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番外編 ゴブリンレース開幕!part2


 ゴブリンレースのオーナー1日目


 生まれたてのゴブリンと共に、これから苦楽を共に過ごすという厩舎棟という場所へ案内された。簡単な広場と大きめな宿舎までついていて金がかかっている。風通しの良い場所で、ノビノビと過ごせそう。俺一人がこんなスペースを使って良いのか不安になるぐらいだ。


 あのぐるぐるヒゲメガネが言うには、普段はここでゴブリンのトレーニングを行い、レースに備えてほしいとのこと。レースの開催間隔は7日に一度、あの俺たちが拉致された倉のある広場で行うとのことだ。俺の相棒であるフランクは、俺とは別の厩舎に案内された。こんな上等の施設を二つも用意できるなんて、何者なんだと思う。なんでも『対戦相手と同じ厩舎はよくない』との配慮らしい。その素晴らしい配慮が俺とフランクにも向けられていればよかったのだが。


 俺の横で無表情で立っている貧弱なゴブリン。こいつのトレーニングの内容はオーナーである俺が組み上げる。ノウハウは一切ない。仕方がないだろう…冒険者がゴブリンについて知っていることなんて殺し方くらいなもんだ。それくらいには魔物と仲良くなる縁がなかったのだ…本当にゼロからのスタートだ。


 「…はぁ、とは言ったものの何から手をつけるべきか」


 「…ゴブ」


 「ゴブリンレースっていうくらいだから、とりあえず走ったらいいか。よし!かるーくレースで優勝して金を稼ぐぞ。というわけだ、お前走ってこい。俺はここで見てる」


 「…」


 ゴブリンは不満そうな表情で俺を見る。…なんだ?言うことを聞くんじゃなかったのか?


 懐から木板を取り出すと俺に向かって差し出した。ゴブリンからそれを受け取ると、木板には『名前: 』と書かれている


 「名前をつけろってか?」


 「ゴブ」


 「っは…ゴブリンの癖に生意気言うじゃねぇか。そうだな…お前は貧弱な緑の小人で良いだろう」


 俺は木板をその辺に投げると腕を組み、貧弱な緑の小人を見下ろす


 「…」


 ゴブリンは拗ねるように地面に寝そべって、あろうことか主人である俺に背を向けた!


 「お、おい!言うことを聞け!鍛えると言えば、まずは走り込みだろう!動け!俺の給料のために!」


 ゴブリンを無理やり起こして地面から引っ剥がそうとするが、吸い付くように抵抗される!


 「ゴ…ゴブゴブゥウウウ!」


 「…くそう、こんなゴブリン如きに力比べで負けるとは!…膝さえ怪我してなければお前なんぞ!というよりなんでこのゴブリンはこんな力が強いんだ!?」


 ゴブリンは俺の拘束を抜け出し、寝そべった姿勢でゴロゴロ転がって逃げた


 「こんの…!逃げやがった!初日からこれかよ、先が思いやられるな…このままじゃ俺の給料に響くぞ!?」


 そう、このオーナー生活はある程度の結果を出すことを求められる。これは契約書にも書かれていたことだ。7日後に開催されるたった二人のゴブリンレースで、まずはレースとして成立するレベルまで仕上げないといけないのだ。それができないオーナーがどうなるかは簡単なお話だ。給料がもらえないならまだ良いが、あのぐるぐるメガネをつけて勧誘の仕事をしろと言われるかもしれない。そんな拷問だけは避けないといけない。


 ゴブリンはそのまま厩舎に入って出てこなくなったようだ。これじゃトレーニングは無理だな


 「はぁ…たしか、敵情視察はオッケーだったか?」


 フランクの様子が気になったので、視察という名の相談に向かうことにした


 ・・


 奴の厩舎棟は歩いていけるほど近くにあったので迷わなかった。ここまで近所なら分ける意味あったのかと思わなくもない


 藪からコッソリと覗くと…


 「なんだと…!?」


 つい口に出てしまうほど驚いた。なんたってフランクの奴、もうゴブリンと仲良くやってるじゃねぇか!!


 フランクは爽やかな笑顔でゴブリンに指示を出し、ゴブリンもそれに応えるようにトレーニングをしている!それどころか奴も一緒にトレーニングしているではないか


 フランクは軽快なトーンで声を出す


 「ははは!いいぞ!ゴブリキャップ!今日はあと数週走るぞ!」


 「ゴブゴブ!!」


 ゴブリンもそれに応えるようにフランクの顔を見ながら走っている。少し前にゴブリンに怯え、ぐるぐるメガネに殺されると怯えていた人と同一人物とは思えない。名前なんかつけちゃって、なんだか悔しくなってきたぞ


 二人の練習風景を見ていると胸の奥から焦りがこみ上げてくる


 (…あれ?これ、もしかしなくても、俺の立場まずくね?)


 普通にレースができて負けるならまだ良いが、レースすらできないゴブリンを出したら……


 ・・


 急いでゴブリンが不貞寝している厩舎まで戻ってきた


 「おい、緑の!やつらもうトレーニング始めてたぞ!このままじゃ負ける、俺たちもトレーニングだ」


 ゴブリンが寝ている厩舎は新築の香りが漂っていて清潔感があった。各スペースが1、2、3っと数字で区切られている。俺の頼みの綱は1番のスペースで横たわっていた


 「…ゴブ」


 また木板を持ってきて、俺に差し出す。名前の部分はまだ空欄だ


 このゴブリンは名前にこだわりがあるらしい。こいつを動かすにはまず名前をつけないとダメなようだ


 「…はぁ、わかった。わかったよ。名前、つけたらやる気を出すんだな?」


 俺はいくつかリストアップしてゴブリンに提示する


 「タロウ、ジロウ、サブロウ、ミドリマン、ワガママダイマオウ…このあたりはどうだ?」


 「…」


 ゴブリンは1番のスペースの扉を無言でピシャっと閉めてしまった


 「お、おい!」


 俺は名前を考えるのが苦手なんだ!ましてやゴブリンの名前なんて!あまつさえ好みまであるときた。フランクの奴のゴブリンと交換してほしい


 (フランクの奴はなんて名前にしていたっけか?はぁ…ひとまず宿舎に戻るか)


 今日のトレーニングは無理そうなので宿舎に入った


 「こいつはすげぇ!」


 宿舎は控えめに言っても上質な宿屋に劣らない設備だった。キレイなリビングとキッチン、光源の魔石は大きく、部屋全体を照らしている。二階建てに加えて執務室っぽいスペースまであった。


 (こんな場所で無料で過ごせるなんて……絶対に結果を出さねば)


 決意を改めて部屋を一つひとつ見て回る。どの部屋も非の打ち所がないほどキレイで家具までついていた。


 最後の一部屋、執務室のスペースを調べていると壁に、数値が記載されたボードが映し出されている


 「ん?これは…なんだ?」


 ボードには、俺が育成するゴブリンと思われる写真と、その横に数値が並んでいた


 「パワー、スピード、かしこさ、ねばりつよさ…?さっぱり分からない」


 パワーは10それ以外はどの数値も1と書かれている。


 「ま、いいだろう。この辺りにして明日に備えよう」


 このままではフランクの奴に勝ちを譲ることになる。金のためにも明日からは絶対にゴブリンにやる気を出させないといけない


 「あ…名前どうするか忘れていた……」


 結局、深夜までテーブルの上で考えることになった


 ・・


 ゴブリンレースのオーナー2日目


 テーブルの上で目が覚める。今の時間を確かめるため、すぐに窓に寄り付くがまだ少し薄暗いことを知って安堵した


 「…まだ早朝か。結局名前、どうするか思いつかなかったな…むむ?」


 俺が書き留めていた名前のリストの一部が無くなっている


 「うーむ…?どこにしまったかな?まぁいい、まずはゴブリンを起こして飯にするか」


 ご飯を用意するのもオーナーの仕事だ。しっかりご飯を作ってやって機嫌をなおしてもらわねばならない。


 「おーい、いるかー?」


 厩舎にいくが返事がない。1番スペースを開けるとゴブリンの姿が無かった


 「おいおい、二日目から家出か?」


 気分がどんよりするが仕方がない。


 (…サトルってやつに連絡しよう)


 しかし、厩舎から出ると予想外の姿を目にした。


 「ゴブ…ゴブ…ゴブ…」


 ゴブリンが一人で朝からランニングしているではないか!


 何事もなかったかのように俺を横切るゴブリンをつい止めてしまう


 「お、おい」


 「ゴブ?」


 ゴブリンは『何?忙しいんだけど』と訴えるような、迷惑そうな表情を俺に向けた


 「家出じゃなかったのか!?いや、それよりも…どうして急に練習してんだ?お前」


 「ゴブ」


 ゴブリンは『あぁそれね』と言いたげな顔で紙と木板を差し出した


 木板は相変わらず空欄で、紙は俺が書いた名前の候補だった


 「あ!俺が書いた名前のリストじゃねぇか!お前が盗ったんだな!?」


 「ゴブゴブゴブ!」


 訴えるように紙のリストをバシバシと指で指し示すゴブリン


 リストを見ると、候補の一つに丸が付け加えてあった。おそらくこいつがつけたものだ


 「…ゴブリワン?お前、この名前がいいのか?」


 「ゴブ!」


 (なるほどな……こいつは初日から厩舎で1番のスペースを選んでいた。こいつは1という数字にこだわりがあるんだ。照れくさいことこの上ないが、やる気を出させるためだ。名前をつけよう)


 「はぁ…わかったよ。じゃあ、今日からお前はゴブリンワンだ」


 俺は木板の空欄に『ゴブリワン』と記載して渡してやった


 「ゴブー!」


 ゴブリワンは宝物を受け取るような慎重な手つきで木板を受け取るとピョンピョンはねて全身で喜びを現した


 「っは…まったく、大げさなんだよ。そんなんで喜んじゃってさ。ゴブリワン……おや?」


 俺の体とゴブリワンの体が一瞬輝き、何か魔力的なつながりを感じた


 「おい、ゴブリワン、お前、今の感じたか?」


 「ゴブ?」


 どうしたことだろうか?言葉にするのは難しいが、ある種のパスを通したような感覚を覚える。ゴブリワンの感覚が今まで以上に鮮明に伝わってくるような…これはまるで話に聞く獣魔契約のようだ。俺は戦士で魔力なんてないから、そんな適正は無いハズなんだが…これは一体何なのだろう?


 「気のせい……ではないだろうが、まぁ、気にしてても仕方がないか。よし、ゴブリワン。これでやる気は出たな?俺は一緒に走ってやれないが、お前の走りを見ているぞ」


 膝をさすりながら、ゴブリワンに指示を出す


 「ゴブ!」


 昨日とは違って、しっかりと指示を聞いてくれたようだ。


 (既に一日分、トレーニング期間がフランクの奴よりも遅れているからな。この遅れは努力で取り戻す!)


 ・・


 奮起する新人オーナーと名前をつけてもらったゴブリンを遠くから眺めるサトルとサリー、そしてドーツク


 「どうやら、初動は上手くいったようですね…」


 ドーツクは胸をなでおろし、息を深く吐いた


 彼の言う通り、どうなるか分からない博打を何度も打った。しかし、やってみると意外とどうにかなるもので、冒険者にゴブリンを育てさせるというメチャクチャを何とか形にしてみせた


 「ドーツクさんの魔物を使役する力あってこそです。あの木板には契約の魔法を転写してあるのですよね?」


 ドーツクは頷く


 「えぇ、そうです。このゴブリンは本来、召喚したサリーさんの指示しか聞きません。サリーさんが召喚するゴブリンはおしなべて高い知性を持ち、強力な力を宿します。一介の戦士ではスキルも適正も無いため使役できないでしょう。そこで、私の魔物契約の力が役に立ちます。サリーさんが合意のうえで手放したゴブリンに限り、私の指示下に契約を上書きできるのです」


 「その力を木板に込めて、契約を他者に譲渡したということですか」


 「はい。とは言っても、私がテイムできるようなオウルベアやヒポグリフィンなどの大きな魔物は無理です。契約に汎用性を持たせる代わり、契約の強度は弱体化します。それこそ、ゴブリン程度しか使役できないでしょう」


 (ゴブリンさえ他者が使役できれば一番の難所は攻略できたようなものだから、実質何の問題もないな)


 「ゴブリンでもすごいことです。今まで誰も成しえなかったことをドーツクさんは生み出したのですから…今はまだ小さな芽ですが、すぐに大きな需要が生まれるでしょう」


 俺とドーツクの会話を横で聞いていたサリーの笑顔は、いつにも増して輝いている


 「アタシのゴブちゃんの魅力に皆が気がつくのモ、時間の問題ってことよネ!」


 「その通りだよ。サリーさんのおかげだ」


 「わー!サトルに褒められたヨ!ウフフ♪」


 サリーは俺の手を取ってクルクルと回り始める。俺も回ることになるから、やめてほしいと思った。しかし!彼女の純粋な笑顔を見ると言い出しづらい!サリーは策士だ!


 ドーツクが困り顔で肩をすくめた


 「サトルさん、ところで宿舎に設置したあのボードは何の意味があるのでしょうか…?」


 (あぁ…あれか)


 あれはゴブリンのステータスを数値化して表示して見れたら面白いんじゃないかという試みだ。ドーツクの魔物を使役する力には、もう一つの使い方がある。それは使役している生物に限ってだが、魔物のステータスを見ることができるというものだ。ドーツクのステータス参照を物体に転写することで、疑似的にだがステータスボード的なアイテムを作り出した…というわけだ。


 「オーナーがステータスを見れないと不便かと思いまして」


 (本音は、ステータス見れるのが楽しいからだけど)


 「ふむ……そんなものでしょうか?」


 ドーツクはゲームを知っているわけではない。だからきっとこの楽しさも今は分からないだろう。ゴブリンレースを通じて、ステータスに頓着しない彼にも変わっていただきたいものである。


***

二日目

名前:ゴブリワン

パワー:11

スピード:2

かしこさ:3

ねばりつよさ:2


特徴:力が強い。気も強い。

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