領主編 70話
金貨数を修正しました
ネオは剣と小盾を手に取った。剣と小盾は少し不自然に分厚いことがわかるが、それは驚くほど軽く、まるで重量を感じさせない。手にしたその時から、まるで何十年も共に歩んできた道具のような錯覚すら覚えた。
「す…すごい。手に馴染みます。それに、すごく頑丈そうなのに、まるで誰かに支えてもらっているみたいに軽い…!?どうして……すごい」
ドワーフは得意になって商品の説明をする
「そりゃそうだろう。サトル様とイミス殿が考案された技術が集約されているからな。それにわしらが丹精込めて作った武具だ。驚くのはまだ早い。幾つか特別な仕様もあるぞい」
そういうとドワーフはネオの持っている盾のつまみについたボタンを押すように指示した。ネオは言われた通りに小さなボタンを押すと…
「わわ!?盾がどんどん開いていく…!」
何層にも鋼を重ねたようなバックラーが駆動し、盾の装甲がまるで花のように展開した!小さな分厚いバックラーは面積が大きくなり、サイズ的には大盾と差し支えないものに早変わりしたのだ。花の合間を縫うように盾には魔力が宿っており、強度を高めているのが分かる。見た目だけなら芸術品と言われても納得するレベルで綺麗だった。
「わはは!どうだ!その盾は名付けて、『ブロッサミング・バックラー』という。バックラーと大盾モードで自在に切り替えることができるのだ!大盾の時はゴーレムの駆動をそっちに割いているから重くなるのが難点だが…とと、これは秘密だったな。……とにかく防御力はすごいぞ!」
オーメル店らしい盾だ。ラグナ重工であれば盾は無骨なデザインで防御力一点のみを極めるだろう。ミラージュであれば、軽さと実用性を追求する。オーメル店であれば……変形か。やっぱり変わり者の好む店という感じだ。
武具に搭載されているゴーレムのパワーアシストでも大盾は厳しかったのか、このモードではさすがに手に持ち構えることが難しいようで、ネオはもう一度ボタンを押して大盾モードをすぐに解除する。すると大きな花となった盾は素早く折りたたまれて、丸形のバックラーにもどった。
ネオは剣にも同様に、持ち手にボタンが搭載されていることに気が付いた。
「そ、それじゃあこれも…!?」
「あぁ、押してみな」
ネオが剣のボタンを恐る恐る押すと、不自然に分厚い剣はガチャンガチャンと重々しい音をたてて刀身を伸ばすように変形し、リーチの長い大剣となった。変形までの時間がほぼノータイムで刀身が伸びるので、銛のように不意打ちにも使えそうだ。
「うわ…音が…こわい!?それになんだか凶悪そうな武器に…でも盾のときみたいに重くはならないみたいです」
「駆動がシンプルだからな。パワーアシストがついている。それに、坊主じゃ大剣なんて持てないだろう」
「う…たしかにそうですけど…でも、これ…すごく気に入りました!」
ネオは剣と盾を大事そうに持って、決意する
「これで僕だって冒険者だ。これさえあればみんなを守れる騎士になれるんだ。そして…」
ドワーフは頬をポリポリとかいて、バツが悪そうに言った。
「あーその。やる気を出しているところ悪いが、これは坊主に買えるほど安くないぞ。あと、その剣と盾は大剣と大盾に変形できることをコンセプトとしていて、状況に応じて使い分けできるのが強みだが、どちらかと言えばパーティー向けの武具だ。ソロじゃ大盾なんざ使わないからな。坊主はパーティーメンバーはいるのか?」
オーパスが割って入る
「金のことなら心配いらねぇよ。ドワーフの旦那。今回は俺が持つ」
「ほう……」「あらあら、ウフフ」
ドワーフと店員さんがニヤニヤとオーパスを見つめるが、オーパスは試験だから仕方がなくだと言って、話をそらすように、すぐにネオへ違う話題を送った
「おいネオ、お前パーティーメンバーいねぇだろ。先に外でてろ。会計済ませてパーティーメンバーを斡旋してやる」
「え…でも、僕は一人でも大丈夫です。迷惑をかけるわけには――」
「バカ言ってんじゃねぇ!」
「ひい!?」
オーパスの怒鳴り声にネオはすくんだ
「ドワーフの旦那も言っていただろう。認めて知ることが大事だと。武器や防具もそうだが、自分に力が無いと思うのなら、自分以外のすべてを頼るべきなんだよ。無駄なプライドも信念も遠慮もいらねぇ、使えるもん全部使って、強くなるんだ。弱いなら弱いなりに頭を使え!武器、仲間、アイテム、地形、天候。全てを味方につけて、自分より強い相手を倒すんだよ!分かったか!ってなぁ!!」
「ひゃい!!」
ネオは逃げるように武具を抱えて店を出た
「まったく…手がかかってありゃしねぇ」
「オーパスさん、優しいんだね」
俺がオーパスに笑顔を向けると、オーパスは顔を赤くして会計に急ぐ
「サトルの兄貴…勘弁してくだせぇ」
ドワーフも店員さんもニヨニヨしながらカウンターに立っている。ドワーフはひげを撫でながら言った
「良いものを見させてもらったお礼に、一割引きでおまけしてやろう。」
オーパスは何も言わず財布を取り出す
「で、いくらだ…?」
店員さんが爽やかな声で地獄の沙汰を下した
「初心者さん限定の剣盾オリジナル一点物セット。割引致しまして、金貨86枚でございまーす♪」
オーパスは財布に手を伸ばした状態で石化の状態異常にかかったようだ。
・・
オーパスはネオを連れて冒険者ギルドに戻った。道中、表情を崩さなかったのはすごい精神力だなと密かな賞賛を送ったのは言うまでもない。
「ついたぞ。冒険者登録がまだだったろ、ついでにやってこい」
オーパスはネオの背中をバシっと押して受付まで歩かせた。二人してネオの初々しい登録の様を見届ける。
…そういえば俺、普通にギルドでパーティーを募集したことがなかった気がする。カルミアやサリー、イミスたちの出会いも流れで会ったようなものだから、実際にはどうやって組むのかを俺は知らない。興味本位でオーパスに聞いてみた。
「オーパスさん、パーティーメンバーってどうやって探したら良いの?」
オーパスは顔をしかめて、しばらく考え込んだあと困った表情になる
「そりゃ…最高ランクである冒険者のサトルの兄貴と組める奴なんざ、限られているでしょうよ…俺も知りたいくらいだ」
…どうやらオーパスは俺が新たにパーティーメンバーを探しているのだと勘違いしたようだ。
「あぁ、違うよ。ネオのパーティーメンバーをどうやって探すのかなってさ」
「…そういうことですかい。普通は掲示板の前に立っている奴に声をかけるのが一般的な方法ですぜ。その辺で飲んだくれているのに声をかけるもんもいるっちゃいるが……まぁ、よほど困っていない限りそういう方法は取らない。クランとか、大きな団体持ちがいる場合は冒険者ギルドの前に立って勧誘したりしているケースもあるな……初心者はそっちのが入りやすい」
「クランってなんだ?」
TRPGじゃ聞かない言葉だ。テレビゲームなんかでは少し耳に入れたことがある。
「クランはパーティーメンバーを何十人も持っている人をリーダーとした団体のことですぜ。冒険するのに何十人と常に引き連れて依頼を受けるのはいろいろと無理がある。だから、大きくなったパーティーはクランって形式をとって連携を図ったりする。そんなクランは大抵、相互扶助が基本理念だが…実態はリーダーによる搾取ってケースが多い。だから王都では定期的にクランの健全化を図る目的でリーダー同士の話し合いや交流、大会の場を設けたりしているって話だ。ちなみに俺はイエローアイという集団をまとめていたが、そんな話し合いは苦手だから参加したことはねぇな。スタンピードだらけで、それどころじゃなかった…てのもあるが。あと、ここに来ると決めたときにイエローアイは解散させた。一部のメンバーは一緒についてきたが、大多数はハルバードウツセミに残ったぜ」
オーパスは少し懐かしんだ顔で黄色いバンダナをさする
「横暴な俺に、ここまでついてきてくれた連中のことを思うと、この黄色い布は外すに外せねぇんだよな」
そんな話をしているうちに、ネオの登録が終わった。
「オーパスさーん!終わりましたー!ぼく、冒険者になりましたよおお~!!」
ネオは笑顔を輝かせてまだ傷一つないツルツルのギルドカードを掲げる
オーパスは頷いて、掲示板のほうを指す
「よし、じゃあ当たって砕けてこい!!」
「ほへ…?」
ネオはキョトンとした顔だ
「仲間を探すのだろう!まずは掲示板にいる奴に声をかけるんだってなぁ!!」
オーパスの怒声が響く。あまりにも声が大きいので掲示板ので討伐依頼を見ていた冒険者たちもネオとオーパスのほうを見て、事情を察知したのかネオが声をかけてくれるのを優しい顔で待っている!
「ええ!?ぼぼぼ、ぼくが、一人で!?一緒にきてくださいよ、オーパスさん!」
「ダメだ!自分の命を預ける仲間だ。お前が声をかけて頭を下げないでどうするんだ!ほら、いってこい!!てなぁーー!!」
オーパスは今日何度目かになるネオの背中をバシンと叩いて送る
「ひゃい!」
ネオはロボットムーブで掲示板の前に歩いていく
オーパスの声がでかすぎてギルド内で事情が筒抜けなので、依頼を見ていた冒険者たちはネオが声をかけるまで、依頼を選んでいるフリをしたり、声をかけやすそうに装備を整えるフリをしたりして空気を読んでくれている。なかにはネオのことを凝視して、声をかけてくれるのを待っている子までいた。…なんて優しい世界!!ただ、凝視は逆効果な気がする!?
ネオは緊張しつつも、誰に言っているのか分からない程度の距離で自己紹介して頭を下げた
「ぼぼぼ、僕はネオです!剣と盾です!盾は広がります!剣も…広がります!初めてです!よ、よろしくお願いいたします!!」
まるで意味不明な自己紹介を済ませるネオだが、待ってましたと冒険者たちはネオの周りに集まってくれた
「俺は槍使いだ。よろしくな」「あの、私も初心者です。回復魔法を使えます」「アタイはスカウトだ。二刀短剣を使う」
俺の心が荒んでいたのだろうか。もっと悲惨な結果を想定していたのでフォローに入る準備をしていたのだが、すべて杞憂だった。勇気を出すって大事なんだ。