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領主編 73話


 ソード・ノヴァエラに帰還した。ネオたちパーティーは酒場に行って初仕事のお祝いをしている。俺とオーパスはシールドウェストのギルドマスターに事の経緯を説明している最中なのだが…


 「ふぅ~む……」


 無駄に姿勢の良いおじさんの反応は唸ってばかりで芳しくない。ギルドの応接室内がピリついた雰囲気だ。隣のオーパスが貧乏ゆすりを始める。


 「何か、問題でもありましたか…?」


 俺が声をかけてみるとギルドマスターは姿勢を崩さず一瞥する


 「いえ、サトル殿に対して問題は微塵もありませんよ。それに、今回の報告にあったオーガは完全にイレギュラー。戦力を投入して介入するのは当然のことです……」


 「そうですね。それは当然です」


 俺の返しにギルドマスターの目が鋭くなる


 「一つ目の問題はここなのですが、報告にはネオ君が突然戦闘能力を開花させたとあります。納品いただいたオーガの死体を調べさせてもらったのですが、オーガの丈夫な歯が粉々に、そして顔は半分も陥没していました。ネオ君にそれとなく討伐方法を聞いてみたところ、突然力が湧いてきてシールドバッシュが使えるようになった。と仰っていました。その湧き出る力によって、鋼のようなオーガを戦闘不能に追いやった。っと……常識的に考えると、いや、これは常識の範疇の外です。たとえ、高性能な武具を使ったとしても、駆け出しが使う武具の数打ち品が、これほどまでに力を向上させるものなのでしょうか。これではまるで『力を分け与えられた』ようじゃないですか。そして常識を破る中心にいるのはいつも君なのです。サトル君」


 ギクリ……


 効果音が出るなら、今のギルドマスターの目はキュピンと輝いているところだろうか。


 「『何か』をしましたね…?サトル君」


 ドキリンコ……


 「俺がバードの能力でネオの力を引き出した。俺が―」


 オーパスが助け舟を出すが、途中でギルドマスターが咳払いをする


 「ゴホン…バードの力には、確かに能力を向上させるものが多い。強いバードなら戦局を変えてしまうでしょう。ですが、どんなレジェンドでもシールドバッシュを使えるようになったなど、新しい能力を付与することはできない。それも永続的にです」


 オーパスの貧乏ゆすりが激しくなった。どうやらギルドマスターが気に入らないらしい。


 「これはオーパスの試練であり、ネオ君の試練でもありました。サトル殿が手を貸してしまえば、試練の意味など無くなってしまいますよ」


 「す、すみません…」


 ここまで突き詰められちゃ言い訳はできない。俺は素直に謝った。


 ギルドマスターは何度か頷き、話を進める


 「うんうん、素直に謝るのは良いことです。その能力について教えていただければもっと良いのですが……まぁ、このあたりで勘弁して差し上げましょうか。いずれにしてもオーガはイレギュラーでした。試練の範囲からは外してよいでしょう」


 「寛大な措置に感謝します」


 「いえいえ、サトル殿はたいへん素晴らしい対応でした。それと、爵位をお持ちの貴方がかしこまっては、私が困ってしまいます」


 …ギルドマスターはこの町を良くしようと動いてくれている。そんな貴重な意見を『生意気だ!』などと爵位をかさにした発言でつぶすわけにはいかない。


 「ギルドマスターはこのギルドを本当に良くしようと動いています。その高潔さに立場は関係ありませんよ。立場が邪魔をして意見が滞ってしまうなら、俺は立場なんていりませんから。忌憚のない意見に感謝しているのです」


 ギルドマスターは一瞬だけ驚いた顔をするが、すぐにすました顔に戻った。


 「あぁ、本当に、サトル殿がシールドウェストから離れたことが残念でなりません…。シールドウェスト全体の損失です。さて、二つ目の問題に移りましょうか、オーパスあなたの対応についてです」


 「なんだ?じじい、俺はやることはやったぞ」


 ギルドマスターは顔の半分を手で覆う


 「たしかに、貴方はネオ君を立派な冒険者にしてくれました。それは感謝いたします。しかし、その手段はいささか強引すぎるのでは?」


 「どういう意味だよ?」


 「まず、ネオ君がもっている武具はオーメル武具店のものでしょう。金額からして駆け出しが持てるものとは思えません。貴方のポケットマネーですよね?」


 「一番手っ取り早い方法だろうが」


 「ですが、貴方がギルドマスターになったらすべての駆け出しに貴方が身を切って武具を提供するのですか?」


 「……それは」


 「それじゃ貴方が救われない。武具を与える必要があると判断したのであれば、その仕組みを作ればよかったのです。それがこのギルドに足りていない部分だった。貴方はそれを早期に見つけておきながら、自分自身で完結してしまったのです。臨時といえどギルドマスター。武具をギルドの経費から貸し出す仕組みを作れば、私は貴方の評価を引き上げたでしょう。オーパス、貴方は能力のある人間です。だからこそ組織を頼ることを忘れて一人で行動してしまうのです。なまじ解決し叶えてしまう能力があるから。ですが、それは貴方にとっても、ギルドにとっても良くない結果になります」


 ギルドマスターは懐から袋を取り出し机に置いた。中を開けるように示すと、オーパスがしぶしぶ中を開ける。中にはネオに使った分の金貨が全額入っていた


 「これ…じじい、何で―」


 「受け取っておきなさい。今回の試験の給料です」


 「受け取れるわけねぇだろ!俺の失態なんだろう!?」


 「受け取りなさいと言っているのです!次から改善すれば良いのです!」


 二人は袋の押し付け合いバトルを始めた


 …試験の給料…?まぁ、ギルドマスターなりに思いやっての行動だったのだろう。素直じゃないという部分でいえばオーパスにそっくりだ


 「オーパスさん、ギルドマスターの気持ちだよ。受け取ってあげて」


 俺の声でオーパスは黙って受け取ったが、終始不満そうな表情である。二人きりだと話が進まなさそうなので、俺が話を進める


 「あ~…そうだ、ギルドマスター。試験は合格ということでよろしいでしょうか?」


 「ふぅむ……まぁ、及第点というところでしょうか。合格です。やり方は強引でしたが、これから学べば良いこと。さしずめギルドマスターとしてのEランクといったところでしょうか」


 「なんだと!?」


 もはや犬猿の仲と化したな……。


 どうにか峠は越えた気分で、ほっと深く椅子に腰かける


 これで、オーパスはギルドマスターとしての人生を歩み始める。これが正しかったのかどうかは分からないが、少なくとも彼なら駆け出しと同じ歩幅で歩いてくれるだろう。ギルドマスターのやり方も、オーパスのやり方も間違いじゃない。


 ほっとしながら二人の言い合いを聞いていると、応接室のドアが乱暴に開かれる


 「サトル様、サトル様はいますか!?」


 町の自警団の一人、竜人族の男だ。額には汗を、呼吸は乱れている。


 「何事です」


 ギルドマスターとオーパスもただならぬ気配を感じ取って、取っ組み合いをやめて立ち上がった


 「ここにおられると聞いて。いて良かったです。た、大変なのです。門にスターリムのウィリアム王子が、近衛兵も引き連れています!」


 …王子が、来訪…?しかも兵をつれて?どういうことだ


 「すぐに会おう。カルミアさんを呼んでくれ」


 「承知いたしました!」




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