領主編 78話
他では真似できないほど強力な武器を生み出せるとしよう。それを使って金儲けの策を考えたとする。その際に最も注意しなければならない点は何か、と聞かれれば俺はそもそも身元が分からない人へ『武具を売る』こと自体がナンセンスだと答える。だが、実際問題それで切って離せる問題でもない。治安維持は冒険者の手が必要不可欠だし、町を回すために必要な基盤だからだ。
では、仕方なく売ることを前提とした場合、次点で気を付けなければならない点は何か。それは悪意のある者に武具が行き渡ってしまう可能性を考慮することだ。その武器は犯罪や、今回のケースのように、生産者自体へ牙を向ける場合がある。それは裏切りであったり、策略であったり…条件は様々だ。
無害な商人が店で一番上等なナイフを客に売って、客から金貨を受け取る。次の瞬間、客はナイフを持って『じゃあ今の金貨を返してもらおうか』なんて言ってきたら商人は打つ手がない。ということになりかねない。あまりにも滑稽な話だ。
しかし、対処しようにも、その人物が善人であるかどうかを確かめるのはとても困難なことだ。一人ひとり対策をとるのは現実的に考えて難しい。だから俺とイミスとガルダインは、ゴーレムアシスト武具を生産し販売するとき、セーフティとして、とある仕組みを仕込んだ。元々は冒険者から悪漢になった者などがゴーレムアシスト武器を所有していた場合、効率的に無効化できる仕組みを考慮してのものだった。
ここでゴーレムアシストについておさらいだ。
ゴーレムアシストは、イミスのゴーレムクリエイト能力によって、武具やパーツのすべて、ないし一部をゴーレム化させ、ゴーレムを武具の一部として扱い、ゴーレムが持つパワーの恩恵を使用者へ与え、動作をアシストする仕組みのことだ。これにより、ハンマーを振るえば、大男が手伝ってくれたかのように軽々扱えるようになるし、剣は長時間振っても疲れにくくなる。防具はより強靭に、そして軽く扱えるようになる。
ゴーレムとは本来、魔力のエネルギーや魔力のある契約媒体を核とした魔法生物のことだ。形式上、人の形をとっているのは、それが戦闘上で最も効率的に敵を打ち倒せるからだと信じられてきたからだ。必ずしも人の形を保っていないといけないというルールは無い。小さな武器でも、大きな盾でも問題なくゴーレムとしての機能を果たしてくれる。これを応用したのがカジノだったというわけだ。
魔力の核さえあれば媒体につかう素材はなんだっていい。クレイ、鉄、ミスリル、アダマンティン(アダマンタイトの通り名が有名か)、魔物の死体、人の死体、本、ツボ、扉……。その他にも色々な素材が使える。
ゴーレムは新たな命令が下るまで、半永久的にクリエイターの命令に従い、愚直にその指示を実行し続ける。高い魔力の媒体と質の良い素材から作られるゴーレムほど高い知性を獲得する傾向がある。
イミスのゴーレムが基礎となっているアシスト武器もその例に漏れず、たとえ所有者が移ったとしてもイミスの命令は絶対となるのだ。
武器や防具となったゴーレムたちは、ウィリアム王子の近衛兵の手に渡ってしまっていたが、イミスの命令で武器としての命令を破棄し、パーツとして構成されていたゴーレムはイミスの元へ戻るため、武装解除を始めた。というわけだ。
…これが、『ソード・オブ・ザ・ディスアーマメント』のからくりだ。
近衛兵やウィリアム王子からすれば驚きだろう。突然手にもっていた武器が、身に着けていた防具が、バラバラになって地面に転がり始めるのだから。
「イミスさん、どんどん頼むよ」
「はいよ!…バン!」
イミスが手銃を作って迫りくる近衛兵を次々バンバンと銃撃する『フリ』をする。もちろんフリだけなので、実際には何も起きないハズなのだが、イミスがゴーレムの武装解除を念じた時点で近衛兵の装備が分解されいく。それはあたかも見えない魔術によって武具が破壊されているようにも……見えなくもない。
「ダダダダダダ!…バンバンバン!」
イミスの声に合わせて、次々に近衛兵の防具が、武器が、意味のない鉄くずに
「なんなんだ!俺の武器が!」「俺の防具も突然バラバラになってしまったぞ!」「丸腰だ!誰か武器をよこせ!」「やめろお~!!」
混乱を極めた軍は統制もとれず、丸腰で突撃もできず、後退もできず右往左往するだけだ
最後の一人、ウィリアム王子に狙いを定めたイミス
「チェックメイト♪ばーん」
ウィリアム王子の一際上質な装備も、馬上から崩れ落ちてただのガラクタとなった
…さて、王子に反撃の言葉でも送ろうか。
俺は拡声の魔法で驚愕している王子に追撃した
「王子、攻め落とそうと思っていた土地の生産品を使ってまで企画した道楽で、逆に出し抜かれるのはどんなご気分ですかな?戦争は変わったのです。これから武器は管理される時代になる。あなたの思い通りにはいかないということです」
ウィリアム王子は顔を真っ赤にして歯ぎしりした
「グギギイ……どこまでぼくをコケにすれば気が済むのだ…!!お前たち!一度撤退しろ!装備を王都品の予備に変えて再突入の準備だぁ!…それと、予備の制圧部隊を使う」
ウィリアム王子の傍についていた兵士は慌てて諫める
「お、王子!同じ国の者に王都の制圧部隊は、やりすぎです!それにあれは王の部隊で……」
「ええい!うるさい!もはやサトルはこの国の者ではない!よって、容赦も必要ない!…制圧部隊の200人を出せ!召喚のスクロールだ!」
王子は絨毯ロールほどもある召喚スクロールを兵たちに運ばせ、野に広げさせた
「もう、これで終わらせてやる」
地に広がったスクロールは怪しい光を発し、次々と人の形が浮かび上がった
「そのにやけ面も、ここでおしまいだなぁ……サトルゥ!」