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領主編 80話


 ウィリアム王子は目の前で起きている出来事に驚愕することしかできない。まるで、触れてはいけない自然災害に踏み込んでしまったかのような無力さに襲われる。そして、その感覚が間違いでないことを目の前で見せつけられているのだ。


 「『[天雷切]』」


 カルミアが一言呟くと、天から裁きの雷が地を這う人へ無遠慮に落とされていく。その一撃一撃が必殺級の威力であり、防御魔法だろうが良質な防具だろうか関係なしに貫通し、平等に痛みを与えていくのだ。天候すら変えてしまう彼女の力によって、戦場だけが豪雨と轟雷に晒されている。


 轟音…轟音…轟音…


 人の叫び声や指示を出す怒声すら打ち消す、絶え間ない雷撃の音が戦場を蹂躙の場へと変えた


 豪雨に晒されたウィリアム王子の天幕は、瞬く間に使い物にならなくなって、彼の輝く鎧は雨と泥に汚されていく。しかし、ウィリアム王子はそんなことに気を取られているヒマは無かった。彼の頭の中は、動揺に支配されている。


 「ば、ばか、な……これは何だ!だれか、だれか説明しろ!」


 ウィリアム王子は横で怯えきっている近衛兵のヘルメットを放り投げ、両肩を掴んで激しく揺さぶる


 「なんだあれは!いや、あんな化け物は人じゃない!天候を操る人など聞いたことがない!キッチリ偵察はしたのではなかったのか!」


 ウィリアム王子の指さした先には、召喚された兵と、近衛兵が天から降り続ける雷撃によって、ウィリアム王子の手勢が宙を舞うように吹き飛ばされているところだった。特に召喚された兵に対しては遠慮がなく、邂逅と同時にカルミアが剣をさばき、相手を跡形もなく霧散させるほど


 怯えていた近衛兵は王子に目を合わせるが、生きることを諦めたかのように生気がない。しかし、王子の言葉を返すように震える声をひり出している。


 「王子、我々は貴方様に恩義があり、付き従ってきました。ですが、王子は戦う相手を間違えたのです。我々は何度も警告しました。相手はAランク冒険者であり、ドラゴンを相手取った実力者であると。サトル様には未知の力があって、底が知れないのだと。ですが、王子は警告を無視しました。もう我々はおしまいです…われわ――」


 「ふざけるなぁ!そんな話が聞きたかったのではなぁい!」


 自虐めいた表情を浮かべた近衛兵を殴り飛ばす王子。


 「なぜだ!なぜだ!ぼくの土地だろう!ぼくの物だろう!どうしてうまくいかないんだあ!」


 王子の問いに答える者は雨音以外にない。一刻一刻経過する度に、王子の手勢は地に倒れていく。


 ・・


 サトルはカルミアの戦闘風景を見ながら、自分の仲間が改めて人外であることを強く認識する


 少し心配だったが、結果は圧倒的というべきものだった


 (…カルミアがレイドボスに設定されたという、アナウンスさんの不穏なお知らせがどういう意味を持つのか、理解させられたと言うべきか)


 レイドボスとは本来、数十から数百の高ランクパーティーが一堂に会し、念入りに作戦を立てて挑む魔物や強者のことだ。性質上、味方サイドではなく、敵サイドとして設定されるべき『壁』であり『エンドコンテンツ』として有名な仕組みである。


一人のボスを相手取り、盾となる人が何人も交代し前線を維持し、後衛となるクラスが絶え間なく何時間もかけて自身が持つ最強の魔法を叩きこみ続ける。それでも、ほんの少しの気の緩みで戦線が崩れて、敗北してしまう。故に高難易度のエンドコンテンツとして知られる。故に悪名高く君臨する強者として畏怖を込めてレイドボスと称するのだ。


ここでひとつ、カルミアをそれ以上に凶悪たらしめている要素がある。カルミアがレイドボスとしての能力を獲得し、その恩恵を受けているのであれば、彼女を止めるのは難しいだろう。


それは何故か、理由は簡単だ。レイドボスは強者だが、例外的な存在を除いてルールはしっかり守るのだ。ヘイトを認識し前線を維持する盾から攻撃するし、自身を回復したりしないし、逃げたりもしない。そんなことをすればゲーム上では攻略が不可能になるからだ。


ただ、ここはゲームじゃない。TRPGのステータスを踏襲する世界だが、サイコロを振って人が動くわけではない。つまり、カルミアは回復もするし、ピンチになれば撤退する。そして、後衛から攻撃する戦略だって立てるし、パーティーメンバーがいる。


 対してウィリアム王子の陣営は、ゲームのように気軽にリザレクト(復活)できるわけじゃない。という縛りを持ったうえで、レイドボスと戦わないといけない。しっかり考えて戦ってくるレイドボスと相対する必要がある。…そう考えると、ちょっと気の毒だが。


 レイドボスは多対一の状況で特に強さを発揮する。


 カルミアが『レイドモード』なるもので、どのような強化や恩恵を受けているか、明確に調べたわけじゃないが、今の状況を察するに、やはり彼女の力は引き上げられていると言ってもいいだろう。蛮族王と戦った時よりも、今の彼女はずっと強くなっている。


 一つ目の条件は『多対一の状況』を作ることで間違いないようだ。そしてその恩恵は、彼女のステータスを引き上げること…ただし、これは実験の余地がある。


 俺が一通りメモを終える頃には、カルミアが最後の召喚された兵を霧散させていた


 イミスはガッツポーズする


 「やった!やっぱりカルミアちゃんが勝ったよ!本当に見ていてゾクゾクする力だよね!でも、ウチの『準備』もムダになっちゃったね…」


 少し残念そうなイミス。…大丈夫、彼女の出番もしっかりあるさ


 俺はイミスの肩をぽんぽんと優しく叩く


 「イミスさん。大丈夫さ、言っただろう?今回は相手の心を折るつもりで戦うってさ。まだ足りないんじゃないか?最後の仕上げでアレを王子に見せてやろう。今度こそ、二度とバカな真似をしないようにさ」


 イミスの目がキラキラと輝いた


 「もしかして、アレを出していいの!?本当に…!?」


 彼女の雰囲気に押されながらも承諾する


 「あ、あぁ、もちろんだ。ただし、少し出すだけだ。脅かすだけだぞ」


 「やったー!!ウチの子のお披露目だね!」


 (ウィリアム王子…悪いが、完全に戦意を折らせてもらうぞ)



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