領主編 71話
ネオの呼びかけに応えてくれた数人とパーティーを組んで、魔物の討伐を行うようだ。討伐対象はスタージの群れ。スタージはコウモリの体にヘビをくっつけたような不気味な魔物の一種で、基本的には群れで活動する。放っておけばゴブリン並みに増殖するので、定期的な間引きが必要になるのだ。
パーティーの構成は前衛のネオと槍使いの男。後衛はヒーラーの女の子とスカウトで短刀使いの女性だ。全員人間族で、バランスの良いクラス配分だと思う。ただ、スタージは空を飛ぶので対空手段がないのが少し気がかりだな。
…少し心配になったので、オーパスに提案を申し出てみる
「オーパスさん、俺としては付き添いしてあげたいけど、どうする?直接手を貸さなければ問題にはならないと思うけど……」
「サトルの兄貴がそう言うのであれば……釘をさすようだが、俺たちは見ているだけですぜ」
ネオとの話し合いも終わったのか、彼らは俺とオーパスへ軽く会釈をして狩りに向かった。パーティーの一人の槍使いは親指を立てて、心配そうなオーパスへ
「大丈夫だぜ!俺たちがネオ君の面倒みてやるからよ!」
と言いいネオの手を引いていった。
ネオは引っ張られながらもオーパスと俺へ手をふる
「オーパスさん!サトルさん、いってきまぁ~~す!」
…ネオはいろいろな人に引っ張られてばかりだな……
俺たちも行動開始しよう。彼らには悪いが、後をつける。オーパスの試験もかかっていることだし、依頼失敗になったらどうしようもないからな。
・・
ソード・ノヴァエラ近郊
未開拓地であり、通常よりも強い個体の魔物が出現するこの近郊では、主に駆け出しの冒険者が間引きの依頼を受けて日夜狩りに励んでいる。スタージという魔物も例外ではなく、都市周辺に出現するものよりもずっと大きく、素早く、強い。
駆け出し冒険者たちとパーティーを組んだネオは初めての依頼、そして、初めての魔物に苦戦していた。
「そこ!もう一匹くるよ!アタイが抑えるから回復魔法をネオくんに!」「はい!」
巣があるという場所付近で、3匹のスタージが襲いかかってきた。
「ぼ、ぼくは……大丈夫ですから!!くそ、こいつ!」
ネオは剣のリーチを伸ばし、飛び回るスタージをけん制して時間を稼いでいる。
前線を支えるのはネオだけになっている。というのも、突然奇襲されたせいもあるが、槍使いはスタージの体当たりで気絶し早々に戦線を離脱したのだ。
どうやら普通の鉄製武具しか装備していなかったようなのだ。槍使いの胸当ては大きく凹み、使い物にならなくなっていた。
…王都周辺であれば、スタージ程度の魔物は適当な防具で間に合うかもしれない。だがここは魔窟ともいえる未開の地。何の変哲もない武具では役不足。レベルも装備も知見も足りないのであれば、一発でのされるのも仕方がない。彼は準備を怠ったのだ。
伸びきっている槍使いに回復魔法をかけていた少女は、槍使いへの回復をあきらめて、ネオの元に走る
一匹のスタージがキーキー鳴いて、少女の背中を鋭い爪で切り裂こうとするが、スカウトの女性がそれを止めた。
「アタイの全財産費やしたミラージュの武器をなめんなよぉ!」
スカウトの女性は短刀をうまくつかってスタージの爪を防御し、もう片手の短刀で魔物の首を簡単に切り裂いた!
少女は振り向き、お辞儀をする
「あ、ありがとうございます!」
「いいから!早くネオくんを!」
ネオはこの間に一体を仕留めたが、もう一体仕留めるほどの余裕は無くなっていた。生傷が増え、息も上がっている。少女はすぐに回復魔法を唱え始めた
「[レッサーキュア・ライトウーンズ]」
ネオの傷が徐々に回復したおかげで、防御から攻撃に転じることができた。最後の一匹を切り裂いたネオは、大きく息をついて地面に寝転がった
「ふぅ~~…はぁ、はぁ……なんとか…はぁ、ふぅ、倒しました!」
「やるじゃないか!ネオくん!」「す、すごいです…初めてとは、思えません!」
スカウトの女性とヒーラーの女の子に囲まれて褒められたネオは顔を赤くする
「そ、そんなことないですよ…」
槍使いがネオの肩によりかかる
「あぁ!俺たち、良いパーティーになれそうだな!」
しれっと会話の輪に入ってきた槍使い。先ほどまで伸びていたが、回復魔法が効いたのか復活し、ピンピンしていた
スカウトの女性は拳を握りしめて歯ぎしりしたあとに怒声を放つ
「お前以外はな!さっきの窮地はお前が一番最初に伸びたせいだろう!死ぬところだったんだぞ!ネオたちに感謝しろ!…第一なんだその防具は!赤く色を塗っただけのラグナ重工のパチモン…ただの鉄製の胸当てじゃないか!ここじゃ、そんなもん役に立たないの知っているだろう!」
まくし立てるスカウトに槍使いは冷や汗をかきながら言い訳をした
「違う!違うって、だましたのは悪かった。でも武具が高くて買えない悩みはわかってくれるだろう!?ほら、この槍は本物だ。市場で中古で金貨3枚で売っていたから間違いない」
ネオは首をかしげる。自分が武具屋に行ったとき、陳列されていたものは、どれもが安くても金貨何百枚と書かれていたものばかりだったからだ。フルカスタムメイドなんて恐ろしい金額だった。
「金貨3枚って…ソード・ノヴァエラの武具屋にしては、かなり安いですよね……?中古って言いましたが、本物なのでしょうか……」
槍使いは焦っているのか、すぐに言葉を被せてきた
「ほ、本当だって!そいつは槍より剣が好きだから鞍替えするためって言っていたぞ」
スカウトの女性は大きくため息をつく。
懐疑的な視線を受けている中、それは現れた
「ヴォオオオオオ!!」
オーガだ。…大柄でこん棒を持っている。オーガはネオたちが間引く予定だったスタージの巣を引きちぎり、片手で貪っている。どうやら、自分の餌になる予定だったスタージを横取りさせると思ったようだ。威嚇まじりにこん棒を地面にたたきつけてネオたちを追い払おうとするが……
「この武器が本物だって証明してやるぜぇー!!」
槍使いは実力差を省みず突進し、槍をオーガへ突き立てた
威勢は良かったものの、槍はオーガの腹を貫くことは無く、皮膚に触れた段階で刃元からボキっと嫌な音を立てて折れてしまった。
「……あれーおかしいぃぞぅ――ッゴハァ!!」
オーガは怒り狂って槍使いをこん棒で横なぎに払う。槍使いは近くの大木に叩きつけられ、また気絶した。雄たけびを上げるオーガは次は誰だとネオたちに目を向ける……
「ヴォオオオオ!」
・・
「まずいな…サトルの兄貴、これは想定外だ。試験は仕方がないが助けに向かう」
俺はオーパスの肩をつかんだ
「待ってくれ、確かに強敵だけど、まだネオたちは諦めていない」
「でもこのままじゃ…」
「大丈夫、俺に考えがある。とにかく近くまで行こう」
・・
「ヴォオオオオ!」
オーガはネオに向かってこん棒を振り下ろす。ネオは大盾モードで展開し、攻撃をやり過ごす
ゴォン!と強い衝撃音が響いた
「あと何回かは持ちそうです!この間に二人は逃げて!」
激しい攻撃にも関わらず、ネオは一歩も引かなかった。その姿に勇気づけられたのか二人共戦う姿勢だ
「そんなこといって、ネオくんを見殺しになんてできないだろ!」「あたしも、最後まで戦います…」
ネオは二人の言葉に激しく心を揺さぶられる
何故なら、勇敢に戦っても命を落とす未来しか考えられなかったから。自分だけが死ぬのであればまだよかった。でも、出会ったばかりのネオ自身に命を預ける人を助けられないことに、悲しみや怒りが交じり合った感情が押し寄せてくるのだ。
…どうして自分にはもっと力がないのだろうか。分不相応にも冒険者を目指してしまったのが悪いのだろうか。自分のせいで人がまた死ぬのか。
オークの一撃が振り下ろされる。2発目もなんとか耐えきったが、あと一発は無理だ。
後悔の念で押しつぶされそうになったとき、自分が庇ってもらった時のことを思い出す。
自分の今の命は、あのナイトさんに紡いでもらったものだ。
助けてもらった命は、助けてお返しするべきだ。だから僕はナイトになりたい。こんなところで……
「こんなところでぇええええ!!」
オーガの三発目も盾で受け返す
*ネオのクラスチェンジが可能です*
視界が揺らぐが、その先にサトルの影を見た。…なぜサトルさんがこんなところに?
「よくやった、ネオ君。クラスチェンジだ!」
ネオの体が輝き始める




