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領主編 75話


 白銀の鎧を身につけ、同じく白銀の馬に跨った男が俺たちを見下ろす。その表情は人を蔑むことがさも当然であるかのような憎しみに満ちていた。


 …俺はこの町を預かる代表者だ。冷静に対処せねば


 「スターリム国王子のウィリアム様かとお見受けしました。此度の遠征はお伺いしておらず、急な出迎えとなってしまったこと、お詫び申し上げます」


 ウィリアム王子の表情が更に歪んだ。…何か間違えてしまったのだろうか


 「ま、まずは事情をお聞かせ願いたいのですが、どこか話せる場所にご案内いたします」


 「不要だ!」


 斬って捨てるように吐き出された言葉が、場を痛々しい沈黙で包む


 「ぼくがこの地に出向いた理由はひとつしかない。サトル、不当にこの地を圧政する暴君から、奪い返すためだ!!この地は、本来ぼくが治めるべき土地だったのだ!」


 ウィリアム王子が抜刀し、言葉の終わりと同時に俺へと向ける。カルミアが間に立ち、警戒を強めた


 王子の言葉に耐えかねた警備隊や住民、冒険者たちはそれぞれに好き放題言い始める


 「サトル様が暴君なわけないだろう!いい加減にしろ!」「そうよそうよ!何も知らないくせに!」「この町はお前なんかいなくてもやっていけている!」「友達を斬るような奴が信用できるか!」


 民衆の声が強まるにつれ、ウィリアム王子の馬がいななきを上げ、近衛兵が槍をこちらに向ける等の緊張した状況に変化していく


 ウィリアム王子は叫んだ


 「えぇい、黙れ黙れ!!今はそう思っているかもしれないが、成り上がりの圧政などいつかは破綻する!そのときになってはもう遅いのだ!ぼくはお前たちのことを考えての決断をしたんだ!高潔なる血を持つ者こそが、土地を治めるに値すると、神の誕生から決まっていることなのだ!!」


 俺は場を諫めつつ、話を続けた


 「俺は国王から許可を得てこの地を治める任を預かっています。王の次に権限が高い王子様のご意見も最もですが、国王の意に反することはできません。此度の決定は国王直々からの言ですか?」


 ウィリアム王子はたじろぎ、言い淀んだ


 「そ……そうだ!」


 「では、証明となる書状があるはずです。それを見せていただきたいのです。こうなっては民たちは納得しないでしょう。無駄な血が流れてしまいます。それをもって説得すれば、少なくともこの場は収められましょう」


 俺はウィリアム王子にとって失礼にならないよう精一杯お辞儀するが


 「急な任ゆえ、そのようなものは持っていない!王子の言葉を疑えば、反逆の罪に問われるのだぞ!」


 ダメだったか。書状がないなんて有り得ない。重要な決定ほど書面に残すのは当然だ。あのやり手の国王ならばそれを抜かることは絶対にしない。態度からしても王子の独断であるのは明らかだ。近衛兵も100人程度、すべて王子の息がかかった兵だろう。第一、正当な権利があるなら100人も近衛兵なんて連れてこない。書面だけ渡して俺を追い出せば済むからだ。もとから武力行使を考えていたと、状況から察する方が自然だ


 「お訪ねしたいのですが、書状があればこのような諍いは起きなかったでしょう。それに、警備隊の人を斬りつけて良い理由にかなっていない。なぜそのような物騒な人たちを束ね上げてこちらまで遠征されたのです。道中の護衛にしてはいささか過剰かと存じますが」


 ウィリアム王子は鼻で笑った


 「そのようなことか。愚民どもなどがどうなろうと知ったことではない」


 場がざわめく


 「邪魔をすれば斬る。発言を疑えば処分する。ぼくはそうやって生きてきた。ぼくのやることに疑問を覚える者は、すべて邪魔なのだ。いつだってぼくが覇道であり、正しい道を歩く。愚民はそれに付き従えば、恩恵を受けられる。それで良いではないか」


 思った以上にダメな王子だった……こんな奴に一日でも町を明け渡せばどうなるか火を見るより明らかだ。何よりも…


 「許せません」


 「なんだ…?サトル、声が小さいな。よく聞こえなかったぞ。言ってみろ。王子である、このぼくに」


 「ここで働く人たちはみんな、一人として欠けちゃいけない宝物です。あなたは俺の宝物を傷つけた。警備隊の彼は、真面目に仕事をしていただけなのに。ここ数日にわたって痛みを伴う闘病を強いられることになる。あなたのせいで。それに、みんなのことを愚民と蔑んだ。許せないことです。謝罪してください」


 「誰が頭など下げるか!王子であるぼくに数々なる無礼!許さないのはこちらとて同じ!兵よ、やつを斬れ!」


 近衛兵の一人が俺に近づくが、次の瞬間には近衛兵の武器はバラバラになって地面に落ちていた


 「ひいい!?な、なんだ!何が起こった!」


 近衛兵は腰を抜かして後退する


 「…サトルは、私が守るから」


 カルミアが刀を抜いてくれたのだろう。その剣筋は追えなかったが、こんなことができるのは彼女しかいない。


 ウィリアム王子は少し動揺するが、威勢の良さは変わらない


 「ふ、ふん…その槍は、例のアレじゃない。壊れても仕方がないだろう。まぁよい。そっちがその気なら考えがある。いくら強い側近がいても数で押されればどうにもならないだろう!きめた、この町を攻め滅ぼす!!」


 …何を言っているんだ。この王子は


 「ただ、ぼくも鬼じゃない。3時間だ。3時間の猶予をやる。ぼくに従うものは荷物をまとめてぼくの陣営までこい!命は保証されるぞ!愚民は貴重だからな!!ハハハハ!」


 喚き散らした王子は豪華なマントを翻して門から出ていく


 「いくぞ!おまえたち!……あ、そうそう、サトル君。ひとつ良いことを教えてやろう。ぼくの近衛兵はそちらの武具店で最も高い品を身に着けている。とても良い性能だよ。自分の町の生産品で攻め滅ぼされるってのはどんな気分だろうか!!ハハハハ!!」


 …結局、こうなってしまったか。


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