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領主編 82話


 …想定外も想定外。まさか、イミスの切り札がここまで強力な攻撃力を有する兵器になるとは。…元はと言えば、あの超巨大ゴーレムは対攻城兵器の防衛装置として秘密裏に開発を進めていた兵器だ。破城槌やカタパルトを敵対勢力が持ち出してきたときや、大きな魔物が現れた時用の対抗手段として、城壁をゴーレム化して町を守ろうというコンセプトがあった。…そのはずだった。


 フタを開けてみれば、町を守るはずのゴーレムは、あまりにも大きな存在感と戦闘能力で全てを破壊する兵器と化してしまった。敵の心を折るために少しだけ脅してやろうと思って繰り出したアームハンマーは、絶滅者改め、エクスターミネーターの名に恥じぬ攻撃力で災害じみた攻撃となってしまった。結果、脅し程度では済まず、地形は変動し、ウィリアム王子はあまりのショックにより鼻水をたらして気絶してしまう。


おかげさまでカルミアからジト目攻撃を受けるハメに……彼女がいなければ、アームハンマーの余波によって大きな巨木や大岩は町にまで飛んできていたことだろう。飛来物へ一瞬で接近して断ち斬ってしまう彼女もとんでもない能力だ。ウィリアム王子の嫌がらせよりも、アームハンマーによる威嚇攻撃の方が町への被害が甚大でした…なんてことになっていたかもしれない。もうカルミアに足を向けて寝られないな…!


 特に説明もしていなかったため、この超巨大ゴーレムの登場で、町の住人の混乱も大きかった。突然町の城壁が組みあがりゴーレムになったのだから当然といえばそうなのだが。結局、戦後すぐに俺は急いで町に戻って住人や冒険者の方へ事情を説明して回る作業に追われることに……。


 今は冒険者ギルドのロビーに戦える者を集めて事情を説明しているところだ。


 「――という経緯で対攻城兵器を出すことになったのです。そして、今、町の前方におります超巨大ゴーレムは、先の話の通り俺のパーティーメンバーが生み出したもので、皆さんを守る存在です。危険は……接近しなければありませんので、安心してください」


 事情を聞き終わったオーパスはしかめっ面と呆れ顔を合わせたような器用な表情を披露した


 「ったく……サトルの兄貴がすることだから、毎回こんな感じになるのは分かってはいたが、こんなに大がかりな兵器を持ち出すんじゃ、事前に教えてくれねぇと困るぜ。アレが現れたとき、俺たちは命を落とす覚悟を決めて、各々が槍や剣を持って、ゴーレムに戦いを挑む準備をしていたくらいだ。何名かはすぐにゴーレムに向かっていったけどな」


 そう言うと、オーパスはギルドの窓から外に指をさす。外には未だゴーレムの形を保った40メートル級の巨物が町に影を落としている。ゴーレムの背には幾つか槍が刺さっていたり、剣で斬りつけた跡があったり、魔法をぶつけた痕跡も認められた。


 …どうやら町の人や冒険者たちは、突然現れた超巨大ゴーレムを敵だと早合点して攻撃をしていたようだ。効果が無かったのは言うまでもない。


 俺は頭を抱えつつ、今日何回目になるか分からない謝罪をする


 「オーパスさん、冒険者の皆さん、町を守るためとは言え説明不足に対攻城兵器を持ち出してしまって申し訳ございませんでした」


 冒険者たちは顔を見合わせて、笑ってみせた。それに釣られてギルド内は和やかなムードになる。名も知らぬ剣士の二人組が俺の肩を叩いて励ましてくれた


 「まぁ…でも、これで王子の鼻っ柱へし折れたんじゃないか?正直、あれを見たときチビったぜ!?」


 「俺もだ。あんなものを生み出せるのは正直、怖い部分もあるが、頼もしくもある。あれに守られていると思えば、強い獲物を狩りそこなっても安心して町に逃げ込める。魔物もあんなもん見た日には絶望するだろうな」


 他の冒険者たちからも好意的な意見が出る


 「俺の槍があのゴーレムの背中に刺さっているんだが、新調した槍で貫けなかったのは、あのゴーレムが初めてだったな。…ところで俺の槍は回収できるのか」


 「最初現れた時は魔王か何かが降臨したのかと思ったが、そういうことなら安心だな」


 俺は好意的な意見を出してくれた冒険者に黙礼しつつ感謝を伝えた


 「みなさん、ありがとうございます。……次からは対攻城兵器や大がかりな兵器を持ち出すときは、町全体に知らせるような仕組みを作りたいと思います。ゴーレムの背中に刺さった剣や槍は…回収できるはずです。ゴーレムを構成している石材の一つひとつは、時間経過で元の城壁に戻る仕組みになっています。なので、ゴーレムの背中に刺さった武器も時間経過で落下するはずです」


 窓からゴーレムの様子を覗く。超巨大ゴーレムは、少しずつ時間をかけて城壁に戻りつつある。頭や肩から、まるで時間が巻き戻るように、石材の一つひとつが元の配置に戻っていっているのが分かった。エクスターミネーターは起動までは早いが、ゴーレム形状から城壁の形状へ戻すのが時間がかかるという欠点があるのだ。それと、まだ最適化不足なのか、ゴーレムが少しでも動くと石材がボロボロと落下する。まだまだ改良の余地がある。


 「なんだって!?俺の槍ーー!」「おいちょ待てよ!今日の狩りどうするんだよ!あと今ゴーレムの足元まで行ったら危ないぞ!」


 それを聞いた冒険者たち複数名が慌ただしくギルドから出て行った


 …俺の行動ひとつで、ここまでたくさんの人へ影響するという意識が薄かった。あの冒険者が武器を落下で壊したり紛失したりしたら、今回は俺のポケットマネーから補償を出そうと思う。…トホホ


 オーパスはアゴをさすりながら言った


 「じゃあ、あの突風と地震はゴーレムが繰り出した攻撃の余波ってところか。災害みたいな攻撃だったし、町に何も飛んでこなかったのは奇跡だな…地震の被害も軽微で済んだし、幸運だったと言わざるを得ないな」


 …ギクリ


 「そ、そうですね。こ、幸運でした。カルミアさんには感謝しかないです」


 「ん?どうしてあのおっかねぇ嬢ちゃんの話が出てくるんだ?」


 …ギクギクリ


 「さ、さーて…王子の対応を決めねばなりません。オーパスさん、申し訳ないのですがギルド内の対応はよろしくお願いいたしますね」


 オーパスは訝しげに俺を見つめているが、構わずいそいそとギルドを脱出する


 「さて、これで説明回りは一通り完了かな。今後、エクスターミネーターを軽々しく起動するのは控えよう…」


 あとは王子の処理だ


 立場上、王子である今回の戦犯を牢屋にぶち込むわけにもいかないので、サリーのポーションで近衛兵たちのケガの治療を行い、王都まで送り返す予定だ。さすがに兵糧やそれ以上の面倒は見れない…というより見たくない。彼らを町に入れることは絶対に阻止だ。治療も町の外で実施する。


 すっかり暗くなった空を見上げる。


 ……ある程度の処罰は覚悟の上だが、俺は町を守るという一点においては最後までブレずに行動できたと思う。これで爵位や土地がなくなったとしても、悔いはない。また仲間と一から始めるだけだ


 ちょっとだけ弱気になっていたら、ギルド連絡用の鳥のルチルちゃんが飛んで来た。シールドウェストの鳥で間違いない。


 手紙にはシールドウェスト領主の印がついていた。アイリスからだろう。中には――


 「ん…?『王都に緊急連絡を行った。王からはサトルへ謝罪しに向かう』だって…?」


 少し予想外だ。王子がやったことは横暴だったが立場上、従わないといけないのは俺の方なのだから。王が…しかも直々に、俺に謝罪だって…?







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