引っ張っていくところだった。子供は泣き叫び、周りは震え俯くだけ、誰しも何も期待できない状況で、それは現れた


 夜を切り取ったかのような衣に身を纏った小柄な少年が、兵の前に音もなく着地する。


 「お前の命ひとつで、ここに居る全員が助かるんだ」


 「あん?なんだ?お前、どこから来た、ガキ。新しい受け入れか?」


 「僕の名前はフォノス。お兄さんと創り上げる世界で、お前が不要だと判断した。お前を処分する」


 フォマティクスの兵はゲラゲラ笑う


 「ぷ…がははははは!なんだこのガキは!?いっちょ前に剣を二つも差して達人のローグ気取りか?お前、ここがどこか分かっていないだろう。ちょっくらしつけが必要だよなぁ~!!!」


 兵は女を乱暴に突飛ばすと鞭で地を打ってフォノスに襲い掛かる!


 「今すぐに、従順にしてやるよおおおおー!!!」


 フォノスは活人剣を構え、地に体を寄せて 消えた


 「え…は…?」


 目の前で少年が消えたことに兵は驚きを隠せない


 「後ろだよ、グズ」


 フォノスは一太刀も入れず、兵をおちょくる。堪忍袋の緒が切れた兵は、実力差もはかることなく叫び散らし鞭を放つ


 「貴様ぁああああ!!ガキがああああ!!」


 しかし、フォノスの姿は既に無い 後ろだ


 「従順にしてやる…だったかな?グズさん。味わい喰らえ『活殺自在抜刀・アンジュ エ ディアーブル』!!」


 活人剣を抜き放ったフォノスは、兵の体を『余すことなく』突き刺した!!


 「あああああああああああああああああ!?!?」


 今まで経験したことがないほどの痛みが兵を襲う。活人剣はサトルの力で顕現した剣だ。相手を傷つけることはないが、その何倍もの痛みが斬りつけた部位に発生するからだ


 「あ…ああ……がはっ…」


 白目を剥いたまま、一撃で倒れる兵。圧倒的な力でねじ伏せたフォノスは、既に聞こえなくなった兵に手向けの言葉を送った


 「その叫びが、犠牲者にとって幾ばくかの慰めとなるだろう。痛みを抱えて闇へと堕ちろ」



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