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領主編 67話


 冒険者ギルドの受付用紙に記載された内容を読み込むオーパス。そこには何の戦闘スキルも経験も無い、まっさらな空欄に「ネオ」という名前だけが記載されていた。悲惨な状況に思わず唸って皮肉めいた愚痴をこぼす


 「むうう……こいつをいっぱしにしろだって?…何年先の話だってんだ。奴は俺をサトルの兄貴に近づけないために嫌がらせしてんじゃねえかって疑い始めたぞ」


 それを聞いた新人ちゃんのネオの目線は下に落ちるが、やがて決心したようにオーパスに向かい合った


 「あの!…ぼく、ネオって言います。一生懸命がんばりますから、ここで冒険者として活動することを許してください!」


 オーパスはため息をついた


 「ふぅ……ネオって言ったか。なぁ…お前さんはどうして冒険者に成りたいんだ。しかもこんな強い魔物がいる土地の冒険者にだ。知っていると思うが、ここはサトルの兄貴が開拓している町だ。スターリム国でも注力されているプロジェクトで、今はお金が集中する場所でもある。最近はカジノが出来たし、酒場は常に人でいっぱいだ。今後も新たな施設が建設されるだろうさ。至る所が人手不足で、正直仕事を選ばなきゃ安全で割の良い仕事やチャンスなんて、ここには幾らでも転がってるんだ。カジノの従業員なんて王宮の正規兵に匹敵する待遇なんだ…なのになぜわざわざ危険な冒険者を選ぶ?」


 ネオは暫く口を結んでいたが、ぽつぽつと小さな声で話始めた


 「僕は……僕は元々シールウェスト外れの農村育ちの者です。両親は、僕の小さいときに、家畜を庇ってはぐれゴブリンに殺されてしまいました。良くも悪くも自然と隣合わせの生活を続けていて、なんとなく日々の繰り返しに嫌気がさしたときでした。時偶村に訪れる商人が、宿屋の食事処で開拓地の世間話を村長としているのを耳に挟みました。サトル様の噂や、新たな都市計画の噂は、そんな小さな農村にも届いたほどのビッグニュースだったのです。僕はこのまま一生をこの小さな村で終えることに疑問を感じていたんです。新たな開拓地にはチャンスと夢が溢れているって。居ても立っても居られずに村を出たのです」


 オーパスはネオの話をしっかりと正面から聞き続けている


 「家畜と家を売り払ったお金を握りしめて、シールウェストの乗り合いから、ソード・ノヴァエラ行きの定期馬車が出ていたので、冒険者さんたちと身を寄せ合ってここまでたどり着きました。道中までは、チャンスがあれば正直どの仕事でも良かったって思っていたのです。農村育ちの体力と根性だけはありますからね。早起きも得意なんですよ。……噂に聞いていた通り、シールウェストから未開拓の西に向かうにつれて、魔物が不自然なほど強く、大きく、凶暴になって、乗り合い馬車を何度も襲撃しました。冒険者さんたちはその度に、馬車を降り、命をかけて身を挺して僕たちや商人さんを庇って戦ってくれたんです。その戦いを、一番身近に見ていたのは僕でした」


 会話の行き着く先を想定できたのか、オーパスの眉のしわが深くなる


 「戦いのあとは、常に僕たちを気遣ってくれた冒険者さんたちは、僕には誰よりも格好いいヒーローに見えたんです。その中で、ナイトクラスの冒険者さんとはすぐに意気投合して、野営も一緒にしてもらって色々と身の上話を聞かせてもらいました。聞けばその人も冒険者を始めたばかりだったようで、冒険者育成と支援に力を入れている開拓地で、新しいチャンスと仲間を探すために馬車に乗ったと言っていたんです」


 ネオは自身の胸に手をあてる


 「……そうか」


 オーパスは一言だけ返答した


 「はい……ソード・ノヴァエラまで到着あと半日という距離でした。勾配から成人4人分ほどある背丈の大型の魔物…皆はオーガって言ってました。それが現れたんです。いつものように、すぐに冒険者さんたち総出で戦いを始めました。数十分という激戦の末、多数の負傷者を出しながらも、あと一歩というところまで追い詰めたんですが、オーガが苦し紛れに、土をえぐって馬車に向かって投擲したんです。僕はいつものように、危機感もなく、頑丈な馬車から降りてしまっていて…そこでヒーローたちの戦いを見ていたのですが、油断していた僕はその土塊にぶつかりそうになったんです。すぐ馬車に上がるとか、身を引っ込めればよかっただけの話なのですが、身が竦んでしまって、体が動きませんでした」


 「…」


 「ぼ、僕と一番親しくしてくれたナイトさんは、ぼ、僕を庇うために………うぅ」


 ネオの表情は悔しさとやるせない気持ちと、自身への怒りで混濁している。やがて、どうにか呼吸を整えて言葉をきって発言する


 「ぼくが……僕が殺したようなものだ」



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