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領主編 85話


 この世界でも夏という概念は存在する。冬も雪もあるのだからそりゃそうだと予想はしていた。しかし、これほどまでに暑いとは考えていなかった。こんなことなら夏に向けて冷房魔道具のひとつでも開発しておくべきだったと見通しの甘さを悔いるばかり。


少しでも体を冷やそうと思い立って、大きめの窓を開けて景色を見渡してみれば、青い空には火の鳥としか言えないような生き物が我が物顔で飛び回っていた。ぬるま湯のような風が顔を横切って、暑さを一層と引き立てていた。


 相変わらずこの世界の『空』は危険で、当たり前のように恐ろしい生き物が徘徊する。彼らが地上のあらゆる対象に興味を持っていないことが救いだと思う。だがしかし、あの、如何にも気温の上昇に貢献していそうな火の鳥を追い払えれば、ほんの少しだけでも涼しくなるんじゃないだろうかと考えてしまう。


だって奴はこの近辺を縄張りにしたのか、上空を四六時中飛び回っているのだから。実際、討伐できたとしても、暑さに何ら変わりは無さそうだが、そう思わずにはいられないほどの気温なのだ


 「あ、あづい……」


 ソード・ノヴァエラの領主、つまり俺の執務室


 エアコンなんて便利なものがあることもなく、部屋を冷やすような魔道具は使い捨てでお高いので、金策に忙しい我が領土では常用できない贅沢品なのだ。当然俺の部屋にも設置していない。そんな金があれば全て町への投資へ使うからな……逃げ場が無い暑さというのは一種の拷問だろう。


 少しでも暑さから気持ちを遠ざけるため、部屋に遊びにきているイミスへ声をかける


 「ねー…イミスさんは暑くないの?」


 「…」


 来客対応のため、俺の執務室にちょっとした椅子と机を配置してみたのだが、イミスが朝からずっとそこに座って何かを作っていた。


 ガチャガチャガチャガチャ…


 「…今度はなにを作っているのかな?」


 顔を近づけ、イミスの様子を伺うとわずかな時間だが手が止まり、顔が少し紅くなった気がする。返事は相変わらず無いが。


 「…」


 ガチャガチャガチャガチャ…


 イミスは俺の問いかけに応えず、からくりに向きって唸るか手を動かすかを繰り返している。ただ、彼女に悪気があるわけではない。イミスは一度集中すると周りの声が聞こえなくなるタイプのようなのだ。やっていることがとても複雑で神経を使う作業だからなんだとか聞いている。


であれば、何故俺の部屋で作業をしているんだって思うが、それを聞いても笑って誤魔化されるだけなんだ。


用事がないのに部屋に遊びに来るのは何もイミスに限ったことじゃない。サリーもカルミアも、定期的に訪問してくれる。サリーは新しい遊び道具や錬金素材を毎回毎回と持ち込んでくるためか、俺の執務スペースは徐々にサリースペースに侵攻されつつあるのだ。


 …カルミアに関しては、俺への監視の意味合いが強いかもしれないが…!


 「…サトル、入るよ」


 噂をすれば(していない)カルミアがやってきた。扉を開けて、真っ先にイミスの方を見てため息をついた


 「はぁ…イミス。何しているの。ここはサトルの部屋だよ」


 そこで初めて、イミスがからくりから目をそむけ、顔を上げる


 「んー知っているよ…新しい研究。カルミアちゃんこそ、サトルに何か用事?」


 (俺がいくら話かけても反応しなかったイミスが反応した!?…ホワイ、なぜ?)


 「…サトルに手紙。ここで『研究』してたらサトルの邪魔にならない?」


 イミスが無言で俺の方を向いた


 (これは『邪魔じゃないよ!』って言ってほしいのかもしれない。であればご期待に応えるのが長生きの秘訣ってもんだ)


 「邪魔じゃないよ!」


 「うん、そうだよね♪サトル君はやっさしい~!」


 イミスは満足そうに頷くと作業を再開した。


 「…そう」


 カルミアはイミスに対してジト目を送るが、本来の目的を思い出したのか、俺に手紙を差し出した


 「王城から伝令経由…だそうよ」


 「ありがとう」


 (王城から…となると、王様からかな?あれから数ヶ月程度の日数が経過しているが、何かあったのだろうか?)


 内容を読み上げていくと、また頭が痛くなるような内容が記載されている。俺は目頭を押さえて、ついため息をついてしまった。


 「はぁ~…」


 「どうしたの…?」


 カルミアが心配そうに近寄ってくれる。


 (かわいい…!っと、それどころじゃなかった)


 「コホン…俺たちが統治する町を奪おうとした王子がいただろう」


 「…ウィリアム王子ね」


 「そうだ。ウィリアム王子を取り調べたところ、あの凶行は第三者の入れ知恵だったことが分かったらしい。しかも、口を割らせたらフォマティクスの工作員だったとか」


 「…またあの国」


 「まんまとハマってしまう王子も王子だけどね……。ま、それはともかく、今まで小競り合いで済んでいたけど、王の身内にちょっかいをかけられたとあれば話が違ってくる。これを敵からの宣戦布告とみなし、フォマティクスへ侵攻すると書いてあるよ」


 「…全面戦争ね」


 「そういうことだね。もちろん、ソード・ノヴァエラからも出兵する義務があるし、俺たちパーティーも戦力として期待されているはずだ。ご丁寧にも、俺たちの出兵先が書かれているよ…場所はハルバード・ウツセミから東にあるという、フォマティクス前哨基地か。本隊から離れて駐屯している分遣隊の補給品がこの基地から供給されている…らしい」


 「こんな近くまで補給基地を作っていたなんて知らなかった…じゃ、補給路を断てば良いのね?」


 「好機を得たら、基地も壊してほしいと言ったところだろうなぁ…」


 いつの間にかイミスが横で話を聞いていた


 「壊してほしいならウチに任せてよ!」


 ふんすと鼻息を荒くしてやる気を見せる


 (まさか…絶滅者を起動するつもりか…?)


 「まてまて、絶滅者であれば、たしかに前哨基地なんて文字通り一発で潰せるとは思う。でもあれ、その場から動けないだろう?」


 絶滅者の弱点の一つは動けないことだ。大きさ故、魔力で補っても長時間の移動に耐えるほどの耐久性と魔力補給手段を持たない。その場から動かないからこそ、絶大な力を全て攻撃に転用できるピーキーなゴーレムなのだ。今回は遠征だから、40メートルの巨人を連れていくことは現実的ではない。町を守る壁も無くなっちゃうし。


 「違うよ、絶滅者じゃない。新しい子が、完成したの!」


 「もしかして、朝からいじっていたそのからくり…」


 拳程度の大きさをした、精密そうな球体を掲げるイミス


 「そうよ、ウチの努力の結晶。ゴーレムのサブルーチンコアよ!これがあれば、より複雑な武器を扱う子を産み出せるのよっ!」


 (よく分からないがなんだか凄そうだ)



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