領主編 74話
カルミアを連れ、町の入口に急いだ。門前ではリンドウら自警団と王都近衛兵たちが向かい合い、互いに武器を向けている。あまり好意的な来訪とは言えないようだ。更に、近衛兵を連れてきた王子は、拡声の魔法を使い、定期的に町へアナウンスを行っていた。
「親愛なるスターリム国の市民たちよ。この地は、私、スターリム国王子のウィリアムが治めるに正当な権利があることを通達する。此度の遠征では、本来の所有者である私が、この地を返してもらいに来たということだ。かりそめの主、サトルは、あろうことか、父上をたぶらかし、正当なる土地の後継者である私から、この聖なる土地を奪い取った逆賊である。大義も正当性も我にある。自警団の皆も、市民、冒険者の皆も、どうか町に入ることを邪魔しないでいただきたい。邪魔をする場合、実力行使も検討する必要がある!親愛なる市民を傷つける気はない。繰り返す……親愛なるスターリム国の市民たちよ―――」
…めちゃくちゃだ。
単純に解釈すれば、ウィリアム王子は近衛兵を何百と王都から連れ出し、俺たちが開拓した土地を自らの物にしようと突然ソード・ノヴァエラにやってきた。そして、あろうことか、邪魔をする住民たちを傷つける手段すら考えていると言っている。本当に突然で、めちゃくちゃだ。俺をどう思おうが気にしないが、何の罪もない住民を傷つけるのは絶対に避けなければいけない。
「サトル、リンドウが近衛兵を攻撃しそうよ」
カルミアが指をさした先には、怒り心頭なリンドウがまさに精霊攻撃を加えようとしていた。だめだ、それは奴の思うつぼだ。今攻撃すれば、逆賊の仲間などと言って鬼の首を取ったよう突撃をしてくるだろう。
「ちょっと待ったぁー!」
俺は急いで一触即発の両者の間に立つ。
「さ、サトルさま!?」
「サトルだ!奴がきたぞ!」「ウィリアム様へお伝えしろ!」
リンドウは驚いて魔法を中断し、向かい合っていた近衛兵はウィリアムの元へ走っていった
「リンドウさん、そして自警団の皆さん。まずは町を守ろうとしてくれてありがとう。でも、今攻撃するのはまずいからこらえてほしい。そして状況は…まぁ、見れば何となくわかるけど、リンドウさんから見た経緯を教えてくれるかな?」
リンドウは錫杖を下げて、優雅な会釈をしたあとに言葉を紡ぐ
「はい、サトルさま。奴ら、何の前触れもなくやってきたのです。そして、事情を聞こうとした自警団の一人を、進路の邪魔だと斬りつけましたの。騒ぎが大きくなって人が集まると、ウィリアム王子が前線を近衛兵で固めて、すぐにこの町を明け渡せと拡声の魔法を繰り返し始めましたのよ。私はすぐにサトルさまに伝令をお送りしましたの」
リンドウの言葉に同調するように、自警団のみんなも声を荒げる
「あんな奴が王の子供など信じられない!」「ただの賊は向こうだ!」「ここはサトル様と我々で築き上げた場所だ!」「そうだそうだ!」「斬られたのは友達だった!あいつに町を渡すくらいなら戦って死ぬ!」
…まずいな。住民たちのボルテージがあがっている
正直、住民に被害がでなければ、王子の好きにさせても良いと思っていたが、ここのみんなはそれで納得してくれるようには見えないな…たとえ明け渡しても、長期的に見て内部分裂から被害が拡大するのであれば意味がない。であれば少し方針を変えなければならない。まずは冷静にだ。
「わかりました!皆さんの気持ちはしっかり受け止めました!」
俺は、一度みんなの注目を集めて次第に大きくなっていく民衆の声を抑えた
「たしかに、皆と一緒に作り上げた町を、なんの納得のいく説明もなく明け渡すなど、到底受け入れられるものではありません」
民衆はそうだそうだ!と声をそろえた
「ただ、見る限りあの方は謁見の時に一目みたウィリアム王子で間違いないでしょう。ですから、どんな経緯があってのことなのか、町を代表して聞いてみます。理由を知れば、何かわかるかもしれません。どうか怒りを鎮めてください」
説得もある程度通じたのか、住民たちは顔を見合わせて握りしめた武器を、ひとまず腰の下に降ろし始める…しかし……
「そうだ…お前たちは、素直にぼくの言うことを聞いていればいい」
自信に満ちた声が近衛兵をかき分けて現れる。ウィリアム王子だ。