33話
「ギ、ギルド長にご報告しなくては…!サトル様、少々お待ちください」
何だか大事になってきたぞ。ちょっとしたイタズラ心でヌシとやらの頭を置いたのが間違いだったのか。でも錯乱男が大人しくなったし、いずれ報告は必要だったからこれでもいいのか? 周りの冒険者から、ヌシをどうやって倒したのか?何処にいたのか?など、暫く質問攻めにされていたが、受付のお姉さんが駆け足で戻ってきた。
「サトル様…すみません。どうやらギルド長は朝から漁に出ていて、まだ帰って来てないようです。いつもそんな調子なので本当に困っちゃいます…。是非ギルドからもお礼と報酬をお渡ししたいのですが、その…このような事は初めてですので、相談させて頂くお時間を…」
「そういう事でしたら、全然大丈夫です。元々、ランスフィッシュが食べたかった為に受けた依頼ですので」
「ありがとうございます!それでは…ひとまず本日はギルド長のへそくりを使い、ギルドの奢りということで処理しておきます。是非ランスフィッシュを沢山食べていってください!」
「やった…!それだけでも嬉しいです。さぁ皆、食べまくるぞぉ!」
意図せずこの町の危機を救った俺たちは、ギルドの…正確にはギルド長のポケットマネーでご馳走になった。しかし…勝手にギルド長のへそくりを使っても大丈夫なのだろうか。心配になって受付のお姉さんに確認したが、ギルド長はへそくりがあっても飲み歩くことくらいしか使わないと言って、気にしないで下さいと満面の笑みで応えてくれた。うん、怒らせないようにしよう。
その日は終始ギルドで飲んで歌っての大騒ぎで、その場にいた名も知らぬ冒険者を交えてカルミアやサリーの活躍を、まるで自分の活躍であるかの如く自慢気に語りまくった。それでも皆は心から楽しんでくれて、話をする度に手を叩いて称賛してくれる。お通夜モードが嘘のようだ…それだけヌシが及ぼす影響が大きかったんだと実感させられる。倒せないモンスターは逆らえない自然災害と同義なのだろう。それからも皆との飲み食いは続いていき、女性メンバーを除いて、俺を含めて男共は皆ギルドでぶっ倒れた。飲み過ぎである。
飲み明かした早朝。ギルドホールは打って変わり死屍累々の有様であった。俺はどうにか重なっていた酔っ払いを払い除け、ガンガンと痛む頭を抑えつつゆっくり立ち上がる。
「いっててて…さすがに、飲みすぎてしまったな…ギルド長は、今日はいるのかな?」
「おう、いるぞ!」
後ろを振り返ると昨日一緒に漁をしたハーフリザードマンのおっさんしかいなかった。
「あぁ、昨日はどうも…ギルド長とお知り合いですか?」
「お、おぅ…知り合いも何も…ワシがギルド長だが?」
「えぇ~!」
「お?そういや、言って無かったか…シールドウェストから期待の新星が来やがるってんだから、依頼も一人の漁師として用意しておいたものだ。ワシ自ら…どんな奴か調べる為にな」
ニカっと笑ったおっさんは俺の頭を乱暴に撫でて、ギルドを見渡す。
「ったく…お祭り騒ぎも良いがコレはやりすぎだろう…一体誰の金でパーティーしたんだ?」
「あ…」
「ん?どうした」
「あ、いえ…ただ受付のお姉さんがギルド長のへそくりを使うと仰っていました」
おっさんは青い鱗によく似合うほど顔を青くして項垂れる。
「う…っく…うううう」
おっさん…なんかごめん…。俺は心で謝りつつギルド長より強い立場を持った受付のお姉さんには絶対に逆らわないようにしようと誓った。おっさんの背中を叩いてあげたら落ち着いた。
「ギルド長…すみません。やり過ぎました」
「うう…良いんだ。これで町が救われるなら…これで皆に報えるなら…うぉおおおお!」
全然、全く良さそうな気配が無いが、切り替えるしかない。すまないおっさん…。その話はそこそこにして、俺たちはこれからについて、ギルド長の部屋で話をするということでまとまった。もちろんカルミアもサリーも呼ぶ。
「で…ではまたお昼頃に~…」
「おう。…うぉおおおおお!俺のへそくりがああああ!サトルならまだしもお前らは何もしてないだろううがああ!」
ギルド長の悲しき雄叫びが目覚ましになって死屍累々の戦士たちを呼び起こす。呑み戦士たちは熟練した能力で素早く現在の状況を把握すると、そそくさとギルドからトンズラをかます。その時間は僅か十秒程度。あまりのチームワークに呆然とするしかない。そこには哀愁漂うハーフリザードマンの姿だけがポツリとあった。