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32話


道中ハプニングがあったものの、大漁の成果をあげた俺たちは町に戻ってきていた。もちろん、ビッグランスフィッシュ…ヌシの頭も持ち帰った。爆散しなかった部位がコレだけだったので仕方ない。あとでギルドに報告するためだ。


「おう、何だかんだあったが世話になったな!ギルドには色をつけて報告させてもらう。楽しみにしてくれよな!ひとまず今は、新鮮なランスフィッシュ料理を振る舞ってやるぜ」


「はい!ありがとうございます!」


「サトル…たのしみね」


「やっほ~ィ!ランスフィッシュ!はやく食べた~イ!」


今は料理のご相伴に預かるために、おっさんの家までお邪魔させてもらっている。今回の目的は何と言っても新鮮なランスフィッシュを頂くことが主な目的だ。おっさんは自信満々にフライパンを掲げている。これは楽しみだ…!


 しばらく三人で雑談して待っていると、シンプルに切り分けられたランスフィッシュがテーブルに並んだ。海の男の料理、ザ・刺し身だ!なるほど、確かに生魚は新鮮な状態じゃないと食べられない。しかし、それならおっさんが手に持っていたフライパンは何に使ったのだろうか…。


「おう、塩でシンプルに味付けしたぞ! フライパンで切ってみた。是非食べてみてくれい」


テーブルに並んだ刺し身を塩で頂く。脂が乗った身でありながらもプリっと引き締まっており、サッパリして美味しい…。瑞々しく新鮮な身を食べる毎、口いっぱいに旨味が広がって、後味がしつこく残らないから、沢山食べられそうだ。フライパンのくだりは無視することにした。


「う、うまい!なんだコレは!?」


「…」


「ッモッモッモ!」


これは最早芸術…!カルミアは言葉を失い、サリーは謎の言葉を呟き、ひたすら食べるマシーンと化したのだ。やはり人は本当に美味しい物を食したとき、言葉を失うものだ。何故なら、喋っていると上手く味わえなくて勿体ないからである…。漁師のおっさんも一緒に食事に入りゆっくりと、しっかり味わって贅沢な時間を過ごした。この依頼をまた受けたい…。


 飯を食べ終わったおっさんは、ランスフィッシュを市場に納品後、ギルドに俺たちの依頼内容を報告してまた漁に出るらしい。書き入れ時は休んでいる暇は殆ど無いということで、忙しい身なのかもしれない。俺たちは一回きりの手伝いだったが、こんな最高のまかないサービスを受けられるなら…人気な依頼なのも頷けるよなぁ…この味に慣れてしまったら後が怖いぞ。それからおっさんとは一旦別れて、俺たちはギルドに報告へ。


ギルドに入ると、何故だか周りがソワソワした雰囲気だ…。何かあったのだろうか?


「受付のお姉さん、ランスフィッシュの漁獲依頼を達成しました…何かありましたか?」


「あっ皆様!ご苦労様でした……実は、三十年に一度現れるという、大型のランスフィッシュを目撃したと報告を受けていたのだけれど…とうとう犠牲者が出てしまったようなの。冒険者二名と漁師二名で出港して、先程帰ってきたのは漁師一名のみだったのよ…冒険者は腕利きのDランクだったのだけれど、恐らく残りの人たちはもう…」


お姉さんが目を向けた先を見ると、漁師と思われる男の姿。毛布にくるまっている状態で震えている。他の人が背中をさすっているが、落ち着く様子が無く、ガチガチと齒を鳴らしており、酷く錯乱しているのが分かる。


「おっおっおれは見たんだ…さ、三メートルはある。かか、輝くランスフィッシュ!しかも宙に浮いていた!!…一目散に逃げた。後ろから叫び声がしたが、必死だったんだ。俺も、いい、生き残ることに必死だったんだ!」


男の内容から察するに、護衛兼手伝い役を雇って俺たちと同じように漁に出たんだろう。そこで一足先に奴に出会ってしまったのだ。アレは超人的な身体能力を持つカルミアで、ようやく受けることができる突撃を連発する。相手が悪すぎたんだ。受付のお姉さんは困ったように頬に手を当てる。


「ランスフィッシュのヌシはとても強力な個体で、ランスフィッシュを釣っている者を執拗に狙う傾向があるんです…今年は豊作だったのだけれど、これ以上は諦めるしかないのかしら…。ハァ…強すぎて討伐できるようなモンスターではなくて…。少なくともうちのギルドの所属員じゃ犠牲が大きすぎて割に合いません」


もしやこれは既に解決したのではないだろうか?俺が今両手で持っている巨大なランスフィッシュの頭は恐らくヌシと呼ばれる者の頭だろう。ヌシが何匹もいるならそれは困るが、数十年に一度と言われるのであれば、存在は一匹が前提と見て問題ないと思う。


「あの~、そのランスフィッシュ…」「あぁ!お、お、俺は全てを失った!仲間も船もダメになった!せめてあの憎き魚野郎に一泡吹かせてやりてぇよおおおお!」


「あの~、ですからそのラン」「うぉおおおおお!お、お、俺はなんて無力なんだああ!」


錯乱しまくっている男を落ち着けるのは無理だと判断した俺は、手に持っているランスフィッシュのヌシの頭をその男の前にそっと置いた。


「そうだ…この憎たらしい顔を見てみろ!まるでヌシだ!そうだろう!?奴に出会ったら俺はこんな風に顔だけにして蹴飛ばしてやるんだ!おらぁぁん!」


錯乱した男はヌシの頭を思い切り蹴飛ばして、受付のお姉さんの所まで転がす。


「…蹴飛ばしてやった…ぜ…ん?」「あら?」


キラキラした巨大頭。ギョロっとした目…そして尖ってて当たったら痛そうな槍の如き口。そこでお姉さんと錯乱男は、ソレが何なのか理解した。


「あれええええ!?」「えぇぇぇぇ!」


錯乱男は鎮静男にクラスチェンジして泡を吹いて倒れた。受付のお姉さんは驚いた顔をして、ランスフィッシュの頭と俺とで目線を何度も交差させている。


「も、もしかしてサトル様たちがこのヌシを…?討伐されたのでしょうか…!?」


「はい、その通りです」


この場にいた様々な人たちの雄叫びを皮切りに、しんみりとしたギルド内の空気が一変、お祭り騒ぎモードに突入した…!


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