領主編 77話
勝利条件はウィリアム王子を傷つけず相手陣営の戦意を削ぎ切ること。敗北条件は町を明け渡すことと、町の住民を傷つけられること。…防衛側が不利になる戦というのも珍しいが、状況が状況だけに仕方がない。どんだけ性根が腐っていても立場上、相手は王子なのだ。倒してしまっては俺たちが悪者になってしまう。戦意を削いで、どうにか諦めてもらおう。
町の高台から相手の布陣を確認する。兵数の規模は蛮族王との戦い以下で100程度。近衛を横一列に並べ、ウィリアム王子はその中央で突撃準備の合図を準備しているようだ。…本当に蹂躙するつもりらしい。
こちらの陣営は…冒険者ギルドは不介入のため戦力からは除外。そのため現時点では町の警備隊と、俺のパーティーくらいしか出せる戦力がない。まともに戦えるのはすべて含めてもせいぜい40人程度だろう。…商業特化で開拓を進めていたから仕方がないとは言え、数だけで言えばあまりにも心許ない。…ただ、今回はこれだけでも十分なのだ。
リンドウら率いる竜人の警備隊と、カルミア、イミスを連れて戦場て降り立つ
「イミスさん、準備はいいかい?」
「いつでもいいよ!」
形だけの最終勧告が拡声の魔法でこちらまで届く…これは、王子の声だな
「あーあー…ゴホン。所定の時間が経過がしたが、こちらには誰一人として庇護を乞い頭垂れる者が現れなかった。これはサトル、お前が民をたぶらかし、その地に押し込めていることの証明に他ならない。脅しでもなんでも使ったのだろうな。誠哀れな愚民と愚かな暴君か。そんな愚民と、高潔なる血によって統治されるべき地が救いを求めて泣いている。わかる。わかるぞ、そのチンケな寄せ集めのゴロツキで、王都の選りすぐりの精鋭を負かせると思うな!お前は逆賊として、今日ここで討ち取られる運命だ。それに与するものも全て同罪だ。これより突撃を開始する。我がスターリム国王子の庇護を求める者は、即刻町から立ち去るがいい」
町の様子は変わらず、出ていく者は一人もいない。それどころか、いつも通り商いを始める露天商までいるし、買い物を楽しむ人も……。まるで王子の存在を無視するかのような反応だ。冒険者はこういった問題には不介入だが、何故か今日は『警備隊のコスプレが大好きな人』が多く出没したとかで、冒険者ギルドの周りでは警備隊の格好をした人が多く見られる。外では戦が始まるというのに……。
「…みんな、この町と、貴方が好きなのね。サトル」
「…あぁ、絶対に負けられない。王子にはちょっとだけ悪いけど、最初から本気で戦意を折りに行こう」
「…分かったわ」
俺も拡声の魔道具をリンドウから受け取り、王子に返礼を送る
「ウィリアム王子とお付きのみなさん。俺はスターリム国王から正式な許可を得てこの土地を統治しています。この土地はかつて蛮族王が不正に占拠していた地であり、討伐後は開拓を名乗り出てくれたごく少数の人たちと大きくした町です。そこに王子の手は一切加わっていませんし、開拓中にお手伝いいただいたこともありません。全て、今を生きる冒険者と開拓者で作り上げたものです。今日も明日も、冒険者と住民の得られて当然の権利と笑顔を守るため、僕はあなたたちと戦います。近衛兵の皆さんも、もう無理して王子に付き従う必要はありません。これは神聖なる王命ではなく、ただの略奪です。家に帰って家族と笑いあうためにも、その矛を収め、今しがた忠の方向を自問するときです。何に忠を尽くしますか。その気高い精神は、こんなもののために使われるべきじゃない」
…魔道具を口元から降ろし、ウィリアム王子たちを見据える
遠くからでも怒り狂っているのが分かる。
近衛兵の何人かが明確にたじろぎ、槍を降ろして周りと話をしたりしている。
「…効いているわね」
「あぁ…あの近衛兵たちは王子の息がかかっているが、皆が皆、王子を慕って一緒にいるわけじゃないのは見ればわかる。王子のことだから、脅しや何かで縛っていてもおかしくはない」
ウィリアム王子は士気が落ちる前に突撃を命じた。近衛兵たちがゾロゾロと行進する。勝ち誇った目でウィリアムは拡声の魔法で挑発した
「残念だったな!サトル!そんな言葉で惑わされるほど、我が兵は甘くない!」
…次だ。
「イミスさん。出番だ」
「はーい!まっかせて~!サトル君と私の…トッテオキ魔法♪…ゴーレムちゃんたち!お仕事終了の時間で~す!」
イミスは近衛兵の軍隊に向かって指を鳴らす
パチン…
風をきるように高い音が草原に響く。すると、突然近衛兵たちの装備が『一瞬』にしてすべてバラバラに分解され、武具を構成する大量の部品が地面に散らばった。
最新の武具に身を包んだ精鋭は、一瞬にして、ただの丸腰集団となり果てたのだ。
ウィリアム王子は叫んだ
「な、な、何をしたあああ!どんな魔法を使ったぁ!」
…そういえばまだこの事象に名前をつけてなかったな。そうだな……
俺はウィリアム王子に余裕の笑みを返す
「そうだな。『ソード・オブ・ザ・ディスアーマメント』…とでも言っておこうか」




